TRUST 02
出勤すると、まずロッカールームへと向かう。
個々に割り当てられたロッカーは当然施錠出来るもので、私物と郵便物が収められるようになっていた。
とはいえ私物らしい私物は、ほとんど無いに等しい。
用事は大抵メールで済まされる為、個人宛の郵便物が届くことも滅多に無かった。
それでも一応は確認をしなければならないので、社員は毎日そこに足を運ぶことになる。
克哉がロッカーを開けると、メールボックスに茶封筒が一通入っていた。
手に取ってみると、酷く軽い。
差出人を確かめようと、封筒の裏も表も見てみたが、それらしき名前はどこにも書いていなかった。
「……なんだろ」
奇妙に感じながらも、それを持ってオフィスへと向かう。
同僚達と挨拶を交わし、空いているデスクに腰掛けると、早速封を切った。
「―――!!」
中身を一目見て、すぐさま封筒に戻す。
それからそれを握り締めたまま、慌ててオフィスを飛び出すと、トイレに駆け込んだ。
個室に入り、鍵を閉める。
克哉の心臓は早鐘を打ち、封筒を握る手は震えていた。
大きく深呼吸してから、もう一度中身を取り出してみる。
入っていたのは、三枚の写真だった。
一枚目に写っていたのは、御堂のマンションのエントランスから出てくる自分と御堂の姿。
もう一枚は、やはり御堂のマンションの前で、タクシーを降りる自分と御堂の姿。
そして最後の一枚には、先週行われた花見の帰りに撮られたらしい、自分と御堂の姿があった。
それ以外には、何も入っていない。
「なんだよ、これ……」
克哉は信じられないような気持ちで呟く。
そしてその写真を、何度も繰り返し見つめた。
写真には日付が入っていて、どれもそれぞれ別の日に撮られたものであることが分かる。
最後の花見帰りの写真に至っては、二人が手を繋いでいるところがしっかりと写っていた。
「最悪だ……」
克哉は自分の愚かさを呪った。
誰に何処で見られるとも分からないのだから、外ではもっと気をつけるべきだったのだ。
雰囲気に任せて調子に乗った自分を悔やむも、どうしようもない。
克哉はへなへなと便座に座り込むと、大きな溜息をついた。
「誰だよ、こんなことするの……」
自分の迂闊さを棚に上げて、つい恨めしげに呟いてしまう。
これはどう見てもプロの仕事だ。
恐らくは、誰かが探偵にでも依頼して写真を撮らせたのだろう。
依頼したのは社内の人間か、もしくは社内の人間と繋がりのある者か。
どちらにせよ、御堂や克哉に対して悪感情を持っている者の仕業には違いない。
いったい、誰が―――。
克哉は唇を噛んで、手の中の写真を握り潰した。
書類に目を通し終わると、ようやく御堂が顔を上げた。
「いいだろう。スケジュールが厳しそうだが、大丈夫か?」
「はい。必ず、間に合わせます」
「そうか。任せたぞ」
「はい」
戻された書類を受け取りながら、克哉は改めて姿勢を正す。
御堂から寄せられる信頼は、ふとしたことで挫けそうになる克哉の心をいつでも強くしてくれた。
けれど、今は―――あの写真のことが頭から離れない。
この書類を作るときも、普段なら決してするはずのないミスを、精査の段階で幾つも見つけてしまったのだ。
今の自分では不安だったので、最後には原田に見直しをお願いしたほどだった。
こんなことでは駄目だ。
こういう時こそ、冷静にならなければいけない。
相手には何か、目的があると思われる。
単純に御堂と克哉を陥れたいだけなのだとしたら、わざわざ克哉にだけ写真を送ってくるという一手間を掛けることなく、
ただあれを社内にばらまけば済む話だろう。
それをしなかったということは、何か他の意図があるに違いない。
その意図が分からない限り、こちらからは対処のしようがないし、下手に動けばかえって墓穴を掘りかねないような気がした。
それよりも今は、相手の出方を待つほうが賢明だろう。
御堂に相談するのは、その後でもいい。
なんといっても写真は今朝届いたばかりなのだし、
出来れば御堂を煩わせることなく事を治めたいという気持ちもあった。
「……それでは、失礼します」
「ああ、佐伯君」
「はい?」
退室しようとしたところを引き止められ、克哉は振り返った。
「今日の終業予定時刻は?」
「あ、ええと……」
いつもならば火曜日は、御堂とジムに行くことになっていた。
しかしあの写真のことを考えると、しばらくは社外で一緒になるのは避けたほうがいいだろう。
「すみません、今日はちょっと残業になりそうで……」
克哉は咄嗟にそう答えていた。
「そうか。では、私一人で行っても構わないか?」
「はい、勿論です」
「終わったら、迎えに行く」
「い、いえ、大丈夫です。何時ぐらいになるか分からないので……」
「……分かった」
どこか拗ねた様子で引き下がった御堂に、心の中で謝りながら、克哉は執務室を後にした。
- To be continued -
2008.05.07
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