Classical

Top Secret

午後九時。
自分のデスクに座り、ホチキス止めされた数枚のA4用紙に目を通しながら、克哉は考え込んでいた。
所在なく紙を捲るたび、その乾いた音は静まり返ったオフィスの空気へと溶けていく。
もう一時間ほどこうして用紙とにらめっこをしているのだが、状況はまったく変わっていない。
克哉は指先でくるくると器用にボールペンを回しながら、書き込むスペースが空白のままの紙を見つめ続けていた。
「佐伯くん」
「!」
少し離れた背後から声がして、克哉の心臓が小さく跳ねる。
振り返った視線の先には、こちらに向かって歩いてくる御堂の姿があった。
「御堂部長。終わったんですか?」
「ああ。待たせてすまなかった」
「いいえ、大丈夫ですよ」
もうオフィスには克哉と御堂以外に誰もいないとはいえ、名前の呼び方はまだビジネスモードだ。
けれど交わす微笑みはすでに恋人同士のそれになっていて、表情にも仕事中には決して見せない柔らかな優しさがある。
御堂は隣りのデスクに鞄を置くと、克哉が手にしている用紙を覗き込んだ。
「何をしていた?」
「……例のアレです」
克哉が苦笑混じりに用紙をひらひらと揺らしてみせると、御堂もまた眉間に皺を寄せながら「アレか」と呟く。
そして鞄の中から克哉が持っているのとまったく同じ用紙を取り出して、隣りの椅子に腰を下ろした。
「……」
「……」
二人してその紙を見つめ、無言になってしまう。
そこに記載されていたのは年末に発売を予定している、新しい清涼飲料水の企画についてだった。
もともとは昨年の社内コンペにノミネートされた企画で、プロジェクトチームが女性のみで構成されていることでも注目を集めていたのだが、 結果的に見事最優秀賞を受賞し、それ以来本格的に開発が進められてきたものだった。
商品は『女性による、女性のための癒し清涼飲料水』がコンセプトということで、 当初は三種類のフレーバーと、それに合わせた華やかで可愛らしいパッケージデザインが採用されることになっていた。
ところがここに来て、急遽パッケージデザインを変更することになったらしい。
御堂と克哉は直接このプロジェクトには関わっていなかったが、一室のメンバーで参加している女性社員がいたこともあり、それなりに進捗状況を耳にはしていた。
聞くところによると肝心の中身に関しては割とスムーズに開発が進み、早々にプロジェクトメンバーの全員が納得出来るものに仕上がったようなのだが、パッケージに関してはかなり揉めたらしいのだ。
デザインの担当部署も次々と上がってくる細かい注文に出来るだけ応えようと頑張ったのだが、チームからはなかなかOKが出ず、後半はかなり険悪な関係になってしまったということだった。
そんな中、先週ようやくデザインが決定したと聞いたばかりなのに、いったい何があったのか。
しかも、まさか自分たちが巻き込まれる羽目になるとは―――。
御堂はその用紙を馬鹿馬鹿しいと言わんばかりにデスクに放り出すと、しかめ面のまま腕を組んだ。
「こんなことで本当に大丈夫なのか。スケジュールとしてはギリギリだろう」
「さぁ……でも、提案したメンバー以上に大隈専務がノリノリみたいで。今はこういうのが流行っているから間違いない、って太鼓判を押したそうですよ」
「あの人は……」
御堂は目頭を押さえた。
大隈はだいたいにおいて有能な上司ではあるのだが、時々とても面倒な上司になることも御堂はよく知っている。
今回の無謀ともいえるデザイン変更案にあっさりGOを出したのも、彼らしいといえば彼らしい。
御堂は一度は放り出した企画書を再び手に取ると、やけに冷めた目つきでそれを眺めた。
「爽やかなイケメンに癒される飲料水……」
御堂の呟きに克哉がぶっと吹きだす。
書いてある文章を読んだだけだというのに笑われてしまった御堂は、克哉をじろりと睨みつけた。
