鬼畜部長 12
ホテルの部屋の窓から眼下に広がるビジネス街を見下ろす。
一般的には休日といえる日にも関わらず、いつもと変わらぬ眩い夜景を作り出している高層ビルの群れを眺めながら、御堂は心の内の晴れない靄を細い溜息に乗せて吐き出した。
(……馬鹿らしい)
ふとした瞬間、こんなふうにどうしようもなく投げやりな気持ちになることがある。
自分のしていることも、置かれている状況も、何もかもが無意味なものに思えてくるのだ。
それはきっとどれだけの結果を残そうとも、所詮自分はいくらでも代わりのきく存在だと自覚しているからだろう。
決して己を卑下しているわけではない。
仕事には誇りを持っている。
正当な評価も得ている。
しかしもしも今自分に何かがあって会社を去らなければならなくなったとしても、
多少の混乱こそあるかもしれないが、すぐに何事もなかったかのように誰かがこのプロジェクトを引き継いでいくはずだ。
むしろ社員一人を失ったぐらいで揺らぐような企業であっては困る。
ただ、その事実に多少の虚無感を覚えるのも嘘ではなかった。
そして真実かどうかも分からないくだらない噂話だけを残して、やがては忘れられていくのだろう。
親しくしていたつもりの人間達もきっと同じだ。
誰しも自分が一番可愛くて、それゆえに人は人を平気で裏切る。
だから他人に自分を理解してもらう必要などないと御堂は思っていた。
(それなのに……)
これからここに来るであろう男は、仕事や仲間の為に辱めを受けても構わないのだという。
彼のしていることを知らない仲間達は決して彼に感謝することはないし、知ったとしてもかえって軽蔑されるだけに違いない。
彼の選択はこれ以上ないほどに愚かで馬鹿げたものだ。
けれど、その馬鹿げた行為を強いている自分はどうなのかと問われたなら―――。
「……」
昼過ぎに自宅を訪問してきた内河に言われたことを思い出す。
出張先で手に入れたというプレミアムワインを土産に持ってきた彼は、すでに出掛ける準備を済ませていた御堂に向かって、何故か克哉の名前を出してきたのだった。
『もしかして、これからこの前の佐伯君とデートか?』
予想外のことに内心僅かに動揺しつつも、御堂は平静を装って答えた。
『……そんなわけがないだろう。何故、ここでアレの名前が出てくる』
『だって御堂、彼のこと相当気に入っているようだったから』
『理解出来ないな。どこをどう見たら、そう思えたのか』
『興味が無い相手には当たり障りなく接するのに、好きな子ほど虐めたがるのが御堂の悪い癖だからな。学生時代からそうだったが……もしかして自覚が無いのか?』
『っ……』
不覚にも絶句してしまった御堂をおおいに笑いながら内河は帰っていった。
(馬鹿らしい)
きっと自分も彼と同じぐらい馬鹿なのだろう。
分かってはいるものの、もう後には退けない。
それならばいっそ馬鹿になりきってしまえばいい。
御堂は苦い想いを断ち切るように、目の前の景色をカーテンで覆い隠した。
「服を脱いでベッドへ上がれ。ああ、シャツはそのままでいい」
命じる御堂を一瞬睨みつけながらも、克哉は着ているものを脱いでいく。
やがてシャツ一枚を羽織っただけの格好になったところでベッドにのろのろと上がった克哉の腕を、御堂は乱暴に掴んで背中に回した。
「痛っ……! なに……!?」
暴れる克哉をうつ伏せに押さえつけ、後ろ手にした両手首を革の拘束具できつく縛りあげる。
上半身を支えることの出来なくなった克哉は、シーツに顔を押しつけながら尻を突き出した滑稽なポーズで、それでも御堂に激しく抗議した。
「な、んですか、これは……! こんなの、やめてください!! 御堂さん!!」
「本当に君は生意気だな……」
毎回律儀に指定した時刻ちょうどにやってくるくせに、いまだこれだけ反抗的な態度を取るのだ。
馬鹿正直で、諦めが悪くて、存外気が強い。
確かにあまり簡単に従順になられても面白くないが、かといっていつまでもやたらと強気に出られるのも腹立たしかった。
御堂はベッドの傍に仁王立ちしながら克哉を冷たく見下ろす。
「いったい、いつになれば君は自分の立場を理解出来る? なんでもする、と初めに言ったのは君だろう。
