Classical

un・innocence -after-

ようやく御堂と帰れることになって、克哉は荷物を取りにいそいそとオフィスへ戻る。
すると、さっきまで使っていたデスクの上に見覚えの無いものがあることに気づいた。
「あれっ……」
克哉が置きっ放しにしていたファイルと筆記具の傍に置いてある、真っ赤な長方形の箱。
小さな金のリボンがあしらわれているそれは、どう見てもチョコレートだった。
どうやら克哉が御堂の執務室に行っている間に、誰かが置いたらしい。
「誰だろう……」
箱を手に取ると、下から小さなメモが出てくる。
『佐伯さんへ お疲れ様です。良かったら、食べてください』
いかにも女性らしい、可愛らしい文字で綴られたメッセージの最後には、小さなハートのマークまで添えられていた。
しかし箱やメモをひっくり返してみても、差出人の名前は見当たらない。
克哉は周囲を見回した。
御堂の元へ向かう前までは同僚の藤田が残っていたけれど、今はもう誰もいない。
となると、他の部署の人だろうか。
ここと御堂の執務室とを往復する間に何人かの女性社員を見かけたが、 その中にチョコレートをくれそうな人物がいたかどうか、思い当たらない。
結局、これをくれたのが誰なのか特定することは出来そうになかった。
(それにしても、マズイな……)
しかし今の克哉にとって一番の問題は、これを御堂にどう説明するべきかということだった。
不可抗力とはいえ、御堂に対してあんなことをしておきながら、ちゃっかり自分はチョコレートを受け取っていたと御堂が知ったら、どう思うだろう。
かといって、このままこれを置いて帰るわけにもいかない。
克哉は急いでデスクの上を片付けると、チョコレートをカバンの底に押し込んだ。

「……それで、君はチョコレートを貰わなかったのか?」
駐車場の車の中でエンジンが温まるのを待つ間、突然御堂が言った。
「え、えっ? 何をで、ぐ…ッ?!」
あまりにタイムリーな質問にうろたえた所為か、克哉は思わず舌を噛んでしまう。
痛みに手のひらで口を押さえる克哉を、しかし御堂は冷めた目で見ていた。
「……なるほど。貰ったんだな?」
「……ふみまへん」
痛いのと情けないのとで、克哉は涙目になりながら頷く。
だが今は、泣いている場合ではない。
克哉は痛みを堪えて、慌てて弁解した。
「でも、仕方が無かったんです! 御堂さんの執務室に行っている間に、誰かがデスクに置いていったみたいで……」
「誰かが?」
「はい。名前が書いてなかったので、誰がくれたのかは分からないんです」
「……ちょっと、見せてみろ」
「はい……」
克哉はカバンの底を漁る。
あのハートマーク付きのメモは、見せないほうがいいだろう。
克哉は箱だけを取り出して、御堂にそれを手渡した。
受け取った御堂はしばらくためつすがめつしていたものの、やはり何も手がかりらしきものは無いと分かったのか、 あっさりと克哉に突き返した。
「あえて名乗らなかったのか、書き忘れただけか……まあ、前者だろうな」
溜息混じりに言われた言葉に、克哉は不思議そうに首を傾ける。
「どうして、そう思うんですか?」
「君がいない隙を狙って置いていったのは、直接渡す勇気がなかったからだろう。 つまり、これは本命チョコということになる。そんな大事なものなのに、肝心な名前を書き忘れたりすると思うか? あえて書かなかった、もしくは書けなかったという可能性のほうが高いだろう」
「はあ……」
まるでプロファイリングだ。
御堂のもっともらしい考察に、克哉は人事のように感心してしまう。
