Equal
帰宅してから、ゆうに三十分以上は経っている。
けれど二人はスーツを脱ぐこともせず、互いの間に険悪な空気を漂わせていた。
「……どうしても、ダメなんですか」
リビングに入ってすぐのところで、立ち尽くしたままの克哉が言う。
ソファに腰掛けている御堂は、そんな克哉に目もくれず、冷たく答えた。
「君も大概しつこいな。私がいいと言っているんだ。これ以上、話すことはない」
「でも、オレは嫌なんです」
度重なる克哉の反論に、御堂は腕を組み、わざと大きな溜め息を吐いてみせる。
「だいたい、なぜ今頃になってそんなことを言い出す? 今まで通りで問題無いだろう。気にすることはない」
「だから、それは今までオレが気づかなかったのがいけなかっただけで……。
御堂さんが気にするなと言っても、オレは気にします」
そこでようやく御堂は克哉に視線を寄越した。
けれどそこにいつもの優しさはなく、苛立ちの色ばかりが濃く浮かんでいる。
克哉はその目に一瞬怯みながらも、なんとか自分を奮い立たせた。
「……一緒に暮らすなら、それぐらい当然じゃないですか。それなのに、どうしてダメなんですか?」
尚も食い下がる克哉に、御堂は半ば呆れていた。
克哉が意外と頑固だということはよく知っていたが、まさかここまでとは。
苛立った御堂の口調は、次第に強いものになっていった。
「そうは言うが、この部屋は元々私がひとりで住んでいたんだ。
君ひとり増えたところで、光熱費などたいして変わらない。
そして私には君を養えるだけの経済的余裕が充分にある。
こんなことは言いたくないが、君とは比較にならないだろう。だから、いいと言っているんだ」
「そんな」
『養う』という言葉に反応して、克哉はつい顔を赤らめてしまう。
以前、片桐に言われた『嫁に行くみたいですね』という指摘を思い出したからだ。
しかし今は照れている場合ではない。
克哉は我に返ると、気を取り直して、改めて御堂に訴えた。
「そういう問題じゃないんです。お願いですから、御堂さん。オレにも出させてください」
「君は……」
御堂はもううんざりだと言わんばかりに、眉間を押さえながら頭を振った。
御堂と一緒にこのマンションで暮らし始めて、一ヶ月ほどが過ぎた。
それまでも、付き合い始めてからはほとんどこの部屋に泊まってはいたものの、
借りていたアパートを引き払い、正式に引っ越してきてからはやはり気分が全く違った。
「お邪魔します」が「ただいま」になり、御堂がいないときでも抵抗無く部屋に入れるようになった。
「今日からここは、君と私、二人の家だ」と御堂に言われたときは、本当に嬉しかった。
けれど克哉は、ふと気づいたのだ。
このマンションは御堂が買ったものだ。光熱費も全て御堂が出している。
それだけではない、御堂はあらゆる場所において、ほとんど克哉にお金を出させようとはしなかった。
食事でも買い物でも、気がつけばいつの間にか御堂がカードで会計を済ませていて、克哉が財布を出す暇さえ与えてくれないのだ。
いい加減、このままの状態を続けていくわけにはいかない。
これでは同棲ではなく、ただの居候だ。
そう思った克哉が、御堂に生活費の負担を申し出たのが、この言い争いの発端だった。
御堂は頑なにそれを拒否し続け、克哉もまた退こうとはしない。
二人の苛立ちは次第に憤りへと変わっていった。
「……とにかく、私は君とこんな話はしたくないんだ。これ以上、私を困らせないでくれ」
そう言って御堂がソファから立ち上がりかけたとき、克哉がぽつりと呟いた。
「……オレは、そんなに頼りないですか」
「なんだと?」
克哉は俯き、声に悔しさを滲ませている。
握り締めた拳が、微かに震えていた。
「確かにオレは、あなたのように社会的地位のある人間ではありません。
オレが出せるお金なんて、あなたにとってはたいした額ではないのでしょう。
