鬼畜部長 08

グラスの中の氷が溶けて、カラリと冷たい音を立てる。
それを合図に書類に落としていた視線を上げると、琥珀色の液体が窓から差し込む西陽を反射しながら微かに揺れているのが見えた。
御堂はそのグラスを手に取り、ウイスキーを一口流し込む。
アルコールの熱が喉を通って、身体の奥へと辿り着くのを感じる。
この程度の酒で酔うことはなかったが、寧ろ今はもう少し酔っておいたほうがいいのかもしれなかった。

―――週末、この前と同じホテルで、五時に。

一方的に突き付けたその命令に、佐伯克哉が背くことはないだろうと御堂は確信していた。
今回拒絶出来るものならば、初めからそうしていたはず。
もしもここで逃げてしまったら、前回あれほどまでの屈辱を味わったことが全て無駄になってしまう。
プロトファイバーの目標数値がどう設定されるかは御堂次第。
つまり克哉及びキクチ8課の社員達の生殺与奪の権は御堂が握っているのだ。
その御堂の機嫌を損ねない為にも、きっと彼は今日も五時ちょうどにこの部屋を訪れるに違いなかった。

それに正直なところ、御堂は今日をとても楽しみにしていたのだ。
こんな風に何かを楽しみにするなど久しく無かったことかもしれない。
それは仕事へのモチベーションとも、充実した余暇に対するものとも、まるで違う感覚だった。
前回の<接待>で克哉の真の顔ともいうべき一面を垣間見てからというもの、 御堂は彼に対していったいどうすることがもっとも効果的であるのか分かったような気がしていた。
恐らく彼は彼自身すら自覚していない特殊な性的嗜好を持っている。
そう考えれば彼がこんな突拍子もない要求を飲んだことにも、あの異常な状況の中で身体が反応を示していたことにも説明がついた。

―――ならば、その本性を暴いてやろう。

きっと彼自身が絶対に認めたくないであろう己の本性。
仕事の為、仲間の為という言い訳の砦を破壊して、自分は男好きで被虐趣味がある変態なのだと認めさせてやるのだ。
憎むべき相手に悦ばされ、無様に快楽を強請る己の浅ましい姿は、ただ強い力でねじ伏せられるよりもずっと大きなダメージとなるはずだ。

彼が何処まで堕ちるか、自分が何処まで堕とせるか。
それが御堂には楽しみで仕方がなかった。
たとえ悪趣味と言われようとも構わない。
どうせ始まってしまったのだ、この歪んだ関係は。