そして何をするのか決めるのは私であって、君じゃない。だから君にそれを拒否する権利などないのだよ」
「っ……」
「更に言うならば、どうしても嫌ならここに来ないことも出来たのに、今回も君はそうしなかった……。
来たからには、私の言うことをきいてもらう。当然のことだ」
「……オレだって……好きで来ているわけじゃ……」
「そうか? 私には毎回、君も充分楽しんでいるように見えるが」
「そんなわけ……っ!!」
「まあ、いい。なに、今日も悪いようにはしないから安心したまえ」
そう言って揶揄うように白く滑らかな尻房をぴしゃりと軽く叩いてやると、克哉は怒りなのか羞恥なのか顔を赤くして唇を噛んだ。
克哉がようやく黙ったことに気を良くした御堂は、唇の端に笑みを浮かべる。
(そうだ。何をしても無駄なのだと思い知ればいい)
御堂は持参した鞄からプラスチックの容器を取り出すと、克哉の足元に腰掛けた。
何をされるのか分からずに不安がる克哉が首を捻って様子を伺おうとするも、恐らくその位置から御堂の手元は見えない。
容器の蓋を外し、双丘に手を添える。
それから御堂はその容器の細長い先端を、剥き出しにされた克哉の後孔に差し込んだ。
「ひっ……!!」
異物の感触に克哉が悲鳴を上げた瞬間、御堂は容器を強く押し潰す。
中に入っていた粘着質のローションが一気に克哉の中に注がれた。
「う、わぁぁぁっ!」
恐怖からか不快感からか、克哉はそれから逃れようと尻を振りながら騒ぎ立てる。
それでも構わず容器を押し続けると、受け入れきれずに溢れた液体がどろりと克哉の内腿を伝っていった。
「こ、こんなの……いや、だ……」
「暴れるな。おとなしくしろ」
克哉を屈服させたいとは思っているが、肉体的に傷つけるのは本意ではない。
だからこそこうして前もって準備をしてやっているというのに。
これからすることを考えたら、感謝されてもいいぐらいだと御堂は心の内でぼやく。
克哉の後孔はたっぷりのローションを湛えて、ひくひくと蠢いている。
御堂は今度はそこに無遠慮に指を突き入れた。
「う、あっ……!」
声にならない声を上げて、克哉の全身が強張る。
しかし御堂は構わず、半分ほど入れた中指をゆっくりと抜き差ししはじめた。
「はっ……や、あっ……」
克哉の中は酷く熱く、そして柔らかかった。
その柔らかな肉が異物を押し出そうとして、御堂の指にうねりながら絡みつく。
逃げようとする腰を掴んで引き戻し、少しずつ動きを速めていけば、やがてそこはぐちゅぐちゅという音とともに泡立ち、締め付けも心なしか緩んでいった。
「やはりな……」
ぶるぶると震える白い太腿の間で、力なく下がっていた克哉の雄が次第に熱を帯びていくのが見えて御堂は呟く。
やはり彼にはこういう趣味があるのだ。
「もう気持ち良くなっているのか? 本当に君は淫乱だな」
「ち、違う……」
「だが、腰が揺れているぞ」
御堂はククッと喉の奥で笑いながら、埋め込んだ指先で克哉の内壁をぐるりと強くなぞった。
その瞬間、克哉の腰がびくんと大きく跳ねる。
「あ、あァッ……?!」
「……ん? ここがいいのか?」
「あッ! い、やだ……!!」
弱点と思われるそこに触れるたび、克哉の背中が反り返って全身が震える。
立てた膝が今にも崩れ落ちそうにがくがくと揺れ、屹立もそれに合わせて脈打った。
しかし、このまますんなりと射精させてやるわけにはいかない。
御堂は乱暴に指を引き抜くと、鞄から今度は細い紐を取り出す。
「まだ始まったばかりだからな……」
「な、なに……?」
怯える克哉に構わず、すっかり熱を持った彼の屹立の根元に紐を巻き付けて縛る。
事態を把握した克哉は絶望の表情を浮かべた。
「イヤだ……やめてくださいっ……」
懇願する、今にも泣き出しそうな震え声。
それを鼻で笑い飛ばしながら、御堂はまた別の道具を手に取った。
その白く、奇妙な形をしたプラスチック製のものをわざと克哉の視界に入るよう見せつける。
「なに……? なんですか、それ……?」
案の定、恐怖に怯えきった様子で克哉が尋ねる。
どうやらこれで遊んだことはないらしい。