そんな克哉に、御堂は苛立たしげな視線を送っていた。
「……食べたらどうだ」
「えっ?」
「ひとつ食べてみたまえ。ちょうど腹も減っているだろう?」
「い、今ですか?」
「ああ、私もひとつ貰おうか」
「……」
意外な展開。
それにしても、どうも雲行きが怪しい。
いきなりそんなことを言い出すなど、これはやはり御堂の機嫌を損ねてしまったのだと考えるのが妥当だろう。
ここは御堂の言う通りにしておいたほうがいいかもしれない。
克哉は蓋を開けると、入っていた小さな四角いチョコレートを摘んだ。
「ど、どうぞ……」
「なんだ、食べさせてくれるのか?」
「はい」
これで御堂の機嫌が直るのなら、安いものだ。
克哉が微笑みながらチョコレートを運ぶと、御堂は口を開けてそれを受け入れた。
「……!」
前歯がチョコレートを軽く挟み、舌先がそれを掬い取っていく。
その瞬間、唇がほんの僅か指先に触れて、それだけで克哉の心臓は小さく跳ねた。
「……美味しい、ですか?」
「……」
気を紛らわせようと尋ねたが、御堂は何も答えない。
無表情でチョコレートを食べ終わると、今度は自ら箱の中身に手を伸ばしてきた。
「君にも食べさせてやろう」
「え、あ、あの」
戸惑っているうちにも、御堂の指先はチョコレートを摘んでいた。
差し出されたそれに、克哉はおずおずと口を開ける。
硬く、小さな甘味が口内に転がり込んできて、そしてそのまま閉じようとした唇を、御堂の指が阻んだ。
「ん、」
危うく噛んでしまいそうになって、克哉は喉の奥から声を漏らす。
御堂は指を抜こうとしない。
人差し指が遊ぶようにチョコレートを転がすたび、それは少しずつ溶けていった。
舌の上や粘膜にねっとりとした甘味を擦りつけられ、克哉は息苦しさに空気を求めて薄く喘ぐ。
「……さっき、舌を噛んでいたな。何処だ?」
「ん、ぅ」
御堂は更に指を増やす。
少し冷たい人差し指と中指が、克哉の舌の表面を探った。
すっかり形を崩したチョコレートを飲み込もうとするたび、舌がうねり、指に絡みつく。
御堂の指は、長くて綺麗だ。
もう痛みはほとんど無かったけれど、爪の先が傷痕に触れると、そこからじわりと甘い疼きが広がった。
飲み込めない唾液が溢れ、唇から零れる。
「ぅ……ふぅ……」
いつしか克哉はうっとりと目を細め、恐る恐る御堂の手に自分の手を添えていた。
僅かに残るチョコレートの味と、それ以上に甘く感じる御堂の指を夢中で舐める。
克哉はまるで御堂自身を愛撫しているかのように、唇と舌を使い、時折軽く歯を立てた。
そんな克哉に、御堂はククッと喉の奥で笑う。
「……いやらしい顔だな」
「んっ……」
囁かれた言葉の響きに、下肢がずんと重くなる。
離したくない。
このまま、ずっと御堂を味わっていたい。
「零しているぞ」
「んっ、ん……」
御堂の顔が近づき、唇から伝う唾液を舌先で掬われる。
克哉も舌を差し出し、押しつけられることのない御堂の唇になんとか触れようとした。
けれども相変わらず口内を探っている指に邪魔されて、それも叶わない。
もどかしさに、かえって情欲が煽られる。
次第に呼吸が弾み、御堂の手を握る手に力がこもる。
もっと、欲しい。
もっと、奥まで。
しかしその熱は、無残にもいきなり放り出されてしまった。
「あっ……」
克哉は離れていく唇と指先を、無意識に追っていた。
せっかく見ていた甘い夢から無理矢理目覚めさせられてしまったように、克哉は呆然とする。
ここまで来て突き放すなど、あんまりだ。
すっかり潤んでいる瞳を恨みがましく御堂に向けてみたものの、御堂は平然とした態度で言う。
