waiting for you
鍵穴に鍵を差し込み左方向へ回転させると、カチャリと軽い金属音が鳴る。
最近になってようやく使い慣れてきたカードキーとはまったく違う感覚だったが、ついこの間まではこれが当たり前だと思っていたのだ。
けれど今では久し振りに開けたドアさえも何処か薄っぺらく感じてしまって、克哉は自分が住んでいたこのアパートと御堂のマンションとのセキュリティの差を実感する。
とはいえ、ここにはどうせ盗まれて困るようなものなど何も無いのだが。
「ただいまぁ……」
返事が無いと分かっていても、そう言ってしまうのは一人暮らしを始めた頃からの癖だ。
声は真っ暗な空間へと吸い込まれ、何も返ってくることはない。
靴を脱いで部屋へと上がり、壁のスイッチを押す。
暗闇の中でもそれが何処にあるのかぐらいは身体が覚えていた。
天井の中央からパチパチと幾度か瞬くような音がしたあと蛍光灯の真っ白い光が部屋を照らし、その眩しさに克哉は目を細める。
ここに戻ってくるのは二週間振りぐらいだろうか。
ポストから取ってきた僅かな郵便物をテーブルの上に投げ出し、脱いだスーツの上着をハンガーに掛けると、狭い部屋を見渡した。
家具の配置も棚に並んだ本の順番も何ひとつ変わっていないはずなのに、少し留守にしていただけですっかり生活感が無くなってしまったように感じる。
とにかくまずはこの澱んだ空気を一掃したい。
窓を開けると、一気に流れ込んできた夜気の冷たさが心地良かった。
「はぁ……」
十時を過ぎた住宅街はとても静かだ。
道を一本挟んだ向こう側には幾つもの家が並んでいて、もしもそこの住人が窓から顔を出したら、すぐに目が合ってしまうぐらいには距離が近い。
それは御堂のマンションから見る景色とは余りにも違っていた。
「御堂さん……」
あの大きな窓から見える夜景を思い浮かべると、無意識にその名が唇から零れる。
御堂から急な出張が入ってしまったと聞かされたのは一昨日の夜のことだった。
名古屋で開かれる同業社のカンファレンスに参加するはずだった担当者が出席出来なくなり、急遽代わりを頼まれたらしい。
寂しいのは事実だったけれどたった一泊だし、自分もMGNへの異動を控えての残務処理があるからちょうど良かったのだと言い聞かせてはみたものの、こうしていざ一人の夜を過ごすことになれば、頭の中に浮かぶのは御堂のことばかりだった。
昨日の夜はバルコニーから星空を撒いたような街を見下ろしながら、二人でお酒を飲んだ。
まだ少し寒かったから、ぴったりと身体を寄せ合って、微笑みの合間にも時々キスを交わして。
今日に備えて早く眠らなければいけないはずなのに、お互いにその話を避けるように喋り続けていた。
そうやって他愛のない会話をしているうちに少しずつキスの回数が増えて、その時間も長くなって……。
「―――っ!」
突然、克哉は勢いよく窓とカーテンを閉めると、そのままベッドにダイブした。
枕に顔を押しつけ、ううと意味の無い唸り声を上げる。
あの後に寝室で起きたことを思い出して、堪らなくなってしまった。
御堂にされたこと一つ一つを、頭ではなく身体が覚えている。
御堂の表情、御堂の言葉、繰り返されるキス、絡む指先、そして―――身体の奥深くを貫く熱。
「……っ…」
目を閉じれば、それらの記憶はますます鮮やかに甦る。
体温がじわりと上がって、吐息が震えだす。
息苦しさにネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外せば、指先はそのまま快楽の名残を追いかけようとして鎖骨をなぞった。
ここを御堂の舌が這った。
それはゆっくりと滑り落ちて、やがて胸の尖りに辿り着く。
小さな突起を舐められるとそこは容易く硬くなり、全身に甘い疼きを広げていった。
軌跡はそのまま今の克哉にも欲望の火を灯してしまう。
思わず腰を揺らすと、熱を持ち始めた中心がシーツに押しつけられて微かな喘ぎ声が漏れた。
「……ぁ……孝典……さ、ん……」
たった一日会えないだけで、こんなにも御堂に飢えているなんて自分は狂ってしまったのではないかと怖くなる。
けれど、御堂に狂えるなら本望だ。
もっと狂って、溺れて、何も考えられなくなってしまいたい。