御堂はベッドに乗り上げると、その道具の先端で克哉の後孔を弄ぶようにつつきながら答えた。
「これはエネマグラという。本来は医療器具として開発されたものだが……別の使い道もあってな」
「……!!」
突いていただけの先端を少しずつ後孔に埋めていく。
克哉の全身が細かく震えているのが、エネマグラを持つ御堂の手に伝わってきた。
それでも大量に注がれたローションの滑りと、御堂の指で解されたことによって緩んだそこはやがて力を加えずともゆっくりとそれを飲み込んでいく。
克哉がどれだけ口先だけで抵抗を示しても、身体はすでに従順になりはじめているのだ。
「……随分と嬉しそうだな」
「う、ぐっ……」
しかし揶揄うような御堂の言葉も聞こえないらしく、克哉は異物が入り込んでくる圧迫感に呻く。
ハァハァと荒い息を吐き出しながらなんとかそれを排出しようと身を捩るも、とうとうエネマグラは根元まですっかり克哉の中に収まってしまった。
それでも克哉は諦められないのか、拘束された手を伸ばそうとしたり、腰を揺らしたりを繰り返す。
そうやって身悶えする克哉の姿を、御堂は愉快そうにしばらく眺めていた。
「…ふ……んっ、ぐ……」
嵌ってしまった玩具は外れそうな気配もなく、克哉はシーツに紅潮した顔を擦りつけながら苦しげな声を漏らすばかりだ。
高く上げられた尻と、拘束された姿は酷く非現実的で、異常であろうが馬鹿げていようがそれで構わないのだという気になってくる。
さて、彼はどんな反応を見せるだろうか。
目の前の光景と、これから起きるであろうことを想像して、御堂は確かに興奮していた。
「……君ばかりが楽しんでいるのは狡いな」
今度は克哉の顔の傍に腰掛ける。
それからスラックスの前を寛げると、克哉の口元に自らの猛りを示して、口淫を強制した。
ここまで来てしまったらさすがに抵抗しても無駄だと悟っているのか、克哉はおずおずとそれを口に含む。
唇の柔らかさ、口内の熱、拙く絡んでくる舌。
無様な恰好のまま男のものを咥えさせられ、それでも何処か欲に濡れた目で奉仕する姿に嗜虐心を煽られる。
「もっと深く咥えろ……」
「っ……!」
後頭部を引き寄せて下肢を押しつけるようにすると、克哉がえづく。
それでも遠慮無しに喉の奥を突いているとき、突然克哉の身体が跳ね上がった。
「ん、ぐ、ッ……?!」
思わず屹立から顔を離し、克哉は陸に打ち上げられた魚のようにビクビクと痙攣を繰り返す。
「あっ……?! なに、これっ……!」
「……随分と反応が早いな」
御堂は半笑いで言った。
エネマグラが本来は医療器具として開発されたものであることは事実だ。
前立腺肥大症などの治療の一環として行われる前立腺マッサージを、自ら出来るように作られた。
その「前立腺を刺激する」という働きから、この器具が性的快楽を得るためにも使われるようになったのはある意味当然と言えるだろう。
「ふっ、それはそういうものなのだよ。何もせずとも快感をもたらす。しかし、これほど反応が良いのも珍しいだろうな」
「いや、だ……!! 抜いて、抜いてください、御堂さん……!!」
恐らくは初めて味わう感覚に、克哉は御堂の声も聞こえない様子で身悶える。
その目に浮かぶ涙は恐怖からのものか。
けれど暴れ、のたうち回りながら御堂の下肢に顔を擦りつけてくれば、それは更なる快楽を強請っているようにしか見えなかった。
これが欲しい、と言わんばかりに。
「御堂、さん……!!」
「……っ」
唾液と、涙と、汗で、真っ赤な顔を濡らしながら克哉が御堂の名を叫ぶ。
御堂の雄に頬と髪を擦りつけ、器具を突き立てたままの剥き出しの双丘を揺らし、無我夢中で懇願している。
今にも破裂しそうなほどに膨れ上がったものが、克哉の両足の間で脈打っているのが見える。
きっと彼の頭の中には、まさに今その身を苛んでいる快楽のことしかないだろう。
仕事のためとか、仲間のためとか、そんなことすらどうでもよくなって。
そしてそんな自分をどうにか出来る、唯一の存在である御堂のことしか―――。
ああ、この姿こそずっと見たかったものだ。
玩具でこれほど悦ぶのであれば、本物を入れてやったらどうなるのだろう。