「残念だが、ここまでだ。家に帰ってから、と君が言ったんだろう?」
「あ……」
御堂はポケットからハンカチを出すと、意地の悪い笑みを浮かべながら、濡れた指先を拭う。
それから車を出すべくハンドルを握った御堂の横顔を、克哉はぼうっとした頭のまま、助手席でただ見つめていることしか出来なかった。

マンションに着くまでの時間が、こんなにも長く感じられたことはなかったと思う。
一度熱を帯びてしまった身体は、そう簡単には治まらない。
ましてや車の中、御堂と二人きりでいたのだから尚更だ。
疼く熱を持て余したまま、ふらつく足取りで部屋に戻ると、克哉は耐え切れず御堂に声をかけた。
「あ、あの、御堂さん……」
「どうした?」
「その……約束、したことなんですけど……」
「君が頑張ってくれる、というやつか?」
克哉は顔を真っ赤にして頷く。
御堂には克哉が何を言いたいのか、すぐに分かったようだった。
一歩克哉に近づくと、するりとその頬を撫でる。
「早速、その約束を果たしたいというわけか?」
「……っ」
図星を指されて、克哉はますます赤くなった。
これでは、ただ強請っているだけじゃないか。
分かってはいても、止められない。
「君がそれほど言うのなら、そうしてもらおうか」
御堂は言いながら、ソファに腰掛ける。
そして少しの不安と甘い期待に身体を震わせている克哉を、上から下まで舐めまわすように見つめた。
「……だが、私は少し疲れているんだ。だからしばらく、そこで一人でしていてくれないか?」
「えっ?」
克哉は耳を疑う。
それでも御堂は、更に続けた。
「私がここで休んでいる間、一人でしていてくれ。ああ、服は脱がなくていい。面倒だろうからな」
「……」
予想もしていなかった要求に、克哉は呆ける。
『脱がなくていい』というのは、『脱ぐな』という意味だろう。
(御堂さんの前で……一人で……?)
想像するだけで恥ずかしくなって、克哉は俯いてしまう。
しかし御堂は、要求を変えようとはしなかった。
「早くしろ。私のために、頑張ってくれるんだろう?」
「!! は、はい……」
仕方が無い。
やや硬い声で脅されて、克哉はおずおずと自分の身体に触れはじめた。
上着の奥に右手を滑りこませると、ワイシャツ越しの胸に指先を這わせる。
自ら尖りを探り当て、ゆっくりとそこを撫でた。
御堂が、見ている。
からからに乾いた喉にごくりと唾を飲み込み、指を動かし続ける。
あまりの羞恥にきつく目を閉じると、かえってその感触に意識が集中した。
「は……」
思わず漏れた吐息に、かあっと顔が熱くなる。
尖りが硬く立ち上がってきたのが、シャツの上からでも分かった。
指先でこねていると、下肢がずきずきと疼きだす。
脇へ落としていた左手が、自然と中心へと伸びていた。
「っ……」
そこに触れた瞬間、克哉は眉を寄せる。
既にやや膨らみかけているものを、スラックスの上から撫でた。
目を閉じていても、御堂の視線が突き刺さるように痛い。
羞恥のせいか、快感のせいか分からないけれど、呼吸が苦しくなっていく。
克哉は指先で、ワイシャツ越しの尖りをきつく捻った。
身体がびくんと跳ねて、腰が揺れる。
「……っ! は…ぁ……」
スラックスの奥にある自身が、少しずつ硬さを増していくのが分かる。
ただ撫でていただけの手のひらは、いつしか押し付けるように力が入っていった。
身体が小さく前後に揺れて、克哉は立ったまま身悶える。
「あ……ぁ……」
堪えきれない甘い声を漏らしながら、克哉は息苦しくてネクタイを解きたいのに、自分から手を離すことが出来なかった。