御堂のことだけを感じていたい。
高まる欲望に耐えきれず、克哉がとうとう下肢に手を伸ばしかけた、そのときだった。
「!!」
スラックスのポケットに入れていた携帯電話が震えて、着信を知らせる。
克哉は慌てて起き上がると、ディスプレイに表示された名前を見てぱっと顔を輝かせた。
「……も、もしもし?!」
『克哉か。私だ。今、話しても大丈夫か?』
「御堂さん……! はい、もちろん大丈夫です!」
嬉しさのあまり上擦ってしまった声に、電話の向こうの御堂がクスクスと笑う。
笑われて恥ずかしいはずなのに、その笑い声を聞けたことさえも嬉しいのだからどうしようもない。
克哉もつられて照れ笑いしながら、御堂の声を少しも聞き漏らすまいと耳を澄ませた。
御堂は既にホテルの部屋に戻っているのか、とくに他の物音は聞こえてこなかった。
「お疲れ様です。お仕事はもう終わったんですか?」
『ああ。今、ホテルに着いたところだ。君は今、何処にいる?』
「アパートに戻ってます。……自分の部屋のはずなのに、久し振りすぎてなんだか落ち着かないです」
『そうか』
そう答えた御堂の声が何処となく嬉しそうに聞こえたのは気の所為だっただろうか。
しかし実際、いまやここよりも御堂の部屋で過ごす時間のほうが長いのだから仕方がない。
……いや、時間の長さの問題ではないのだろう。
御堂の傍にいるときが一番ドキドキしながらも、一番落ち着くのだ。
だからいつもならば一緒に過ごしているはずのこの時間に、こうして一人でいることが酷く物足りなくて寂しい。
けれどそんな風に思っていることを、御堂には決して悟られたくはなかった。
この程度で寂しがるなど、大人な御堂の恋人としては相応しくないような気がしたからだ。
「あの、えっと……ゆ、夕飯はもう食べましたか?」
なんとか明るい話題を探して、ようやく出たのが夕食の話とは我ながら情けない。
けれど、こんなくだらない話にも御堂はちゃんと付き合ってくれる。
『夕飯か? 会合の後の懇親会が立食パーティだったので、そこで適当につまんだぐらいだが……。君は何を食べたんだ?』
「オレは……その、コンビニのお弁当で済ませちゃいました。自炊する気にもならなかったので」
『そうか。まあ、たまには仕方がないだろうな』
「あはは……」
コンビニの弁当を食べたなんて嘘だ。
本当はどうにも食欲が湧かなくて、昼間におにぎりを食べたきり何も口に入れていない。
けれどそれを言ったら御堂に心配をかけそうで、咄嗟に嘘をついてしまった。
悪意からではないものの、つまらない嘘をついてしまったことに克哉は内心落ち込む。
『それで、明日のことなんだが……』
やがて御堂に切り出されて、克哉はますます暗い気持ちになった。
『私は午前中にこちらを出て、一旦自宅に戻るつもりだ。それからすぐに出社するが、恐らく八時ぐらいには上がれると思う。君はどうだ?』
「あ、あの……」
言い辛いことではあるが、言わないわけにはいかない。
克哉は歯切れの悪い口調で話し出した。
「すみません。実は、明日も挨拶回りの予定が入っていて……。事務処理もまだ残ってるので、何時ぐらいに帰れるかちょっと分からないんです……」
克哉のMGNへの異動が正式に決まったのは、つい先日のことだった。
今までも週に一度のペースでMGNでの勤務が入っていたが、来月からは完全に異動することになる。
となるとその間に今までの営業先に挨拶回りをしたり、使っていた資料の整理やマニュアル化をしたりと、やらなければならないことは山積していた。
通常の仕事とMGNでの勤務、それに加えて異動の準備となればかなりのハードスケジュールだ。
しかもあれもこれもと完璧にしようとしすぎる性格の所為か、単に要領が悪いのか、人よりもそれらに時間が掛かることは目に見えている。
それでも異動に関してはMGN側にもキクチ側にも随分と配慮をしてもらっただけに、どちらにも迷惑を掛けないよう出来る限りのことがしたかった。
(でも……)
御堂に会いたい。
どんなに忙しいときでも一時間、いや三十分でもいい、会って、御堂に触れて、キスがしたい。
御堂が出張から戻る明日だけはなんとか早く帰れないものかと予定を調整してみたものの、やはり確実なことは約束出来そうになかった。