実際そこに記載されているパッケージ案は、当初の予定とは随分と方向性の違うものになっていた。
ただ華やかで可愛らしいデザインにするだけでは、他の類似商品との差別化を図るには弱すぎると判断したらしい。
そこでパッケージにはそれぞれのフレーバーに合わせたイケメン男性キャラクターのイラストをプリントすることにしたという。
白ぶどう味には憧れのツンデレ上司。
ピーチ味にはちょっと気弱な優しい幼馴染。
グレープフルーツ味にはしっかり者の可愛い後輩。
イラストの横には『疲れた女性を励ますセリフ』が添えられる予定で、更にはそれぞれのキャラクターに関する細かい設定が商品のホームページに掲載されるとのことだった。
いわゆる『萌えキャラパッケージ』というやつだ。
「……まぁ、確かに最近はこういうのが流行っているみたいですからね。擬人化、っていうんですか。食べ物や飲み物だけじゃなくて、入浴剤とか文房具とかいろいろ……」
「その流行りにうちも乗ろうというわけか」
「そういうことでしょうね」
そして再び沈黙が流れる。
けれど二人の気鬱はこれだけが理由ではなかった。
「……だが、だからといって何故我々が個人的に巻き込まれなければならない?」
御堂が呆れた様子で企画書を指先で叩く。
克哉が紙を一枚捲ると、そこには『アンケート』という文字が大きく印字されていた。
質問は全部で5つ。
『あなたのストレス解消法はなんですか?』、『休日の過ごし方は?』、『座右の銘を教えてください』、『好きな女性のタイプは?』、『疲れている様子の幼馴染(女性)に掛けてあげたい言葉は?』。
ちなみに御堂が持っている用紙では、最後の質問が『疲れている様子の部下(女性)に掛けてあげたい言葉は?』になっている。
要するにキャラクターの設定を考える際の参考にするためのアンケートだということだった。

この用紙を渡されたのは今日の昼休みのことだった。
時間にあまり余裕が無かったため、今日のランチは社食で済まそうと二人で食堂に向かっているとき、このプロジェクトのリーダーを務めている女性から声を掛けられた。
今思えば、彼女には待ち伏せされていたのだろう。
同じく食堂に向かうところだったという彼女は、克哉達と並んで歩きながらこの企画について話しはじめた。
そして、その件ならばだいたいのことは把握しているがと御堂が答えた途端、彼女はぱっと顔を明るくして持っていたファイルからこの用紙を取り出したのだ。
そのあとはもう、彼女の独壇場だった。
『つきましては、どうか御堂部長と佐伯さんにこちらのアンケートにご協力頂けないかと思いまして』
『アンケート? なんのだ』
『はい。社内に各キャラクターのイメージに合う人物はいないだろうかと話し合いましたところ、ツンデレ上司には御堂部長が、優しい幼馴染には佐伯さんのお名前が挙がったんです。 もちろん他にも何人かお名前が挙がった方がいらっしゃいまして、その方たちにもご協力をお願いする予定です。でも、お二人が一番賛同が多くて。 ですので、ぜひこちらのアンケートに答えて頂いて、それらを参考にキャラクターの設定を考えさせて頂きたいんです。 設定にリアリティを持たせるためですので、どうかご協力頂けませんでしょうか』
彼女は一息に捲し立てながら、半ば強引に用紙を押しつけて来る。
唖然としながらも勢いに圧されてついそれを受け取ってしまった克哉と御堂を前にして、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
『な、なんだ、それは……』
『えっ、オレも……ですか?』
『はい! 一番最初にお名前が挙がったのがお二人だったんですよ!』
そんなことを言われても、嬉しくもなんともない。
けれど言葉を失っている二人に、彼女は一歩も退く気はないと言わんばかりに畳みかけてくる。