そして御堂の予想通り、今日も五時ちょうどに部屋のチャイムが鳴った。
ドアを開けたそこには酷い顔色をした克哉が僅かに俯いて立っていた。
「来たか。入れ」
「……」
克哉はすっかり諦めているのか、すんなりと御堂の指示に従って部屋に入ってくる。
昼に一件だけ入っていた仕事の打ち合わせを済ませてきた御堂と違い、今日の克哉はオフのはずだったが、彼は几帳面にもスーツにネクタイ姿だった。
それは、こんな場所にやってきたのは自らの意志ではない、これも仕事だからだ、というアピールなのだろう。
健気なものだ、と御堂は心の内で嘲笑した。
仕事とはいえ、選んだのは紛れも無い自分自身だというのに。
「今日は少し趣向を変えようと思ってな」
「は……?」
御堂の優し気な口調に、克哉の瞳がかえって不安げに揺れる。
しかしようやく交わった視線は、克哉によってすぐに逸らされてしまった。
御堂はそれが気に入らず、克哉の顎を指先でくいと持ち上げると強引に目を合わせながら言った。
「逃げずに来たご褒美だ。今日は私が君をもてなしてやろう」
「……それは、どういう……」
「いいから、じっとしていろ。動くなよ」
そう告げて、御堂は克哉の後ろへと回る。
そしてポケットから取り出したハンカチを広げると、それで克哉の目を覆った。
「……っ!」
突然視界を奪われた克哉が驚きと戸惑いに息を飲んだのが伝わる。
御堂はそれに構わず結び目をきつく作ると、再び前に回った。
「……動くなよ」
もう一度低い声で囁き、克哉のスーツの上着に手を掛ける。
脱がせた上着をベッドに放り投げ、次にネクタイを外す。
そこまでは一切抵抗する素振りを見せなかった克哉だったが、シャツのボタンを外しはじめたときには咄嗟に拳を握り締めていた。
きっと御堂に殴りかかりたいほど悔しいのだろう。
もしもここで本当に克哉が殴りかかってきたらどうするだろうかと御堂は考える。
その気概に免じて彼を許してやるだろうか?
いや、そんなことは有り得ない。
その瞬間に交渉は決裂、こちらの命令に背いたとみなし、目標数値は再び上がることになるだけだ。
万が一それさえも達成出来たとして、そのときは更に上乗せするまで。
彼らが売上目標を達成する日は永遠にやってこない。
8課の連中は全員解雇され、彼らは自分達の人生を狂わせた克哉を一生恨むことになる……。
そんな筋書きもそれはそれで面白そうではあったが、どうせ彼にそんなことが出来るはずもなく、ただ拳をきつく握ってその衝動に耐えるのがやっとのようだった。
御堂はといえばまるで子供の世話でもしてやっているような気分になって、無意識に微笑んでさえいたのだが。
そしてベルトを外し、スラックスと下着を下ろそうとしたところでとうとう克哉は逃げるように腰を引いた。
「……動くな、と言ったはずだが」
「……」
脅してやると、克哉は再び直立不動になる。
御堂はあてつけがましく大きな溜息を吐きながらスラックスを落とし、下着を脱がした。
相も変わらず間抜けな姿だ。
微かに震えているようだったのでワイシャツだけは羽織ったままにしてやって、その腕を掴む。
ふらふらと覚束ない足取りの克哉を窓際まで連れて行き、椅子に向かって突き飛ばした。
「座れ」
「っ……!」
倒れそうになりながらも克哉はなんとか椅子に腰を下ろす。
さて、ここからが本番だ。
椅子の背凭れを抱えるような恰好で後ろに回させた克哉の両手首を縛る。
暴れたときにでも使ってやろうと持参したバンテージ用のテープが早速役に立った。
次に左足を抱え上げ、肘掛けに乗せる。
それだけでもう性器と後孔が丸見えになって、克哉の太腿の内側はぶるぶると震えた。
足を閉じてしまいたい気持ちと、そうすれば事態が悪化することを分かっているから抵抗出来ないという気持ちが葛藤しているのだろう。
「な、何をする気ですか……こんな……」
震える声で克哉が呟く。
御堂はそれを無視して、右の足も同じく肘掛けに乗せてやった。
そしてそれぞれの足首を椅子の脚に縛り付ける。
これでもう彼は身動きを取ることは出来ない。
暴れれば椅子ごと転倒するだけだ。
「ッ……ククッ……」
完成した克哉の姿を眺めて、御堂はあまりの可笑しさに喉の奥から笑いを漏らした。
目隠しをされ、手足を縛られ、大きく足を開かされたこの異常な恰好を、克哉自身に見せてやれないことが残念でならない。
ここに大きな鏡があれば、彼を素晴らしく絶望させてやることが出来ただろうに。
「凄い光景だな。キクチの連中にも是非、見せてやりたいものだ。君達の為に彼はこんなにも身体を張って頑張ってくれているぞ、とな」
「や、め……っ!」
キクチの名前を出されて、己の痴態が晒されることを想像したのだろうか。
克哉は瞬時に耳まで赤く染めて声を荒らげる。
椅子がガタンと鳴ってバランスを崩しかけたところを、御堂が抑えた。
「暴れるな。危ないぞ」
「……」
実際、こんな体勢のまま倒れれば怪我をしかねない。
そうなればせっかくの楽しみが台無しになってしまう。
(さて―――)
視界の端にさっきまで飲んでいたウィスキーのグラスを見てとった御堂は、悪戯を思いついた子供のように笑った。
さすがに完全に素面のままでは気の毒だろう。
まずはグラスの中のウィスキーを口に含み、そのまま克哉へと口づける。
「ん、ぐっ……」
思いがけず口移しで流れ込んできた酒に噎せそうになりながらも、克哉はなんとかそれを飲み込んでいく。