とくに挨拶回りに関しては、異動を惜しんでくれる営業先で長々と話し込んでしまうことも多く、キクチに戻るのが夕方以降になってしまうのは間違いない。
約束をしても、御堂を待たせてしまう可能性は高かった。
本音を言えば、待っていてもらえると嬉しい。
けれど克哉には、その一言がどうしても言い出せない。
自分が待つ側ならば何時間待たされても平気だったけれど、反対の立場となると話は別だ。
何時になるかも分からず、どれぐらいの時間を一緒に過ごせるかも分からない、そんな曖昧な状況でどうして「待っていてほしい」なんて言えるだろう。
「で、ですから、明日は」
会えません、と続けようとした言葉は、しかし御堂によってあっさりと遮られてしまった。
『では、明日は私が君の部屋で待たせてもらうというのはどうだ?』
「……へっ?」
その意外な申し出に克哉は驚き、戸惑う。
「オ、オレの部屋で……ですか?」
『ああ。キクチからなら私の部屋まで来るよりも、そちらに帰ったほうが近いだろう? だからそちらで会ったほうが、君も楽だと思ったんだが。勿論、帰宅の目処がつき次第、連絡をくれれば迎えに行っても構わない』
「そ、それは……でも」
確かにそれはそうだ。
御堂がここで待っていてくれれば、マンションまで行くよりも早く会える。
御堂のほうから、そう言い出してくれたことは素直に嬉しい。
嬉しくて嬉しくて堪らない。
けれどどうしても申し訳なさが先に立ってしまって、あれこれと余計なことを言ってしまう。
「で、でも御堂さんも出張帰りでお疲れでしょうし、オレも本当に何時になるか分かりませんし、すごくたくさん待たせてしまうかもしれませんし、それに……」
『……黙れ』
いつまでも続きそうな克哉の言い訳を、御堂の低い声が制する。
克哉は御堂を怒らせてしまったと思って、びくりと身体を強張らせた。
そして少しの間のあとに、御堂が絞り出すような声で呟く。
『……君に、会いたいんだ』
「御堂さん……」
克哉が思っていたのと同じように。
ほんの僅かな時間でもいいから会って、触れて、キスがしたいと克哉が思っていたように、御堂もまた思ってくれていたのだ。
御堂の声からはそれが痛いぐらいに伝わってきた。
『……もし、君がどうしても無理だと言うのなら諦める。だが』
「む、無理じゃないです! あの、それじゃあ……オレの部屋で、待っていてもらえますか……?」
克哉が御堂の部屋で待っていたことは何度もあるが、その逆は初めてだ。
想像するだけで楽しみで、照れ臭くて、胸が高鳴る。
ようやく素直に申し出を受け入れた克哉に、御堂はほっと息を吐いた。
『では、そうさせてもらおう。せっかく君からも合鍵をもらったのに、まだ一度も使っていなかったからな。いい機会だ』
「はい! あっ、でも、今からじゃ掃除出来ない……」
『そんなことは気にしなくていい』
御堂がおかしそうに笑う。
早く明日になればいい。
明日は会えないと覚悟していたときからは考えられないほどに、今は明日が待ち遠しかった。
それから「おやすみ」の言葉を交わして、電話を切ってからも、克哉は自然と頬が緩むのを抑えられなかった。
御堂の優しい声がいつまでも耳を離れなかった。
翌日、克哉がキクチを出たのは十時を過ぎていた。
駅からアパートまでの暗い道を小走りで帰る。
少しでも早く御堂に会えるようにと頑張ったのだが、やはりこの時間になってしまった。
それでも我ながら今日は随分と仕事が捗ったように思う。
鋭い片桐に「何かいいことでもあったんですか」と尋ねられたときには少々動揺してしまったけれど、今日中に終わらせたいと思っていた作業は無事にこなすことが出来た。
これも愛の力だな、などと考えて、克哉は一人で笑った。
やがてアパートが近づいてきて、自分の部屋に灯りがついていることに気づく。
こんな光景を見るのは初めてだ。
あそこに御堂がいるのだと思うと我慢出来なくなって、とうとう克哉は走り出した。
仕事で疲れているはずの身体が信じられないぐらい軽い。
階段を駆け上がり、家のドアの前に立つ。
そしてキーケースから取り出した鍵を鍵穴に刺そうとしたところで、向こうからドアが開いた。
