Classical

STAY 07

「孝典さん……」
男が消えると克哉は唇を離し、身体を下にずらしていく。
そして御堂の足の間に顔を埋めると、その中心を愛しげに愛撫しはじめた。
「か、つ……」
克哉は手の中の御堂自身に紅い舌を差し出し、根元から先端までを丁寧に舐めていく。
少しずつ御堂のものが硬さを増していくにつれ、克哉は嬉しそうに目を細めた。
先端に唇を覆い被せ、その亀裂を舌先で抉ると、御堂の腰がびくりと跳ねる。
「克哉…っ……よせ……」
今はこんなことをしている場合ではない。
そう思って抵抗しようとするものの、手足にまるで力が入らない。
思考も、四肢も、全てが麻痺してしまったかのように痺れる中、克哉の触れている中心だけが明確な快感を御堂に伝えていた。
「んっ……ぅ……」
克哉は喉を鳴らし、ゆっくりと御堂のものを飲み込んでいく。
溢れる唾液を絡めながら舌と唇を動かされ、屹立は克哉の口内でぐんと容量を増した。
喉の奥まで御堂でいっぱいになると、やがて克哉は顔を上下させながら、自らの中心にも手を伸ばした。
両足の間ですっかり硬くなったものを、同じリズムで扱く。
いつもとは違った克哉の痴態に、御堂は興奮を抑えきれなかった。
「克哉……」
このままでは、流されてしまう。
しかし焦る心とは裏腹に、肉体は貪欲に克哉を求めていた。
御堂が今にも弾けそうなほどになった頃、克哉はようやく顔を上げた。
そしてそのまま御堂の上に跨ると、淫らに腰を揺らめかせる。
濡れた屹立を双丘の狭間に擦りつけながら、克哉はもどかしげに息を弾ませていた。
「かつ、や……」
「あ……んっ……」
シーツについた克哉の両腕を、御堂がするりと撫でる。
それだけで克哉は身を震わせ、ぴくんと顎を上向かせた。
その顎の先から汗の雫が落ちて、御堂の胸を濡らす。
荒い吐息を漏らしながら、克哉は自ら尻を突き上げると、とうとう耐え切れない様子で御堂のものに手を添えた。
「あっ…く、ぅ……」
硬い屹立が、克哉の中を穿つ。
既に幾度も御堂を受け入れているその場所は柔らかく、けれどいつも以上の熱さで御堂自身を捕らえた。
ゆるゆると絡みつく肉が、やがてきつく御堂を締め付け、擦り上げる。
「あっ、は……あぁっ……!」
「……っ…」
克哉の嬌声が、赤い部屋に響き渡る。
この異常な状況に、御堂は恐怖さえ覚えていた。
しかし部屋に充満する甘い香りと、克哉の妖しく誘う姿が、思考を遮ってしまう。
繋がることの悦楽が、他の全ての感覚を遮断する。
今が朝なのか、夜なのか、それさえも分からない。
ただ克哉に対する強烈な飢えだけが、御堂を支配しようとしていた。
「んっ、孝典、さん…っ……!」
もう我慢出来ないとばかりに、克哉がせつなげに首を振る。
薄茶色の髪の先から、ぱらぱらと汗が飛び散り、克哉は更に激しく腰を揺らした。
繋がった場所から水音が立ち、御堂もまたせり上がってくる射精感に顔を歪める。
「あぁっ……! ……イく…っ……! あ、ああっ……―――!」
「く……ッ…!」
掠れた声で克哉は叫び、大きく背中を反らした。
御堂と克哉は、ほとんど同時に欲望を解放する。
そそり立つ中心がびくびくと震え、克哉の吐き出した精が御堂の胸の辺りにまで飛び散る。
やがて克哉は糸の切れた操り人形のように、どさりと御堂の上に倒れ込んだ。
「孝典…さん……」
顔が濡れるのも構わず、激しく上下している御堂の胸に頬をすり寄せる。
満たされた表情。
それを見ていると、あの男の言ったことは本当なのかもしれないと思う。
ここは、克哉が望んだ世界。
克哉が、心から安堵出来る世界。
それなら、この場所に留まるほうがいいのだろうか。
それがお互いにとっての幸せなのだろうか。
―――そんな、馬鹿な。
まだ残っている理性が、それを懸命に否定する。
とにかく、いったいどうしてこんなことになってしまったのか、克哉に問い質さなければならない。
御堂は、今にも眠りに落ちてしまいそうな克哉に呼びかけた。
「……克哉」
軽く身体を揺すってみるが、克哉は何も反応しない。
ぴったりと閉じた瞼も、唇も、全てを拒絶しているかのようだった。
「克哉。……克哉!」
苛立ちに、思わず声を荒げる。
それでも変わらぬ克哉の態度に、御堂は渾身の力を込めて身体を動かした。
「……っ…」
強い眩暈に、御堂は額を押さえる。