零れたウィスキーが冷たく乾いた唇を濡らし、やがて口の中のアルコールが全て無くなってからも、御堂は口づけをやめず克哉の舌に自分の舌を絡ませた。
克哉の舌ははじめ狭いその場所で逃れようと暴れていたが、そのうちに諦めたのか動きを止める。
ぴちゃぴちゃと水音を立てながらまるで恋人同士のような深い口づけをようやく終える頃には、克哉は苦しげに熱い息を弾ませていた。
「ふ……キスだけで感じたのか? まったく君は……」
「そんなわけ……!」
「まぁ、いい」
今度はグラスの中から氷をひとつ取り出す。
御堂はそれを克哉の上気しかけている頬に押しつけた。
「ひっ……!」
克哉が悲鳴のような声を上げる。
視界を奪われている所為で次に何をされるか分からない克哉には、ほんの僅かな刺激さえも恐怖になっているようだ。
「痛、い……! なんですか、これっ……」
「ただの氷だ。そんなに怯えるな。今日は君をもてなしてやる、と言っただろう? 君が抵抗さえしなければ悪いようにはしない」
「う、うぅ……」
「クク……」
御堂は氷をゆっくりと移動させていく。
頬から首筋、鎖骨を辿って、やがて胸へ。
御堂の指と克哉の肌の間で溶けていく透明な塊を、小さな尖りへ強く押しつけたかと思えば、触れるか触れないかの距離で先端を撫で回す。
克哉は自由にならない身体で、それでも必死で身悶えしながら唇を噛んでいた。
「う、…く……」
「……気持ちがいいのか?」
「違う……っ」
克哉は勢いよく左右に首を振る。
しかしどれだけ否定しようとも、氷と御堂の指とでこねられた尖りは濡れて光りながらぷくりと赤く立ち上っていた。
それだけではない。
溶けた水は両足の間にある薄い茂みに流れ込み、下肢を濡らす。
くすぐったいのだろうか、水が伝うたびになだらかな下腹部がうねり、その中心にある克哉自身もまたゆるく頭をもたげはじめていた。
―――やはり、感じているのだ。
冷たいという感覚が麻痺して、氷で撫でられているのを舌で舐められているように錯覚しているのかもしれない。
そう思った御堂は溶けて小さな粒になってしまった氷からわざと指を離した。
残された欠片は克哉の肌の上をつつっと滑り、屹立の根元へと落ちていく。
「ひ、あっ……!」
克哉の身体がびくりと跳ね上がる。
その反応を見て御堂は愉快そうに肩を揺らした。
「大袈裟だな。本当はこの程度では物足りないのだろう? 安心したまえ。ちゃんと満足させてやる」
「嫌だ……もう、やめてください……やめて……」
「何を言っている。私のもてなしはまだ始まったばかりだぞ」
「くっ……」
そう、本当のお楽しみはこれからだ。
御堂はアイスペールから新しい氷を取り出して克哉の太腿に手を掛けると、その奥にあるひくつく後孔に冷たい塊をあてがった。
「ひゃ、あっ…冷た、い……!」
克哉は咄嗟に足を閉じようとするが、椅子がガタガタと揺れるばかりでそれは叶わない。
御堂はそんな克哉の足を押さえつけながら、ぐっと氷を中に押し込んだ。
「や、やだっ…! 嫌だ!! やめろ……!」
「暴れるな! 暴れるなら……」
御堂はもうひとつ氷を取る。
そして再び同じようにそれを克哉の後孔に押し込む。
「い、やだ……!! やめろ……やめて、くれ……!」
「煩い。いいか、決して出すんじゃないぞ。しっかり銜え込んでおけ」
「や、…や……嫌、だぁ……」
克哉は今まで以上にぶるぶると震えながら、譫言のように「嫌だ」と繰り返す。
しかし克哉の雄はさきほどに比べてやや萎えはしたものの、未だゆるく勃ち上ったままだった。
きっと今、彼の身体の中では押し込まれた氷の冷たさと、そのもっと奥で燻り出した熱とがせめぎ合っているに違いない。
御堂は克哉に更なる快楽を与えるべく、小さなプラスティックの容器を取り出した。
蓋を外し、容器を挟むようにして押すと、細くなった先端からとろりとした液体が溢れだす。
御堂は身を屈め、今度はその先端を克哉の後孔に挿入した。
「な、に……? あ……や、あぁぁっ……!」
中のローションがじゅぶじゅぶと音を立てながら克哉の奥に注ぎ込まれていく。
その間中、克哉は喉を見せながら声にならない声で喘ぎ続けていた。
溶け出た氷と溢れたローションは克哉の下肢と椅子をぐっしょりと濡らし、まるで粗相をしてしまったかのように見える。
御堂は空になった容器を放り捨ると、誘うようにひくひくと痙攣している後孔に躊躇い無く指を差し入れた。
「あぁっ、や、嫌だ……!」
「ふん、随分と悦んでいるじゃないか。だが、あまり大きな声を出すとホテルの従業員が来るかもしれないぞ? 君は誰かに見られているほうが興奮するのかもしれないが……」
「違う……! そんな、こと……!」
「ああ……君の中は熱いな……。私の指をこんなにも締め付けてくる」
「う……う、ぅッ………」
御堂は克哉の中を乱暴に掻き混ぜる。
熱い内壁は異物を排出しようとしているのかもしれなかったが、ぐねぐねと蠢いてかえって御堂の指を離すまいとしているようだった。
溶けた氷と粘り気のあるローションが混ざってねっとりと指に絡みついてくる。
御堂が指先を動かすたびに克哉の身体はびくびくと跳ね、腰が落ち着きなく揺れた。
屹立は次第に硬さを取り戻し、いつしか反り返るほどになっている。
御堂はそれを見て、克哉の目隠しをとってやることにした。