でもオレは、あなたに甘えてばかりいるのは嫌なんです。あなたのお荷物にはなりたくないんです……!」
「……克哉」
御堂はソファを離れ、克哉の前に立った。
そして子供を叱る親のような口調で言う。
「克哉。君は私のものなのだから、そんな風に考える必要はない。いい加減、言うことを聞きたまえ。私も怒るぞ」
御堂は、克哉に触れようと手を伸ばした。
けれど克哉は、それから逃げるように一歩後退る。
「……克哉」
克哉は唇を噛みながら、くるりと御堂に背中を向けた。
そのまま玄関へ行こうとする克哉の腕を、御堂が咄嗟に掴む。
「何処へ行く気だ!」
克哉はしばらく足を止め、それから搾り出すような声で告げた。
「……オレは、あなたのペットではありません」
「―――」
絶句している御堂の腕を振り解き、克哉は部屋を飛び出した。
最悪の気分だった。
こんなケンカになったのは、付き合いだしてから初めてのことだ。
さっきから、溜め息が止まらない。
自分の言った言葉や、御堂の怒った顔が、次々と思い浮かんできては、そのたびに頭を抱えてしまう。
克哉はすっかり落ち込み、このまま消えてしまいたいとさえ思った。
「最低だな、オレ……」
誰にともなく、ひとり呟く。
深夜も近いファーストフード店には、反対側の奥に大学生ぐらいのグループがいるだけで、克哉の周りには誰もいなかった。
テーブルの上のトレイには、氷の溶けたアイスコーヒーと冷たくなったポテトが、ほとんど手付かずのまま置いてある。
夕飯も食べていなくて、お腹が空いているはずなのに、今は何も喉を通りそうになかった。
そういえば以前、外出中に久し振りにファーストフードを食べたくなって、御堂にそう言ったことがある。
けれど予想通り「私はそんな店には入らない」と、問答無用で却下されてしまったことを思い出した。
(確かに、御堂さんには似合わないよな。こういう店)
克哉はどこか投げ遣りな笑みを浮かべてから、また溜め息を吐いた。
―――どうして、こんなことになってしまったのだろう。
確かに、少し意地になりすぎたとは思う。
けれど自分の言っていることが間違っているとは思えなかった。
克哉にもそれなりに収入はあるのだから、一緒に生活するうえで掛かる費用を、
折半とまではいかなくとも少しは負担するのが当然ではないか。
それなのに御堂は、何故あそこまで頑なに拒否するのだろう。
(なにか、理由があるのかな……)
考えてみても、何も思い当たらない。
もしかしたら自分は、御堂のことを何も分かっていないのではないだろうか。
克哉はまた小さく溜め息を吐いて、ポケットから携帯を取り出した。
メールも、電話も来てはいない。
今頃、御堂は何をしているのだろう。
マンションを飛び出したとき、追いかけてきてくれるかもしれないと淡い期待を抱いたりもした。
しかし後ろを振り返ってみても、御堂の姿はなかった。
(探してくれたり……するわけないか)
克哉は携帯を握り締め、窓の外に目を向けた。
ガラスにひとりぼっちの惨めな自分がぼんやりと映って、克哉はすぐに目を背けた。
「―――!」
そのとき突然、手の中で携帯が震えた。
慌ててディスプレイを見ると、御堂からメールが来たことを報せている。
(御堂さん……!)
信じられないような気持ちで、克哉はドキドキしながら、そのメールを開いた。
『私には、こんな不味いポテトを食べる者の気が知れない』
「……は?」
克哉の目が点になる。
これはいったい、どういう意味だ? ポテト? 不味い?
まさかと思いながら、克哉は恐る恐る周囲を見回す。
さっきからいる大学生のグループ以外、客の姿は見えない。
けれどちょうどカウンターで死角になっている向こう側にも、テーブル席があったはずだ。
克哉は椅子から腰を浮かせ、少しずつその場所が見える位置まで身を乗り出してみた。
(い、いた―――!)