『お願いします! あくまで参考にするだけですから、あまり深く考えず気軽に答えて頂ければそれで大丈夫なので……! それに、答えてくださった内容に関しては絶対に他へは漏らしません! プロジェクトの名に掛けてお約束致します! ですので、どうかお願いします! どうか……!』
そう言って、彼女は幾度も頭を下げる。
参考にするだけだから、と言いつつ、随分と必死な様子だ。
気づけば通りすがる人達にもじろじろと好奇の目を向けられていた。
なんだかとても恥ずかしくなって、克哉は身を縮める。
『……悪いが、断る。そもそもこのような質問は、プライバシーの侵害だ』
御堂も居心地悪く感じていたのだろう、しかめっ面になってさっさと話を終わらせようとする。
しかし突き返そうとする用紙を、彼女は絶対に受け取らなかった。
それどころか、ますます熱心に頭を下げてくる。
『お願いします! 無記名のアンケートになっていますので! ですから……!』
どうにもこうにも引き下がりそうにない。
その必死な姿にほんの僅か同情を覚えて伺うように御堂を見ると、御堂もまた克哉を見て小さく溜息をついた。
『……本当にこれは、そのプロジェクトに必要なことなのだろうな……?』
『はい、勿論です……! イラスト担当の方にイメージを伝えやすくするためにも、設定は先に決める必要があります。 しかし私たちだけで考えてもあまり現実味が無かったり、個人個人の好みばかりが出てぶつかってしまったりして、結局は他社製品と似たようなものになってしまいそうなんです。 ですので、どうか……どうかお願い致します……!』
要するに、イメージに近い人物の現実を提示することで、意見を纏めやすくしようという魂胆らしい。
スケジュールもきついようだし、リーダーとしてはこの切羽詰まった状況でなんとか考え出した苦肉の策だったのだろう。
それを察したらしい御堂は、不本意であることが伝わるようわざと盛大な溜息を吐きながらファイルを持った手を引っ込めた。
『……分かった』
諦めて、頷く。
そして今度はお礼を言いながら頭を下げ続ける彼女から、二人は逃げるようにして立ち去ったのだった。

そして終業後、克哉は御堂の仕事が終わるのを待っている間にさっさとこれを書いてしまおうと思ったのだが、結局はひとつも答えることが出来なかった。
適当に無難なことを書いてやり過ごせばいいのだと分かってはいるものの、いったいどんな答えが無難なのか、考えれば考えるほど分からなくなってきてしまう。
それに質問を見るごとに『御堂はなんて答えるのだろう』と、そればかりが気になってしまうのだ。
(好きな女性のタイプ、か……)
以前、本城から御堂は髪の長い美人とばかり付き合っていたと聞いたことがある。
外見的な好みはともかく、性格としてはどうなのだろう。
しっかりと自立した女性がいいのか、それとも控えめなほうが好きなのか……。
実際に御堂から愛されているのは自分であるときちんと自覚はしているが、やはり御堂の回答には単純に興味がある。
そしてもしもそこに書かれた答えが自分とはかけ離れたものだったなら、きっと複雑な気持ちになるだろう。
そんなことばかり考えているうちに、なんだかひどく疲労を感じて、とうとう克哉はデスクに突っ伏してしまった。
「どうした」
その様子に御堂が笑いながら、克哉の髪を一度だけ撫でる。
一瞬の温もりにそれでも大きな愛情を感じて、克哉は照れ臭そうに笑いかえした。
「考えすぎて、何を書いたらいいか分からなくなってしまいました」
「そこまで思い詰めることはないだろう。どうせ我々以外にも答える連中がいるのだから、ありきたりなことを書いておけばいいんだ」
「そうですよね。……じゃ、じゃあ……」
「うん?」
聞いてみてもいいだろうか。
御堂が何を書くつもりなのか。
克哉はおずおずとその質問が書かれた場所を指差した。
「じゃあ、孝典さんは……ここに、なんて書くつもりなんですか?」
「……」
克哉が示した指先には『好きな女性のタイプは?』と書かれている。