もっと奥を、もっと熱いもので貫いてやったら、どうなるのだろう。
考えた瞬間、肌がぞくりと粟立った。
そうだ。
私が。
彼を。
―――啼かせたい。
御堂はベッドを降りると、服を脱ぎ捨てる。
そういえば今まで克哉の前で肌を見せたことはなかったな、とぼんやり思った。
「御堂、さん……? 御堂さん……!」
姿が見えなくなって、克哉は不安そうに御堂の名前を呼ぶ。
その心から縋るような声音に、御堂はたまらない欲望を感じていた。
後ろに回り、エネマグラを引き抜く。
そのことに克哉が反応を示す暇もなく、ぽっかりと空いた後孔に御堂は己の熱を突き立てた。
「う、あッ……アァッ……!!」
汗でシャツの張り付いた、克哉の背中が大きく仰け反る。
快楽に焦らされていた熱い内壁は、御堂のものにきつく絡みつき、うねうねと蠢いた。
「きついな……」
本来受け入れるべきでない場所で、受け入れるべきでないものを迎え入れれば当然だ。
しかしそれは異物を排出しようとするのではなく、むしろ奥へと招き入れようとしているように感じた。
彼の態度や言葉はともかく、体が求めている。
それは間違いなかった。
「素直に認めろ……本当はいいのだろう?」
「違っ……い、やだ……!」
揺さぶられながらも克哉がふるふると首を振ると、髪の先から汗の雫が散る。
御堂はゆっくりと腰を揺らし、彼の中を丁寧になぞっていった。
「ふ…これだけ反応しておいて、嫌だと言われても、説得力が無いな……」
「や……怖い……御堂、さん……御堂さんっ……」
掠れだした震え声で克哉はうわ言のようにつぶやき続ける。
背中で縛られたままの手が心もとなさげに揺れていることに気づいて、御堂は無意識にその指先をつかんでいた。
ここにいる。
お前を抱いているのはこの私だ。
道具でも、他人でもない。
お前が縋れるのも、求められるのも、この私だけだ。
御堂が絡めた指を克哉は不格好なままにきつく握り返す。
ようやく見つけたとでもいうように。
「…御堂……さんッ……」
「どうだ……? 本当に、やめてほしいのか……お前は……」
掴んだ指を引き寄せるようにしながら、御堂は克哉の奥を突き上げる。
律動に合わせて息が弾み、やがて克哉の腰も揺れ始める。
粘着質な音とベッドの軋む音に、甘く濡れた吐息が混じりだす。
「あっ、もう……助け、て……御堂さん……御堂、さん……」
「っ……助けて、ではないだろう……」
「ふ、うっ……あ、あぁ…っ……」
克哉の指先に力が籠る。
そして―――。
「どう、しよう……御堂さん……いいッ……」
首を無理やりに捻りながら、克哉が泣き声で呟いた。
とうとう、認めたのだ。
それを引き出したのが自身の欲望であったことが、御堂を昂らせる。
「ようやく認めたな……」
御堂は克哉の指をしっかりと握り締めたまま、激しく中を貫いた。
克哉ももはや躊躇うことなく腰を揺らし、共に快楽を貪る。
「食い千切られそうだな……そんなに、いいか……?」
「アッ、いい……気持ち、いいっ……!」
「ふ……」
あとはもう身を任せるだけだった。
欲望の解放に向けて、ただひたすらに互いを求める。
「も……もう、イきたい……イかせて、御堂さん……!!」
他には何も考えられない。
何がどうなろうと、もうどうでもいい。
ただこの溜まりきった熱を解放したい。
全部を自分のものにしたい。
この世で、たったひとつの。
「イけ……!」
御堂が克哉の屹立に巻かれていた紐を解く。
その途端、腰が大きく跳ねて同時に後孔がきつく締まった。
「う、アァッ……!」
「……ッ!」
掠れた嬌声のすぐ後に、御堂自身の低い呻き声が上がる。
全身を言葉に出来ない快感が走って、迸る熱いものが克哉の奥に注がれる。
びくびくと震えていた克哉の身体がやがて弛緩して、力無くシーツの上に臥せった。
その中にいつまでも自分自身を収めたまま、御堂は今まで味わったことのない快楽の余韻に浸っていた。
- To be continued -
2019.09.13
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