慌てて体を引っ込め、椅子に座りなおす。
後ろ姿しか見えなかったけれど、あれは確かに御堂だった。
克哉はもう一度携帯を見つめる。
震える指でボタンを押して、メールを返した。
『こういうチープな味のものを、食べたくなることもあるんです』
また、すぐに返事が来る。
『塩気がきつすぎる。体に悪い』
『御堂さんの口には合わないでしょうね』
『君の口には合うのか』
『合いますよ』
『私には君が理解出来ん』
『オレにも御堂さんが分かりません。どうしてそんなに頑固なんですか?』
『頑固なのは君だろう』
御堂さんだって。
そこまで打ったとき、不意に手元が暗くなった。
携帯を手にした御堂がいつの間にか横に立っていて、克哉のことを見下ろしている。
「みど、う…さん……」
「……来い」
ぐいと腕を引っ張られて、克哉は椅子を鳴らして立ち上がるしかなかった。
そのまま御堂に引きずられるようにして、店を出る。
「御堂さんっ……い、痛いですって!」
掴まれた腕の強さに克哉は訴えたが、御堂は少しも力を緩めようとはしない。
凄い速さで歩く御堂についていかなければならない為、何度も足がもつれそうになる。
大通りに面した歩道をしばらく行くと、突然御堂が方向転換をした。
建物の合間を抜けた向こうに、公園が見える。
御堂は真っ直ぐにそこに向かって歩いていった。
公園に入ると、御堂は克哉を突き飛ばすようにして、ベンチに座らせる。
「痛っ……」
勢いで、背中を打った。
掴まれていた腕も、まだ痛い。
御堂は克哉から少し距離を空けて、隣りに腰を下ろした。
克哉は痛む腕を擦りながら、その横顔をちらりと盗み見る。
怒っているのだろうか、御堂はむすっとした顔のまま黙り込んでいた。
「……」
沈黙が流れる。
何かを言わなければいけないと分かっているのに、言葉が出てこなかった。
夜の公園には、二人以外誰もいない。
少し錆付いた、ブランコと滑り台。
後ろの繁みからは、時折虫の鳴く声が聞こえる。
急に肌寒さを感じて、克哉は肩を竦ませた。
(御堂さん……寒くないのかな?)
御堂は腕組みをして、相変わらず前を向いたままだ。
それをいいことに、克哉はもう一度御堂のことを横目で眺めてみる。
いつもきちんとセットしてあるはずの髪が乱れていた。
上げてあったはずの前髪も降りて、ぱらぱらと額にかかっている。
それに気づいた途端、克哉の胸は締め付けられるように痛んだ。
「御堂、さん……」
我慢出来なくなって、克哉は御堂の髪に手を伸ばす。
「もしかして……走りました?」
徒歩で飛び出した克哉を探すには、車ではない方が探しやすいと思ったのだろう。
マンションからあの店までたいした距離ではないものの、よく見つけられたと思う。
乱れた髪を指先で直してやりながら尋ねると、御堂はフンと鼻を鳴らした。
「……まったく、私にこんなことをさせるのは君ぐらいのものだ」
そんな風に言いながらも、御堂は克哉のしたいがままにさせている。
その照れ隠しのような憎まれ口が、克哉には酷く愛しかった。
プライドの高い御堂が、自分を探して走り回ってくれたことも、普段なら決して入ろうとしないような店にまで入ってきてくれたことも、
全てが嬉しくて、愛しくて、そして申し訳なかった。
「……ごめんなさい、御堂さん」
ようやくその言葉を口にすることが出来て、克哉の心はほんの少し緩んだ。
「オレ……焦っていたのかもしれません」
「……」
御堂はいまだ克哉の方を見ようとはしなかったが、黙って耳を傾けてくれているのが克哉には分かった。
「……オレはあなたについていきたくて、少しでもあなたの傍にいきたくて、頑張っているつもりだけど、
それでもまだやっぱり自分に自信が持てなくて……。
だからあなたと一緒に暮らしているんだってこと、ちゃんと実感したかったんだと思います。
あなたはいつもオレのずっと前を歩いているから……。