御堂はそれをじっと見たあと、不意に顔を近づけてきて意味ありげに笑った。
「気になるか?」
「えっ? そ、それは、まあ、やっぱり……気に、なります……」
「君こそ、なんて書くつもりだったんだ」
「オレは……まだ、考えていませんけど……」
「ふん……よし、分かった」
すると御堂は突然、いいことを考えついたとばかりに胸を張って言う。
「私はそこに『笑顔が可愛らしくて、芯の強い人』と書くことにしよう」
「はぁ……」
「……気の抜けた返事だな。君のことだぞ」
「えっ?!」
思いも掛けないことを言われて、胸が高鳴る。
笑顔が可愛らしくて、芯の強い人。
それが自分のことを言っているのだとは到底実感出来なかったが、どうやら御堂の目にはそう映っているらしい。
そんな風に言ってくれる人はきっと御堂以外にはいないだろう。
嬉しくて、けれどそれ以上に恥ずかしくなって、克哉は顔を赤くしながら俯く。
心なしか御堂の顔も赤くなっているように見えた。
「……じゃ、じゃあ、オレは『優しくて、努力家の人』って書くことにします……」
お返しとばかりに克哉が言うと、御堂は一瞬驚いたような顔をしたあと嬉しそうに目を細めた。
「それが私のことなのか?」
「は、はい! もちろんです! あ、でも、孝典さんがイヤなら、何か他のことを……」
「別にイヤだなどとは言っていない。では、さっさと書いてしまおうか」
「はい!」
それから克哉のボールペンを使って、二人で記入欄を埋めた。
質問からは少しずれているけれど、これがお互いのことを書いているなど誰も気づくはずがない。
一番気になっていたことが解消されて、克哉は内心ほっとしていた。
「でも、まだあと4つもあるのか……」
克哉がぼやくと、御堂が苦笑する。
「まったく厄介なことになったものだな、お互いに」
「そうですね。……でも本当は、オレに関してはついでだったんじゃないかと思うんです」
「ついで?」
御堂が訝しげに首を傾げる。
「はい。だってこれ、『イケメンに癒される清涼飲料水』なんですよね? イメージとして孝典さんの名前が挙がるのは分かりますけど、オレが出てくるはずないと思うんです。 だからきっと、あの場にオレもいたからついでに……って感じだったんじゃないかなって」
御堂はまさにこのキャラクターの設定通り、女性社員からの憧れの的だ。
真っ先に名前が挙がるのも頷ける。
けれど、別の設定とはいえ自分の名前がそういった場で挙がるなど克哉には信じられなかった。
恐らくは自分と御堂が同時にオフィスから出てきてしまったから、それで彼女は咄嗟に機転を利かしたに違いない。
しかし御堂はそんな克哉の考えを鼻で笑った。
「まさか、そんなことはないだろう。大切な企画に使うものを、ついでで済ませるとは思えん。それに、君は充分イケメンだと思うが」
「なっ……なにを、そんな……」
克哉はまた顔を赤くして狼狽える。
御堂のような人にそんなことを言われても嫌味にしかならないというのに、本人はまったく気づいていないようだから性質が悪い。
しかも多分、御堂は嫌味ではなく本気で言っているのだ。
だからこそ、とてつもなく恥ずかしい。
こんなときはさっさと話題を変えるに限るとばかりに、克哉はあえて明るい声を出した。
「……え、えーと……そうだ! 藤田君がしっかり者の可愛い後輩枠に選ばれたそうで、すごく喜んでいましたよ」
「……これに喜ぶ人間もいるのか」
「あと、ツンデレ上司の枠には大隈専務も立候補したみたいです」
「……もう、なんでもありだな」
二人でやれやれと肩を竦めあって、再び用紙を眺める。
すると不意に御堂が真剣な顔で尋ねてきた。
「……私はツンデレ上司、なのか?」
「えっ」
「そもそもツンデレという意味がよく分からないんだが」
「ええと……普段はツンツンしているけど、好意を持っている相手の前でだけはデレデレする……とか、そんな感じじゃなかったかと」