「あっ……」
「下を見てみるといい。面白いものが見れるぞ」
「し、た……?」
眩しさに閉じていた目を、克哉が恐る恐る開く。
下ろした視線の先には、はっきりと硬さを持って勃ち上がった彼自身があった。
「っ…!!」
克哉は再びきつく目を閉じ、真っ赤に染まった顔を逸らす。
たとえ見ていなくても、己が反応していることは自分自身が一番よく分かっているだろうに。
御堂は指を出し入れし続けながら克哉の耳元で囁く。
「悦んでもらえてなによりだ。やはり君にはこういう趣味があったんだな。どうりでこんな要求にあっさり答えるはずだ」
「違うっ…あっさりなんて……」
「別に恥じることはないだろう。私は他人の性的嗜好を否定するつもりはない」
「違う……違う……」
御堂の指の動きに合わせて卑猥な水音が立つ。
克哉がどれだけ否定しようとも、彼の屹立はびくびくと脈打ち、先端からは透明な蜜が溢れて茎を伝っていた。
「もう、やめて、御堂さん………やめて、くださ、い……こんなこと……」
「こんなこと?」
御堂は克哉の中でくいと指を曲げる。
それがどうやらいい場所に当たったらしく、克哉の身体は一際大きく波打った。
「あっ……?! は、あぁっ……!!」
「こんなことにこれほど悦んでいるのは誰だ? そろそろ自分がただの変態趣味の偽善者であると認めたらどうなんだ?」
「は、ぁっ……違う……オレは、そんなつもりじゃ……」
「だったら、ここでやめるか?」
「あっ……」
不意に御堂が指を引き抜く。
突然快楽から放り出された克哉は、身体を震わせたまま茫然と御堂を見つめた。
「それこそこんなこと、私はいつ止めても構わない。選んだのは君だ。私ではない」
「……」
御堂は克哉を冷たい目で見下ろす。
この仕事を強引に手に入れたのも、示された目標を達成出来ると豪語したのも、君だ。
そしてやはりそれは無理だと諦め、この異常な関係と引き換えに降参することを許してもらおうとしているのも、君だ。
あのワインバーで上手くピンチを切り抜けたのは誰だ。
私の友人達に気に入られ、屈託のない笑顔を見せていたのは誰だ。
私と決して目を合わさず、いつも怯えて俯いているのは誰だ。
どれが本当のお前だ―――佐伯克哉。
「……こんなことをしてでも守りたいものが君にはあるのだろう? だったら、自ら強請るぐらいしてみたらどうだ。 自分で選んでおきながら無駄な抵抗を繰り返すよりも、そのほうが余程潔いというものではないのか?」
「そんな……」
中途半端に放置された克哉は、潤んだ瞳で縋るように御堂を見上げている。
本当は既に我慢の限界のはずだ。
濡れそぼった後孔と充血した屹立は、更なる刺激を求めてひくひくと痙攣を続けている。
御堂はニヤリと笑うと、克哉の屹立を握りしめた。
「あっ……!」
「そら、ここはもっとしてほしそうだぞ? こんなに硬くなって……」
不思議なほどに抵抗はなかった。
御堂は克哉の足の間に顔を沈めると、その屹立に唇で触れた。
「は、ん、あぁッ……!」
その瞬間に克哉が上げた声は明らかに今迄とは違っていた。
それは怯えも嫌悪もない、純然たる快楽に染まった嬌声だった。
「ふ……どうせ男にこんなことをされるのも初めてではないのだろう? いったい何人の男にしゃぶらせたんだ?」
「そんなこと、ない……! 違う……!」
「どうだか……」
突くように舌先で濡れた先端を弄ぶと、克哉の腰は揺れ、息はますます弾んでいく。
そのまま唇を被せ、全てを口内に含んだ途端、克哉が一層暴れ出した。
「あぁっ……! 御堂さん、やめ、やめてください……! やめろ……!」
しかし御堂は唇を離すことなく、克哉の足を押さえつけて口淫を続ける。
性器に歯が当たっても、その刺激にさえ克哉は感じているようだった。
屹立は硬さを増し、御堂がそれを強く、唇で扱くように吸い上げると、克哉はとうとう涙声で懇願した。
「あっ! は、あぁっ! ダメ……これ以上は、もう……!」
克哉のものは御堂の口内で今にも射精しそうなほどに熱く脈打っている。
御堂は敢えて行為を止めると、改めて尋ねた。
「イきたいか? イきたければ強請ってみせろ。イかせてください、お願いします、と言うんだ」
「やっ、いやだ………嫌だ……」
それでもまだ克哉は強情に首を振る。
さすがに苛立ち始めた御堂は、ゆっくりと、言い聞かせるように告げた。
「もう一度言う。これが最後のチャンスだ。正直に答えろ。……イかせてほしいか?」
「あ……」
克哉の目尻から一筋、涙が流れる。
その視線は虚ろで、御堂を見ているようでいて別の何処かを見ているようだった。
唇がわなわなと震え、やがて次々と溢れ出した涙と共に言葉が零れ落ちる。
「イき、たい……イかせて、ください…御堂さん……お願い……します……」
「……それでいい」
御堂が再び克哉の屹立を咥える。
それと同時に根元をきつく握っていた指を緩めてやると、克哉はすぐに射精した。
「ふ、あぁッ―――……! ん、んぅッ……!」
「っ……」
幾度も腰が跳ね、そのたびに吐き出される精が御堂の口内を満たしていく。
御堂はそれを全て受け止めると、やがて射精が終わった克哉を上向かせた。
彼自身の欲望を口移しで与えてやれば、何が起きているのかわからないままに克哉はそれを飲み込んでいく。
零れたそれが顔を汚しても、克哉はただ恍惚とした表情を浮かべているだけだった。