甘えてばかりいたら、いつかあなたが見えなくなってしまうんじゃないかと思って……」
自分で言ってるうちに悲しくなってきて、最後は消え入りそうな声になってしまう。
情けない。こんなことだからダメなんだ。
このままでは、本当に御堂に嫌われてしまう。
克哉は思い切って顔を上げると、わざと明るい声を出して言った。
「バカみたいですね、オレ」
そう言うと、御堂がゆっくりとこちらに顔を向ける。
まだ怒っているのか、眉を寄せたまま、克哉を睨みつけた。
「ああ。君は馬鹿だ」
「……」
自分で言ったこととはいえ、ここまではっきり断言されるとさすがに落ち込んでしまう。
しょんぼりとうなだれた克哉に、御堂は畳み掛けた。
「まったく、馬鹿としか言いようがない。
そんな心配はするだけ無駄だ。君は確実に私の傍にいる。ただ君が気づいていないだけだ。
君はもう少し、自分を客観的に観察することを覚えろ」
「御堂さん……」
励まされているのか、罵られているのか分からない。
けれどそんな御堂の不器用な優しさが、かえって克哉には嬉しかった。
「……ありがとう、ございます」
呟いて、克哉は御堂との距離を縮める。
腕が触れ合うと、どちらともなくほんの少しだけ互いに寄り掛かった。
スーツ越しにも温もりが感じられて、自然と頬が緩む。
今度は、御堂の気持ちが聞きたい。
克哉はずっと心に引っ掛かっていた疑問を、思い切って口にしてみた。
「……御堂さんは、どうしてだったんですか?」
「なにがだ」
「どうしてあんなに頑なに、オレの申し出を拒んだんですか?」
「……言う必要は無い」
寄り添っていた御堂の体が離れる。
また怒らせてしまったのかと克哉は心配になったが、そういうわけではなさそうだった。
覗き込んだ御堂は、どこか気まずそうな顔をしている。
「そんな……狡いです、御堂さん。オレはちゃんと言いました。だから、聞かせてください。何か理由があるんですよね?」
「……」
「御堂さん」
諦めそうにない克哉の追求に観念したのか、御堂は吐き捨てるように答える。
「……君と似たようなものだ」
「え?」
御堂はその表情を見せまいとするように、克哉から顔を背けた。
「私は未だに、なぜ君が私などを好きになったのか理解出来ない。
私は君に好意を持たれるようなことは、なにひとつしていないはずだ。
だから君は何か別の感情を、私に対する好意だと錯覚しているのではないかと」
「そ、そんなことありません! オレは」
思わず口を挟む克哉を、御堂は「いいから、聞け」と嗜める。
克哉は仕方なく、口を噤んだ。
「……とにかく。私も君と同じように、君が私のものだということを実感していたかったのだろう。
方法としては少々稚拙だったかもしれないが……なにしろ他人に対してこんな感情を持ったのは、初めてのことだったからな。
仕方あるまい」
「御堂さん……」
淡々と話す御堂の表情は見えなかったけれど、耳元が微かに赤くなっていることに克哉は気づいた。
(ああ、もう、どうしてこの人は、こんなに―――)
克哉はたまらなくなって、御堂の体にきつくしがみついた。
「……克哉?」
「御堂さん……あなたが、大好きです……大好き……」
呟きながら、克哉は御堂の肩に額を押し付ける。
御堂が少し笑った気配がして、それから克哉の髪をそっと撫でてきた。
それに促されるように、克哉は顔を上げる。
視線が絡み合い、二人は自然と唇を重ねていた。
「…ん…っ……ふ……」
さっきまでの時間を取り戻すかのように、性急に舌を絡ませ、くちづける。
歯がぶつかるのも気にせず、激しく互いを求め合った。
角度を変えるたびに、ほんの僅か唇が離れるのさえ惜しい。
頭の奥が、次に体の奥が、じんと痺れて熱くなってくる。
荒い吐息さえ飲み込みながら、二人はしばらく無心でくちづけを続けていた。
「御堂、さん……」
やがて唇が離れたときには、克哉の瞳はすっかり潤んでいた。