その指の隙間から、シーツの上に放り出された克哉が、うっすらと瞼を開けるのが見えた。
克哉の視線は確かに御堂のほうに向いているが、酷くぼんやりとした目つきは御堂ではない、何処か遠くを見ているようだった。
御堂はなんとか身体を起こし、克哉を見下ろす。
赤いシーツに横たわる克哉の肌は、いつもよりずっと白く見えた。
「克哉……」
痺れたままの指先を伸ばし、髪に触れると、克哉はほんの少し微笑んだ。
「本当に……これが、君の望んだ世界なのか?」
「……」
克哉がこんな風になったのは、もとはといえば自分の責任だ。
けれど、今は克哉にももっと強くなってもらわなければならない。
御堂の言葉に、克哉の笑みがふっと消える。
視線は御堂を離れ、目の前の何も無い空間に落ちた。
「こんな得体の知れない場所で、私と二人きり閉じ込められて……。これが、君の望んだ世界なのか? あの男の言ったことは、本当なのか?」
「……」
「……克哉」
御堂が厳しい声音で呼ぶと、ようやく克哉の唇がぴくりと動く。
そして今にも消え入りそうな声で、呟いた。
「……御堂さんは、嫌なんですか?」
質問の答えになっていない。
しかし克哉は勢いよく起き上がると、御堂の両腕に縋りついて言った。
「ここなら二人きり、誰にも邪魔されずにいられるんです。ずっと、ずっと、あなたと二人で、いられるんです。 誰にも余計なことを言われず、誰にも嘘をつかず、誰も傷つけずに、あなたといられるんです。 オレは、あなたさえいてくれればそれでいい。あなたは、そうじゃないんですか? あなたも、そう思ってくれていたんじゃないんですか?」
「克哉……」
「ここに、いましょう? ずっと、ここに、二人きりで……」
お願いです……。
そう言って、克哉は御堂の胸に額を押し付けた。
口調こそ弱々しいものの、克哉の爪は御堂の腕に深く食い込んでいる。
その痛みは、そのまま克哉の負った痛みなのかもしれないと御堂は思った。
それでも、流されるわけにはいかない。
このままでいることが、二人にとっていいこととは思えない。
御堂は細く息を吸い込むと、冷たい声で言い放った。
「……断る」
克哉の身体が、びくりと震える。
胸元から恐る恐る顔を上げた克哉の頬は、さきほどまでとは打って変わって青褪めていた。
そんな克哉に罪悪感を覚えながら、それでも御堂は敢えて冷たい言葉を突き付ける。
「いくら君と二人でいられるからといって、こんな所にいつまでも閉じ込められているのは御免だ。 どうしてもここにいたいのなら、君一人でいればいい。私はなんとしても、帰らせてもらう」
「そんな……だって……」
「誰にも邪魔されなければ、なんだと言うんだ? 二人きりでいれば、気持ちが変わらないとでも?  そんな保障が何処にある。私が君に飽きるのが先か、君が私に飽きるのが先か、その可能性を何故考えない?」
「う……」
「誰に邪魔されようと、誰を傷つけようと、それでも共にいようと思ったのではなかったのか?  君の覚悟は、そんなものだったのか。見損なったな」
「…や……」
「ともかく、私は意気地無しの現実逃避につきあう気は更々ない。さっさとあの男を呼んで、この部屋から出してもらおう」
「あ……あぁぁぁああッ……―――!!!」
突然悲鳴のような叫び声を上げながら、克哉は御堂を押し倒した。
そして御堂の上に馬乗りになると、その首に手を掛ける。
ぶるぶると震える指先に、まだ力は込められていない。
けれど恐ろしいほどに目を見開き、息を弾ませている克哉の顔を、御堂はまっすぐに見上げて言った。
「……殺したければ、殺せばいい」
克哉の指が、僅かに喉を締め付けてくる。
「私は君と生きたいと思った。だが、こんな場所に閉じこもることが、生きることとは思えない。 君と生きられないのなら、死んでも構わない。だから、君が殺せ」
「……」
「ただし―――」
御堂は手を伸ばし、克哉の頬に触れた。
驚くほどに冷たいその頬に、少しでも温もりが伝わるようにと。
「必ず、私の後を追ってこい。死んでも、君を手離すつもりは毛頭無い」
「………っ…」
克哉の震える指先が、御堂の首を離れていく。
そしてずるりと御堂の上から降りると、嗚咽を漏らしながらシーツに顔を押しつけた。

- To be continued -
2008.10.06

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