ティッシュで自分の口元を拭い終わると、御堂は克哉の拘束を解いた。
しかし戒めていた手足を自由にしてやってからも、克哉は椅子から立ち上ろうとしなかった。
汚れきった身体を預けたまま、ぐったりと項垂れている。
御堂の狙い通り、前回よりも精神的なダメージは大きかったようだ。
自ら強請り、自分だけが快楽に翻弄され、イかされたのだ。
恥ずかしくて、情けなくて、消えてしまいたいに違いない。
己の無力さを痛感して、今度こそ自分の立場を思い知ったことだろう。
「では、また来週」
身支度を整えたあと、そう声を掛けても克哉の反応はなかった。
御堂はそんな克哉を置き去りにして部屋を出る。
フロントで連れがまだ部屋に残っていることを伝え、会計だけを済ませてホテルを後にした。






自宅に戻った御堂は真っ先にバスルームへと向かった。
シャワーに打たれながら、今日のことを思い返す。
克哉がとうとう自ら求めた。
その事実は彼を打ちのめし、圧倒的な敗北感を植え付けたことだろう。
けれど、まだ足りない。
泣かせ、懇願させ、どれだけ惨めな姿を晒させても尚、満足出来なかった。
これは、なんだ。
腹の中にある、どろりとした澱のようなもの。
それは次第に膨らんで、今にも溢れそうになっている。
足りない。
もっと激しく、もっと醜悪な何かが欲しい。

―――私は何がしたい?

主導権は常にこちらが握っているはずなのに、深い闇に引きずり込まれるような感覚に襲われる。
違う。
そんなはずはない。
指先に残る彼の中の感触と熱。
絡まる舌と、濡れた唇。
震えて掠れる、声。
吐息。

御堂は全てを遮断するようにきつく目を閉じる。
それから下肢に手を伸ばし、熱く昂ぶった己自身に触れた。

- To be continued -
2017.03.09

[←前話]     [→次話]



[←Back]

Page Top