STAY 01
もう随分と長い時間、克哉はテーブルの上にあるカードを睨みつけていた。
手に持ったペンを指の上でくるりと回し、何かを書こうとしてはまた手を止める。
すんなりと書けたのは、最初のたった一行だけだった。
『お誕生日 おめでとうございます』
バースデイカード自体は小さなものだから、あと一、二行も書けばスペースは埋まってしまう。
それなのに、この後がどうしても続かない。
カードの傍らには、とあるブランドの名前がプリントされた、小さな紙袋が置いてあった。
去年の九月、克哉はやはり同じように頭を悩ませていた。
御堂の誕生日が近づき、何かプレゼントをしようと思ったものの自分で決めることが出来ず、とうとう本人に何が欲しいか尋ねたのだ。
結果、何故かこちらが御堂のほうから指輪を貰うこととなってしまい、戸惑いつつも嬉しかったことを覚えている。
その指輪はもちろん、今も克哉の指で光っていた。
そして今年こそは去年のような失態を演じるまいと、克哉は早めに準備を始めることにしたのだった。
御堂の休日出勤にこれ幸いと思ったことなど、御堂には絶対に内緒にしなければならない。
ひとり買い物に出掛けた克哉は、やはりすぐにプレゼントを思いつくはずもなく、ひとまず参考の為にとこの指輪を買ってもらったお店に足を運んでみることにした。
一目惚れと言おうか、直感と言おうか。
そのお店で小さなアメジストの埋め込まれたシルバーのネクタイピンを見つけた瞬間、克哉はそれに決めてしまっていた。
とにかく、絶対に御堂に似合うと思ったのだ。
誕生日までにはまだ時間がたっぷりとあったけれど、今買わなかったとしても、きっと散々迷った挙句、結局ここに戻ってくるに違いない。
そしていざ買おうとしたときに、売り切れていたら元も子もないではないか。
衝動買いのようになってはしまったけれど、克哉はこの買い物に充分満足していた。
そしてプレゼントに添えるカードを、と思ったのだが、今度はそこに書く文面で迷っている。
克哉はダイニングのテーブルで、もう小一時間もこうしているのだった。
(どうしようかなぁ……)
御堂に伝えたい言葉は、そう多くない。
大好きです。
愛しています。
ずっと一緒にいてください。
直接口に出すよりも、字で書くほうがなんとなく恥ずかしい気がするのはおかしいだろうか。
言葉ならばすぐに消えてしまうけれど、文字は形として残る所為かもしれない。
メールではなく、肉筆となれば尚更だ。
ペン先を幾度も紙に置こうとしては、躊躇うのを繰り返す。
思い切りの悪い自分がいい加減イヤになって溜息をついたとき、玄関のドアが開く音がした。
(ま、まずいっ)
克哉は慌ててカードと箱を抱え、ベッドルームに逃げ込む。
自分の着替えが入っている引き出しを開けて、その奥にプレゼントを隠した。
それから何食わぬ顔でリビングに戻ると、そこには既に帰宅した御堂の姿があった。
「お、お帰りなさい、御堂さん。お仕事、終わりました?」
「ああ、お陰様でな。君は何をしていたんだ?」
普段なら、御堂が休日出勤ともなれば克哉もつき合うのが当たり前だったが、今日は敢えて申し出なかったのだ。
そのことを御堂に訝しく思われるのではないかという克哉の心配は、杞憂に終わったらしい。
克哉は曖昧に返事をした。
「オレは、家のことをやったりとか……あとは適当に過ごしてましたよ」
「そうか」
御堂は微笑み、そのままクローゼットへと向かう。
(あれ……?)