覗き込んだ御堂の瞳もまた同じで、克哉は急に恥ずかしくなって俯く。
それから言い忘れていたことを、ひとつ思い出した。
「あの、御堂さん……さっきの言葉、撤回させてください」
「さっきの言葉?」
「はい……あなたのペットじゃない、なんて言ったこと……」
「ああ……あれか」
自分でも酷いことを言ってしまったと思う。
克哉は更に頭を下げて、御堂に詫びた。
「本当にごめんなさい。オレ、あんなこと言うつもりじゃなかったのに……」
御堂は少し黙って、それから短く溜め息を吐いた。
「そうだな。さすがの私も、あれには少々傷ついた。君をペット扱いしているつもりはなかったが……」
「ごめんなさい……本当に……」
これ以上は無理というところまで、克哉は身を縮こまらせて謝る。
そんな克哉を見て、御堂がにやりと笑いながら言った。
「どちらにせよ、もう少し躾が必要なようだ」
「……えっ?」
克哉は目の前の樹にすがりつき、必死で声を堪えていた。
「み、どうさん……やっぱり、こんなところじゃ……」
「いいから大人しくしろ。誰にも見られたくないんだろう? それとも……」
御堂は後ろから克哉の胸元に這わせていた指先で、克哉の乳首をきつく捻った。
「あっ……!」
「それとも、見られたほうが興奮するのか?」
「違っ……」
克哉はふるふると首を振って、その快感に耐える。
その様子に御堂は楽しそうに唇を歪めながら、克哉のうなじをつっと舐めた。
「んっ」
首筋にかかる吐息に、克哉の背筋がぞくぞくと粟立つ。
御堂の腕の中で、克哉は細かく身体を震わせていた。
いくら人気の無い深夜の、樹々に隠れた場所だからといって、ここは公園だ。
もしも誰かに見られてしまったらと思うと、怖くて仕方が無い。
けれど克哉にはどうしても、御堂を拒みきることが出来なかった。
突然ベンチの裏に連れ込まれると、背中から抱き締められ、すぐにシャツのボタンを外された。
冷たい掌で胸を撫で回され、克哉は焦ると同時に、自分がどうしようもなく御堂を欲していることに気づいた。
マンションに戻るまで待てない。
今すぐに、御堂が欲しい。
口では抵抗しながらも、その強い欲望にはどうしても逆らえなかった。
「御堂さ……あっ……ダメ……」
下に降りていった手が、ベルトを外す。
ズボンを下ろされ、下着の上から握り込まれた。
「こんなに硬くしておいて、何が駄目なんだ? それとも、今からでもマンションに戻るか?」
「やっ……そんな…」
耳元で囁かれる声にさえ、くらくらするほどの快感を覚える。
中心を覆った御堂の掌に、克哉は無意識に自ら腰を揺らしてそれを押しつけていた。
「御堂さん……はや、く…っ……」
さっきから後ろに押しつけられている御堂のものも、すっかり熱く猛っている。
早くそれが欲しくて、克哉は涙声で強請った。
しかし。
「……どこに欲しいんだ?」
「えっ……?」
御堂の唇が、克哉の耳朶に触れる。
押し殺したような囁きが、耳の奥に直接響いた。
「どこが私を欲しがっているのか……自分で私に見せてみろ」
「そ、そんな……」
「出来ないのなら、ここで終わりだ」
すっと御堂の体が離れる。
急に温もりを失って、克哉は慌てて肩越しに御堂を振り返った。
「ま、待ってください……! 見せ、ます……見せますから……」
「いい子だ」
「……」
あまりにも恥ずかしすぎる要求に、頭の中まで熱くなる。
それでも克哉は下着に手を掛けると、ゆっくり下に降ろしていった。
先端を濡らした中心と、滑らかな双丘が、夜の外気に晒される。
ひんやりとして寒いぐらいのはずなのに、克哉の体はしっとりと汗ばんでいた。
震える手を後ろに回し、その場所が御堂に見えるよう開いてみせる。
「これ、で……いい…ですか……」
「暗くて、よく見えないな」
「……っ…」
克哉は御堂に尻を突き出し、更に肉を開く。