「おかえり、克哉」
「……!!」
笑顔で出迎えてくれたのは紛れも無く御堂だった。
その姿を目の前にした途端、克哉の身体がふらりと傾く。
「お、おい、大丈夫か?」
慌てた御堂に支えられながら部屋に入ると、克哉は今にも泣きだしそうな笑顔を浮かべた。
「……すみません……嬉しすぎて、なんだか力が抜けちゃって……」
「なんだ、それは。体調が悪いわけではないんだな?」
「はい、大丈夫です。……えっと、た……ただいま、御堂さん……」
お互い妙な気恥ずかしさを感じながらも、いつものように軽くキスを交わす。
当然それだけでは足りなくて、克哉は御堂の首に腕を回して思いきり抱きついた。
「……御堂さんも、お帰りなさい」
「ああ。ただいま、克哉」
そして、今度はもっと深くくちづける。
待ち侘びていた温もりと感触に身も心も蕩けそうになった。
このままずっとこうしていられればいい。
きっと二人ともそう思っていたのだろう、唇が離れては重なるのを何度も繰り返し、なかなかそれは終わらなかった。
「御堂さん……」
長いキスがようやく終わったころには、克哉の頬は紅潮し、瞳はすっかり潤んでいた。
けれどまだスーツの上着も脱いでいなければ、待たせてしまった御堂をもてなしてもいない。
克哉はなんとか気持ちを切り替えて御堂から身体を離した。
「あ、あの……お待たせしちゃってすみませんでした。とりあえず、何か飲みますか? と言っても、コーヒーぐらいしかないんですけど……」
長く留守にするようになってから食料品はほとんど買い置きしていない。
早く帰ってくることばかり考えていて、買い物にまで頭が回らなかったことを後悔したが、開けてみた冷蔵庫の中には以前買ってそのままになっていた缶ビールが数本に加えて、見覚えのない袋が入っていた。
「あの、これって……」
「ああ、簡単につまめるものだけだが買ってきたんだ。勝手に入れさせてもらったぞ」
「そうだったんですか! ありがとうございます」
「良かったら一緒に食べよう。だが、とにかくその前に着替えをしてはどうだ? スーツのままでは窮屈だろう」
「あっ、そうですね。えっと……」
「……見ないほうが良ければ、後ろを向いているが?」
「だ、大丈夫です! オレが向こうで着替えてきますから!」
克哉は慌ててクローゼットから服を引っ張り出すと、背中に御堂の笑い声を聞きながら洗面所へと向かった。
着替えを済ませて、テーブルにビールとつまみを並べる。
ささやかな晩餐を二人で囲んだところで、克哉はようやく落ち着きを取り戻した。
この部屋に御堂といるなんて不思議な気がしたし、御堂の部屋のように立派じゃないことが少し恥ずかしくもあったけれど、恋人が自分の部屋に来てくれることはやはり嬉しい。
しばらくはそんないつもとは少しだけ違う雰囲気を楽しんでいたのだが、ふと御堂から出た言葉に一気に不安が広がった。
「……ひとつ、君に謝らなければならないことがある」
「えっ? な、なんでしょうか」
「これのことだ」
御堂は自分のキーケースにぶら下げられている、この部屋の合鍵を揺らしてみせた。
もしかして、やはり合鍵を渡したことが迷惑だったのだろうか。
ほとんど使うことはないだろうと思ったけれど、自分だけが御堂の部屋の合鍵を貰っているのは不公平な気がしたのだ。
余計なお世話かもしれない、自意識過剰かもしれない、でも……と散々迷って悩んだ結果、思いきって渡した合鍵だった。
もし何かあったときの為に、使わなくてもいいんです、ただ持っていてくれればと。
あのとき御堂は笑って受け取ってくれたけれど、やはり返したいと言われるのかもしれない。
心配で顔を強張らせている克哉に、御堂は気まずそうに言った。
「今日この合鍵を初めて使ってみて、君の気持ちがよく分かった。……これは、なかなか緊張するものだな」
「御堂さん」
以前、克哉がなかなか御堂の部屋の合鍵を使わないことに御堂が腹を立てたことがあった。
実際には使っていたのだけれど、それを知らなかった御堂は克哉から距離を置かれているのだと誤解してしまったのだ。
そして今日、御堂は初めていつもとは反対の立場を味わったことで、あのときの克哉の心境が理解出来たらしい。