なんて、みっともない姿なのだろう。
立ったまま自慰をして、それを見られて、感じて、スラックスの前を持ち上げているのだ。
やがて克哉は、外からでも形が分かるほどになったそれを布地ごと掴み、手を動かした。
「やっ…は、ぁ……」
御堂はこんな自分のはしたない姿を見て、どう思っているのだろう。
恥ずかしくて、怖くて、御堂の顔が見られない。
それなのに、克哉は自分の快感を高めていく行為に没頭していく。
膝ががくがくと震え、身体が前のめりになっていく。
下着の中が湿り始めて、克哉はますます腰をくねらせた。
「みど、う……さん……」
見られるだけで感じてしまうのは、それだけ御堂を求めているからだ。
あなたが欲しくてたまらなくなっている、オレを見てほしい。
こんなオレを、嫌いにならないでほしい。
縋る想いで名前を呼び、克哉は伏せていた顔を上げた。
御堂はソファに足を組んで座ったまま、薄い笑いを浮かべて克哉を眺めている。
けれどその瞳に、明らかな情欲が宿っていることに気づいて、克哉の体温は一気に上昇した。
「あ……お願い……」
助けて、と蚊の鳴くような声で呟きながら、克哉は床にがくりと膝をつく。
それでも、手が止まらない。
ぐちゃぐちゃと音を立て始めた下着の中のものを、克哉はもどかしさに必死になりながら扱く。
「あっ……あ………もう……」
「克哉」
ハッとして視線を向けると、御堂がこちらに手を伸ばしている。
「こっちへ来なさい」
「は、はい……」
克哉は犬のように這いながら、御堂の足元に近づいていった。
御堂は大きく足を開くと、ファスナーを下ろし、自らを取り出す。
「今度は、私のものを」
「あ……」
それは、既に熱く猛っていた。
御堂が、あの自分を見て欲情してくれた。
そのことが嬉しくて、克哉は愛しげにそれに唇を寄せる。
「んっ……」
両足の間に顔を沈め、一気に喉の奥まで含む。
これが、欲しい。
御堂のものを舐めながら、克哉はもじもじと腰を揺らした。
布地に擦れる感触を自らに与えながら、これを貰えるときを待ち望む。
これが自分の中に入る時を想像して、克哉の身体が震える。
御堂の手が髪を撫で、頭上から濡れた吐息が零れ落ちてきた。
「克哉……」
もっと呼んで。
もっと触れて。
強請るかわりに、克哉は御堂のものを強く吸う。
そのたびに御堂の腰がぴくりと動き、次第に腰が突き出されるように細かく揺れだした。
「かつ、や……」
御堂の手が、克哉の頭を強く押さえ込む。
そして屹立が大きく脈打ったのを舌の上に感じた瞬間、御堂の欲望がどっと克哉の口内に流れ込んできた。
「……っ!」
同時に、克哉の腰がびくびくと跳ねる。
股間にじわりと熱いものが広がる。
克哉は御堂の放ったものを嚥下しながら、自分も着衣のまま吐精していた。
「ん……ぐ………はぁ、はぁ…はぁ……」
「……克哉」
吐息混じりに名を呼んで、御堂は克哉の顎を掴んで上を向かせる。
克哉の濡れた唇が淫靡に光り、御堂は満足げに微笑んだ。
「私のを飲みながら、イったのか?」
「う……」
「本当に淫乱だな、君は」
「ごめ…なさい……」
御堂は、今にも泣き出しそうな顔をしている克哉の手を取る。
克哉はまだがくがくと戦慄いている足で、なんとか立ち上がった。
動くと下着の中でぐちゃりと気持ちの悪い感触がして、克哉は顔を顰めた。
「まったく……仕方ないな」
御堂は座ったまま、目の前にある克哉のベルトを外し始める。
スラックスを下ろすと、濡れて色の変わった下着が現れて、御堂は喉の奥で笑った。
「これでは気持ちが悪いだろう? 今、綺麗にしてやる」
「御堂さん……? あっ……!」