「ほう。私はそういうイメージで見られているということか」
「うーん、そう……ですね……」
改めて言われると、どうなのだろうかと克哉は考え込んでしまう。
ツンツンしているという表現だと悪い意味に聞こえてしまうが、仕事に対しての厳しい態度がそう見えることもあるのかもしれない。
けれど御堂がただツンツンしている冷たい人間のように思われているならば、そもそもこんなアンケートを頼まれたりはしないはずだ。
きっと彼女たちもそこを理解しているからこそ、協力を依頼してきたのだろう。
むしろ問題なのは、その後のほうではなかろうか。
克哉はその違和感を素直に口にした。
「ツンはともかく、孝典さんが好意を持っている相手の前でだけはデレる人だってどうして分かったんでしょう?」
「……!」
克哉にとっては単なる素朴な疑問だったのだが、今度は御堂が狼狽える番だった。
「き、君は、なにを言って……」
「あ、そうか。あくまでイメージですもんね。実際に見たわけではないですよね。というより、願望……なのかな? そうだったらいいな、っていう」
「……」
「孝典さん? どうかしましたか?」
克哉はその時点ですっかり自己完結してしまっていたのだが、御堂はまだ納得していない様子で克哉を睨みつけている。
またしても少し顔が赤いように見えた。
「……私が君の前でデレデレしているとでも?」
「え?」
拗ねたような御堂の呟きに、克哉はぽかんとする。
まさか自覚がなかったのか。
だとしたら、言うべきではなかったのかもしれない。
どうやってフォローしようかと克哉は瞬時に考えを巡らせたが、しかし御堂はすぐに気を取り直してくれたようだった。
「……まぁ、いい。所詮、他人から見たイメージなどあてにはならんからな。君だって、このキャラクターとは全く違っている」
「そうですか?」
「ちょっと気弱な優しい幼馴染、だろう? 君は優しいが、気弱ではない。頑固だし、欲張りだし、野心もある男だ。違うか?」
「あ、あはは……」
それはおそらく御堂と出会って、ほんの少しだけ自信を得ることが出来たからだろう。
まだまだ不安になることも多いけれど、それでも以前に比べたらずっと自分を信じられている気がする。
きちんと自分で立って、前に進みたいと思える。
誰よりも御堂に相応しくあるために。
「……それなら、みんなが本当のオレを知ったらがっかりするかもしれませんね。イメージと違う、って」
冗談めかして言う克哉に、御堂は微笑んだ。
「さぁな。だが少なくとも私はそういう君が好きなのだから、いいんじゃないか? 私自身も他人からどう見られていようと構わないと思っている。君さえ本当の私を受け入れていてくれれば、それでいいからな」
「孝典さん……」
御堂の言う通りだ。
誰にどう思われようと、御堂が分かっていてくれればそれでいい。
臆病な自分も、我儘な自分も、醜い自分も、全部御堂に知ってほしい。
御堂だけに知っていてほしい。
きっと自分にも、自分だけが知っている御堂がいるはずだから。
「オレも……孝典さんさえ本当のオレを受け入れてくれれば、それでいいです」
「そうか。なら、なんの問題も無いな」
微笑みあうと無性にキスがしたくなって、ここがまだオフィスであることを忘れそうになる。
これ以上我慢出来そうになくて、克哉は勢いよく立ち上がった。
「か、帰りましょうか、御堂部長! ね!」
「なんだ、突然。これはもう書かなくてもいいのか?」
「後で書きますからいいです! ……孝典さんのいないところで」
「なんだと?」
「とにかく帰りましょう!」
「分かった、分かった」
今は一秒でも早く二人きりになりたかった。
そして本当の自分を見せたかった。
互いだけが知っている、互いにしか見せない顔と声で。
誰にも邪魔されない秘密の時間を過ごすために、二人は足早にオフィスを後にした。

- end -
2015.07.13



←Back

Page Top