そんな御堂の告白は、克哉にとっては少し意外なものだった。
「御堂さんでも緊張するんですか……」
「……君は私をなんだと思っているんだ」
つい漏らした本音にむっとした様子で言い返されて、克哉は慌てて言い訳する。
「あっ、いえ、だって、御堂さんはいつでも堂々としていて、緊張しているところなんて見たことがなかったから……」
「私だって緊張することぐらいある。……こういうのは初めての経験だったしな」
そう答えて、御堂は克哉に貰った合鍵を愛おしそうに見つめた。
「君がこれをくれたときは嬉しかった。ようやく私も君のテリトリーに入れてもらえるのだと思った」
「御堂さん……」
「ここで一人待つ間、君のことをずっと考えていた。私の知らない君が、今までこの部屋で何をして、何を考え、どんな風に過ごしてきたのかと……。
そうしたらとにかく君に早く会いたくなって、何処からか足音が聞こえてくるたびに君が帰ってきたんじゃないかと思って……どうにも落ち着かなくなってしまった。……おい、笑うな」
「す、すみません。でも、嬉しくて……」
御堂がそんなにも自分のことを考えていてくれたのだと思うと、嬉しいような恥ずかしいようなくすぐったい気持ちになる。
この部屋でそわそわしながら自分の帰りを待っていてくれた御堂を想像して、自分はとてつもなく幸せだと克哉は思った。
「分かってもらえて嬉しいです。緊張しますよね」
「……ああ。私ともあろう者が、こんな風になるとは思わなかったがな」
笑いながら克哉が身体を寄せると、御堂に肩を抱かれる。
視線が絡めば、自然と瞼が閉じて唇が重なった。
キスをするたびに、ますます御堂のことが好きになるのはどうしてだろう。
柔らかくて、熱くて、近すぎる距離に愛しさが溢れだす。
もっと近づきたい。
もっと触れ合いたい。
克哉は御堂に縋りつくようにして、キスの続きを強請った。
「んっ……」
御堂の掌が克哉の頬から首筋を撫で、そのまま肩から脇腹を滑り落ちていく。
シャツの裾から冷たい掌が忍び込んできて、克哉は思わず身体を震わせた。
身を捩ると、足が絡みあう。
指先が小さな尖りを見つけ、そこをきつく捻られると、無意識に声が漏れた。
「あっ……!」
予想以上に大きな声が出てしまって、慌てて唇を噛んだ。
けれど御堂の指は容赦なく、そこを捏ね回す。
どうしても声が抑えきれず、克哉は御堂の肩口に顔を押しつけた。
「や、っ……御堂、さん……ここ、は……」
「……知っている。あまり大きな声を出せば、隣りの住人に聞こえてしまうかもしれないな」
「…っ……で……でも……」
「……我慢出来ないんだろう?」
耳元で低く囁かれて、その声にさえ感じてしまう。
克哉は顔を真っ赤にしながらも素直に頷いた。
「ふっ……なら、頑張って声を抑えたまえ」
「……!!」
御堂の指に殊更きつく乳首を捻られ、克哉の身体がびくんと大きく跳ねた。
それでも咄嗟に口を押えたおかげか、声を出さずには済んだ。
「……いい子だ」
囁きに合わせて耳たぶを口に含まれる。
克哉はぶるぶると身体を震わせながら、その快楽にひたすら耐えていた。
やがて御堂の手は下肢へと降りていく。
緩く開かれた両足の間に掌が滑り込むと、布地越しの内腿を摩られた。
それが幾度も足の付け根を掠めて、もどかしさに腰が揺れる。
克哉は息を乱しながら、御堂の首にかじりついた。
「孝典、さん……オレ……」
「どうする……? どうしてほしい?」
「……触っ、て……」
克哉が言うと、御堂は克哉のジーンズのボタンを外し、ファスナーを下した。
すっかり熱くなっていた屹立は、グレーの下着を持ち上げている。
御堂はそこを下着の上から撫でた。
「……これでいいか?」
御堂がわざと聞いているのは分かっていた。
意地悪な問い掛けに、克哉は必死で首を振る。
「違っ……そうじゃ、なくて……」
「そうじゃなくて?」
「直接……直接、触ってください……」
半分泣き声になっての懇願に、御堂は笑いながら克哉の下着を下ろす。
「あっ……は、ぁ……!」
直接握られ、緩く擦られると、克哉は御堂にきつくしがみつきながら高い声を上げた。
もう本当に我慢出来ない。
御堂の手の動きに合わせて腰が揺れるのを止められない。