下着を下ろされ、濡れた性器が剥き出しになる。
その自らが吐き出した精に塗れたものを、御堂が口に含んだ。
「っ…?! や…御堂、さんッ……!」
突然のことに驚き、引こうとした腰は、御堂にがっしりと捕まえられてしまう。
音を立てて舐められ、克哉のものは再び熱を持ち始めた。
「ん、あっ……はぁ、あぁ……」
克哉は御堂の頭を見下ろしながら、酷く興奮した声を漏らす。
腰を抱えていた御堂の左手が、ゆっくり双丘を揉みしだきだすと、克哉はますますせつなげに顔を振った。
「あ……御堂さんっ……」
やがて指先は狭間に落ち、ひくつく後孔に触れる。
中を掻き回されると、克哉は今にも崩れ落ちそうになって、御堂の肩を強く掴んだ。
放ったばかりだというのに、克哉のものは御堂の口内でどんどん容量を増していく。
後ろと前を同時に攻められ、あまりの刺激の強さに、克哉はぶるぶると身体を震わせた。
このままでは、またイってしまう。
「み、御堂さん……孝典、さんッ……!」
悲鳴にも似た声に、御堂はようやく顔をあげた。
「……どうした?」
「孝典さ、ん……もう、オレ、駄目です……」
「駄目、とは?」
「早く、オレを……オレを、貰ってください……」
頑張ると言い出したのは自分だけれど、そろそろ限界だ。
克哉はそのまま倒れ込み、御堂の胸にすがりついた。
優しく宥めるように背中を撫でられて、本当に涙が出そうになる。
御堂は克哉の髪にくちづけながら、今までとは打って変わって穏やかな声で囁いた。
「……すまない。少し、虐めすぎたな」
克哉は激しく左右に首を振る。
虐められたなどとは思っていない。
どんなに焦らされても、どんなに恥ずかしい思いをさせられても、御堂になら何をされても構わない。
寧ろそれは全て悦びになって、御堂への欲望へと変わる。
だから、もっと追い詰めてほしい。
そうすれば、もっと御堂が欲しくなる。
克哉は紅潮した顔を上げ、御堂を見つめた。
唇が重なり、舌を絡め合う。
くちづけを交わしながら、克哉は御堂の中心に手を伸ばした。
まだ克哉の唾液に濡れたままのそれを、ゆっくりと上下に扱く。
少しずつ硬さを取り戻していくにつれて、くちづけも激しさを増し、二人は息を弾ませていった。
「……克哉。ここに」
唇が離れると、御堂はソファの背を顎で示す。
克哉はふらふらとその場所に手をついて、御堂に向けて双丘を突き出した。
「孝典、さん……」
御堂は克哉の後ろに立つと、その腰を抱える。
先端が後孔に触れたと思った直後、二度目とは思えないほどの硬く、熱い塊が、一息に克哉の中を抉った。
「あ、あぁぁっ……!」
ずっと我慢してきたものが弾けたように、克哉は高く嬌声を上げた。
何にも代わりは出来ない、御堂自身の熱が克哉の奥を焦がす。
全身が御堂を感じたいと叫んでいる。
克哉は狂ったように顔を振り、激しい律動を一心に受け止めた。
「あっ、孝典さん、んっ……!!」
「かつ、や……っ」
背後から御堂の荒い呼吸が聞こえて、ますます克哉の欲情を煽る。
御堂が自分の中で感じているのだと思うと、嬉しくてたまらない。
もっと気持ちよくなってほしい。
自分が得ている快感と同じぐらい、御堂にも感じてほしい。
汗ばんだ肌のぶつかる音と、ソファが軋む音が混じる。
御堂にめちゃくちゃに揺さぶられながら、克哉は今にも飛びそうな意識を繋ぎ止めるのに必死だった。
「気持ち、いい……っ……いいッ……!」
「もっと、よがれ……私を、感じろ……」
「ああ、ッ……!」
これ以上感じたら、本当におかしくなってしまいそうだ。
でも、それでもいいような気がする。