「もう……お願い、です…御堂さんッ……!」
泣き出しそうな声を上げて克哉が懇願すると、御堂が喉の奥で笑ったのが聞こえた。
「ああ。よく見えるぞ、克哉。私を欲しがって、ひくひくしているな」
「は、あ……っ…」
そんな御堂の言葉だけで、克哉の中心からは次々に蜜が溢れ出てくる。
恥ずかしくて泣きたいぐらいなのに、それ以上に興奮している自分がいる。
やがて御堂のものが、ようやく克哉の後孔に押し当てられた。
「ここ……だな?」
「ん、んんっ―――!」
ぐっと割って入ってくる昂ぶりに、克哉は一瞬息を詰める。
御堂の熱い屹立は、克哉の内壁を擦りながら一気に奥を突いた。
「んっ! う、あぁっ……!」
大きな声を出してはいけないと、なけなしの理性を総動員して声を堪えようとするが叶わない。
すると御堂が、克哉の口に指を差し入れてきた。
「……噛んでもいい」
「んっ……ぐ……ふ………」
克哉は御堂の指に舌を絡ませた。
目も眩むような快感に崩れ落ちそうになりながら、克哉は必死で樹の幹にすがりつき、御堂の律動に合わせて腰を振る。
もう、誰に見られようと構わない。
ただ、この快感に溺れてしまいたい。
克哉は一心に快楽を貪り、溢れた唾液は御堂の手首までも濡らしていた。
「ん……ぅ……うぅッ…………」
「かつ、や……っ…」
御堂は指先で克哉の口内を掻き回しながら、腰を打ちつける。
繋がった部分が熱すぎて、ドロドロに溶けてしまいそうだ。
二人の吐き出す濡れた喘ぎと呼吸が、周囲の樹々に吸い込まれていく。
「…ん……ふ………も、もう……」
くぐもった声で、克哉が喘ぐ。
足元から這い上がってくる絶頂感に、体がぶるぶると震えだす。
御堂の動きも激しさを増し、克哉の首筋に弾む吐息がかかった。
「克哉……出す、ぞ……」
「んっ……は……」
御堂は克哉の腰を抱え、強く突き上げる。
そして殊更奥を貫いた瞬間、御堂の腰が大きく震えた。
「く、ッ―――」
熱い迸りが弾ける。
体の奥でそれを感じて、克哉もまた震えた。
「う、んんッ―――!!」
克哉の体がしなる。
中心から噴き出した精が、樹の幹に飛び散る。
「あっ……は、あ…ッ……あぁ…………」
溜め息のような声を出しながら、克哉は幾度も体を痙攣させて、精を放った。
樹の幹にかかった大量のそれは、どろりとそこを伝い、地面に向かって落ちていった。
マンションに戻る道を、克哉は覚束無い足取りで歩いていた。
さっきから御堂は、握ったままの克哉の手を離そうとしない。
深夜でいくら人通りがないとはいえ、なんだか恥ずかしくて、克哉は落ち着かない気分だった。
「あの、御堂さん……手……」
「駄目だ」
同性と手を繋いで歩いているという状況にも関わらず、御堂は堂々としている。
人目が無いせいだろうかとも思ったが、意外と白昼でもやりかねないような気がした。
(オレにも、あなたが理解出来ません……)
そんなことを考えながら、克哉はそっと溜め息を吐いた。
「……克哉」
「は、はいっ?!」
思わずびくりとして、顔を上げる。
怯えたような克哉の態度を見て、御堂はくすりと笑った。
「明日は、仕事が終わったら外で食事をしよう。今夜は食べ損ねてしまったからな」
「あ……そうですね」
そういえば今日は夕飯を食べていないのだ。
かと言って、今から食べる気にもなれない。
それよりも体がだるくて、とにかく早くベッドに入りたかった。
歩きながら、克哉はあることを思いつく。
「……御堂さん」
「なんだ?」
「明日は……オレに奢らせてくださいね」
克哉の言葉に、御堂は僅かに苦笑しながら答えた。
「そうだな。甘えさせてもらうことにしよう」
克哉は嬉しそうに微笑み、二人はきつく手を握り合って、マンションへと帰っていった。
- end -
2007.10.18
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