克哉は声を出さないようきつく唇を噛んだものの、喉の奥からは引っ切り無しに呻くような音が漏れていた。
「んっ…! ん……! う、っく…!」
「……このまま出しても構わないぞ」
「……!」
それはイヤだ。
克哉は首を振って、おずおずと御堂の下肢に手を伸ばす。
「…欲し……孝典さん……あなたで、イきたい…っ……」
「私は構わないが……いいのか?」
「……」
克哉が頷くと、御堂は一旦手を離す。
それから克哉のジーンズと下着を脱がし、自分も前を寛げた。
「私の上に乗りたまえ」
そう促されて、克哉は床に座っている御堂の上に跨る。
御堂の助けを借りながら、克哉は御堂の屹立にゆっくりと腰を落としていった。
「……っ! く、っ…ふ……」
入ってくる熱に少しずつ中を満たされていく。
御堂と繋がるこの瞬間は、いつも少しだけ怖くなる。
自分がおかしくなりそうで、全てを知られてしまいそうで、けれどそれを望んでいるのも本当だった。
やがて御堂と完全に一つになってしまうと、内壁はどくどくと脈打ちながら更なる欲望を訴えかけてくる。
克哉は自ら腰を揺らして、御堂を絡め取っていった。
「克哉……」
「あ、っ…! んっ、ぁ……!」
腰を抱えられ、揺さぶられればまたしてもつい声が漏れる。
御堂のものが弱い場所を突き上げるたびに電気が走ったように頭の中が白くなって、次第に何も考えられなくなっていく。
声を聞かれてしまうかもしれないという心配よりも、ただ与えられる快楽に溺れてしまいたくなる。
克哉は御堂の肩に手を置いて、自らの動きを激しくしていった。
「っ…く……孝典、さん…っ……いい……!」
「ああ……私も、だ…克哉……」
「んっ……」
貫かれながら唇を重ねる。
突き上げる激しさそのままに、夢中で舌を絡め合った。
乱れる吐息も、喘ぐ声も、貫く熱も、全てを飲み込んで、全てを飲み込まれる。
何もかも混ざり合ってしまう。
克哉の先端から溢れた蜜が二人の繋がる場所へと流れ、そこは卑猥な水音を立てる。
「はっ……あ……もう、ダメ……イく……!」
高まってくる射精感に堪らず呟く。
それを聞いて、御堂はますます激しく克哉を揺さぶった。
克哉もまたその律動に身を任せる。
「あ、っ……イく……ほんと、に……イく…あっ、あぁっ……!」
「克哉…っ……!」
「ん、あ、あぁ…ッ―――……!」
その瞬間、克哉はぎゅっと御堂にしがみついた。
互いの身体に挟まれた克哉の屹立がどくんと脈打ち、小孔から精液が溢れ出る。
克哉は腰を押しつけるようにしながら幾度も痙攣を繰り返して吐精すると、御堂の下肢をしとどに濡らした。
そして御堂もまた克哉の奥に熱い精を放つ。
二人は呼吸が整うまで、しばらく繋がったままくちづけを繰り返していた。
シャワーを浴びて、狭いベッドで少しだけ眠ったあと、夜が明ける前に御堂はマンションに帰ることになった。
泊まっていってほしかったけれど、この部屋ではなかなか難しい。
帰る準備をする御堂の背中を見ていると、またしても寂しさが込み上げてきた。
「孝典さん……」
名残惜しさにジャケットの裾を引っ張ると、御堂が振り向く。
御堂は笑って克哉にキスをくれた。
「明日の予定は?」
「外回りの予定がないので、一日中キクチにいると思います。明日は早く上がれると思うんですけど……」
「そうか。私は夕方から面会が二件入っているんだ。もしかしたら、帰りは少し遅くなるかもしれない」
「そうですか……」
なかなかうまくいかないものだ。
しかし、お互いに仕事があるのだから仕方がない。
それでも残念な気持ちが顔に出てしまっていたのだろう、御堂は克哉の頬に優しく触れながら言った。
「だから、明日は私の部屋で待っていてくれるか? なるべく急いで帰る」
「……! はい……!」
克哉は瞳を輝かせて頷いた。
待っていてほしいと言われることが、こんなにも嬉しいなんて知らなかった。
大好きな人のことを想いながら、大好きな人の帰りを待つ。
それはなんて幸せなことだろう。
「それじゃあ、また今夜」
短い別れのキスを交わして、今度こそ克哉は笑顔で御堂を見送った。
- end -
2015.03.10
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