自分の中が御堂で一杯になって、やがて溢れて、溺れてしまえばいい。
突き上げられるほどに、御堂への想いが込み上げて、視界が滲んでいく。
「……孝典、さんも……気持ち、いい、ですか……?」
「ああ……君の、中は……最高だ……」
「良かっ、た……」
弾む呼吸の中、途切れ途切れに囁かれた御堂の答えに、克哉は微笑む。
御堂の動きが速くなってくる。
そして、とうとう解放の瞬間が訪れた。
「あッ……イく……う、あぁぁぁッ……―――!!」
掠れた声を上げて、克哉の背中が大きくしなる。
びくつく中心から精が勢いよく迸り、微かな音を立ててソファに飛び散った。
きつく締めつけられた後孔の中で、御堂もまた己を解放する。
「克哉ッ……」
最奥に注ぎ込まれた欲望が、克哉の中を満たしていく。
その熱を全身で受け止めながら、克哉は言葉に出来ないほどの悦びを感じていた。

シャワーを浴びた後、克哉はぐったりとベッドに横たわっていた。
隣りにいる御堂に髪を撫でられると、気だるい眠気が襲ってくる。
「……また、無理をさせてしまったな」
けれど御堂の後悔の色を滲ませた声に、克哉は重い瞼を見開いた。
「そ、そんなことないです。オレこそ、その……あんまり頑張れなくて……ごめんなさい……」
結局、御堂の昼休みを台無しにした償いは出来たのだろうか。
自信がない。
いたたまれなさにシーツに顔を埋めてしまった克哉に、御堂が苦笑する。
「謝らなくていい。だいたいあれ以上頑張られたら、私の方がもたない」
「み、御堂さん」
その言葉に真っ赤になった克哉を見て、御堂はおかしそうに笑った。
「……それで、君は気にならないのか?」
「何をですか?」
「あのチョコレートをくれた人物についてだ」
「ああ……」
克哉はぼんやりと、あの真っ赤な箱を思い出す。
本当に、いったい誰なのだろう。
そして御堂の言う通り、あれは本当に本命チョコなのだろうか。
「……気にならないことはないですけど、でも、考えても分かりませんから……」
克哉が答えると、何故か御堂はふいと顔を背けた。
「確かにそうだ。だが……私は気になる」
「御堂さん」
その横顔は、少し怒っているようにも見える。
いや、怒っているというよりも、心配しているのだろう。
克哉は身体を起こすと、そんな御堂の頬に軽くくちづけた。
「克哉」
「たとえ誰からであっても、オレの答えは決まってますから。だから、もう……気にしないでください」
「……」
御堂は気まずそうに溜息をついたけれど、それ以上はもう何も言わなかった。
分からないものはどうしようもないし、いつまでも気にしていても仕方が無い。
何かあったら、またそのときに考えればいいことだ。
ふと克哉は、自分も御堂にチョコレートを用意していたことを思い出した。
「そうだ! オレも、御堂さんにチョコレートを……」
しかしベッドを出ていこうとした克哉を、御堂は抱き寄せて離さない。
「それは、後でもいい」
「え? でも」
続けようとした言葉は、御堂の唇に塞がれて消えてしまう。
そして御堂は、今日一番甘い声で囁いた。
「今はチョコレートよりも、君にここにいてもらいたい」
「……」
そこまで言われて、離れていけるはずがない。
克哉は小声で「はい」と答えて、御堂の腕の中に身を委ねた。
確かに今この場には、チョコレートなど持ってこないほうがいいかもしれない。
きっと簡単に溶けて、無くなってしまうだろうから。
克哉は御堂の温もりに包まれながら、いつまでも続く甘い夜に沈んでいった。

- end -
2009.02.19



←Back

Page Top