しかし御堂が克哉の脇を通り過ぎたとき、克哉は妙な違和感を覚えた。
何処がどうというわけではないのだが、なんとなく胸がざわめく。
御堂は、いつもと変わらない。
克哉は御堂の後ろ姿を追いながら、その違和感を気の所為だろうと思うことにした。
「今日はせっかくの休みだったのに、悪かったな」
御堂はスーツの上着をハンガーに掛けると、ネクタイを解きながら言う。
「いえ。仕事なら、仕方ありませんから」
「先にシャワーを浴びてくるが……」
「あ、はい」
「君も一緒に入るか?」
「えっ?!」
克哉が一瞬にして顔を真っ赤にするのを見て、御堂はククッと笑った。
「冗談だ」
「……」
御堂は克哉の肩をぽんと叩き、バスルームの方へと消えていく。
いつもこうして、からかわれてばかりいるのだ。
克哉はなんとなく悔しくなって、御堂の後を追った。
バスルームからは、シャワーの激しい水音が聞こえてくる。
克哉は脱衣所でそっと服を脱ぐと、出来るだけ音を立てないように擦りガラスの扉を開けた。
「御堂さん……」
「……克哉?」
御堂が慌ててシャワーを止める。
濡れて落ちた前髪の隙間から克哉の姿を確認すると、さすがの御堂も少しばかり驚いたようだった。
「あの、オレも……一緒に……」
からかわれたことに対する軽い仕返しのつもりだったはずなのに、やはり克哉は羞恥に顔を赤くしながら俯いてしまう。
そんな克哉に御堂はクスリと笑いながら、手招きをした。
「私が洗ってやろう」
白い泡に覆われた胸の尖りを撫でられると、克哉はそれだけでせつなげに息を吐き出した。
「はぁっ……ん……」
「今夜は、ベッドでゆっくりと君を抱こうと思っていたんだがな……。君の方から誘ってくるとは、珍しい」
克哉を背中から抱き締めた御堂が、耳元で低く囁く。
絶え間なく蠢く指先に、克哉の身体は細かく震えていた。
「誘ったのは……御堂さんじゃないですか……」
「冗談だと言ったはずだが?」
後ろから耳朶を甘噛みされて、克哉は思わずびくりと肩を竦める。
「んっ……冗談に、取れません……」
「それは、君がそれを望んでいたからだろう?」
「そんな……」
背中にぴったりと密着している御堂の体温が、いつもより高く感じる。
胸から腹をぬるぬると滑る手のひらで撫でられると、もどかしさと気持ち良さに自然と腰が揺れた。
御堂の手は片方で胸を弄ったまま、もう片方が克哉の中心に伸びる。
すっかり勃ち上がったそれを緩く握り締め、御堂はゆっくりと手を動かした。
「……これでは、すぐにイってしまいそうだな」
「あっ……や……」
確かに御堂の手の中の屹立は、今にも弾けそうなほどに硬くなっている。
克哉は右手を後ろに回して、御堂の腰を引き寄せた。
そして甘えるように首を後ろに倒し、御堂の肩に頭をすり寄せる。
「孝典、さん……」
克哉が呟くと、御堂が克哉の湿った髪に頬を寄せた。
熱い吐息が頬の辺りにかかって、克哉は目眩を覚える。
御堂の前髪から落ちてくる雫にさえ、感じてしまうほどだ。
さっきから弄られ続けている胸の尖りはじんじんと痛むように痺れて、既に感覚を失っていた。
「もう、欲しいのか?」
「は、い……」
御堂は自分の中心を、わざと克哉の双丘の間に押し付ける。
けれどそれは克哉を貫くことはなく、ただその狭間をゆるゆると往復するばかりだ。
「孝典さん……焦らさない、で……」
「焦らされるのは、好きだろう?」
「あっ……!」
御堂が手の中の屹立を、突然激しく扱きだす。
克哉は思わず前傾姿勢になって、膝をがくがくと戦慄かせた。
「ダメ、です……っ……! 出ちゃうっ……」
不安定な体勢に堪らず、目の前にある濡れた壁に両手をつく。
すると今度は、いきなり根元をきつく握り締められた。
「ああっ……!」
イきたいのにイかせてもらえない苦しさに、克哉の目に涙が浮かぶ。
御堂は泡に塗れた身体を克哉に覆い被せて、愛しげにその名を呼んだ。
「克哉……」
そして不意に身体が離れたと思った直後、克哉は後孔に屹立を突き立てられた。
「あっ……ああっ……!」
息が詰まる。
御堂の熱が入り込んでくる感覚に、克哉は濡れた吐息を漏らす唇を閉じることすら出来ない。
ハァハァと荒い息を吐きながら、自分の身体が御堂を絡めとろうとひくついているのが分かる。
時折御堂が漏らす呻き声に、どうしようもなく興奮した。
もっと、あなたが欲しい。
克哉は御堂を締め付け、更に奥へと御堂を誘う。
何度こうして抱かれても、悦びが褪せることはない。
御堂のものが中を往復し始めると、克哉はその律動に合わせて漏れる声を堪えることが出来なかった。
「あっ、あっ……孝典、さん…………いい……」
ずっと、こうして繋がっていたい。
少しも離れたくはない。
出来ることならば、永遠に。
しかしその願いとは裏腹に、やがて快感は終わりを連れてくる。
もっと感じていたいのに、もっとこのままでいたいのに、求めれば求めるほどに解放は近づき、
掴まえたと同時に離れていく。
そのジレンマに胸を掻き毟りたくなるような衝動を覚えながら、それでも克哉は激しく腰を揺らし続けた。
「あぁっ、もう、イく……孝典さ、ん……出る……!」
「克哉……っ」
「ん……は、あぁぁっ……―――!」
バスルームに一際高い嬌声が響き、克哉は喉を見せながら背中をしならせた。
その瞬間、泡に塗れた屹立から白い精が噴き出し、濡れた床や壁に飛び散る。
最奥に御堂の熱を感じながら、克哉はいつまでも解放の余韻に身体を震わせていた。
- To be continued -
2008.09.10
→次話
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