carnivore
『彼は今流行りの草食系男子というやつじゃないかね』
今日、専務が口にしたそんなセリフをふと思い出して、御堂は克哉をまじまじと眺めた。
シャワーを終え、ベッドに腰掛けながら髪をタオルで拭いている彼の様子はとてもリラックスして見える。
御堂にとっても以前は自分の部屋に他人がいることなど考えられもしなかったが、
今では彼がいないほうが落ち着かなくなってしまったのだから可笑しなものだと思う。
それにしても、克哉が草食系とは。
誰が言い出した言葉なのかは知らないが、最近になって耳にするようになったフレーズだ。
明確な定義は様々あるようだが、主にキリンや羊といった草食動物からイメージするような、物腰の柔らかい、控えめで優しい男性のことを指すらしい。
そしてなによりも特徴的なのは、恋愛事に積極的ではないこと―――なのだそうだ。
だいたいの意味は理解していたものの、一応部下の藤田に『草食系男子』の定義を尋ねてみたところ、
彼はそこをやたらと強調していたから、きっとそれが最も重要なキーワードなのだろう。
なるほど、確かに克哉はいかにも優しげな印象がある。
表情も態度も話し方も、とても穏やかで丁寧だ。
はにかむように笑えば可愛らしくさえあるし、怒りを露わにすることなど滅多に無い。
それだけでなく、そもそも彼は人を惹きつける要素を充分に持っているのだ。
背は高く、スタイルもいい。
派手な二枚目というわけではないかもしれないが、よく見ると整った顔立ちをしている。
ルックスが良くて優しくて、そのうえ仕事も出来るとなれば男としては充分過ぎるだろう。
それなのに彼はあくまで謙虚を貫き、決して自分に満足しようとしない。
誉められればかえって萎縮し、自分はまだまだ未熟だと言い張る。
たとえそれが過度の自信の無さからくるものであったとしても、そこに庇護欲や母性本能を刺激される女性がいても不思議では無かった。
だからといって専務の娘とどうこうなどという提案は到底聞き入れられるものではなく、
ただ克哉に目をつけたという点においてだけは人を見る目があるのだなと御堂は大隈を評価していた。
「……草食系、ね」
つい声に出して呟くと、え?と克哉が聞き返す。
「なんですか?」
「いや、なんでも」
しかし彼がただおとなしいだけの人間ではないことを御堂はよく知っている。
本当の克哉はとても頑固で貪欲だ。
戸惑い、恥らって伏せた瞳の奥には、何処までも頑なで何処までも昏く激しい欲望が潜んでいる。
それは彼自身が恐れ、支配しなければならないと覚悟するほどに大きなものだ。
もっと欲しい。
もっと与えたい。
その欲は尽きることを知らず、けれど彼はそう思うこと自体が罪であるかのように、その激しい想いを殺して生きてきたらしい。
自分だけが本当の佐伯克哉を知っている。
その事実は御堂をとても満足させた。
そしてまた、御堂も己の中に激しい欲望が存在していることを知る。
もっと欲しい。
もっと与えたい。
そして誰も知らない、誰も想像出来ないような彼の姿を見たい。
周囲が持つ克哉のイメージとは程遠い、本人でさえまだ気づいていなかったような、もっと激しく、もっと淫らな姿を。
「……」
御堂は改めて克哉を見つめた。
克哉の中には自分を解放させたいという激しい欲求と同時に、
そんなことは出来ないという羞恥心や自制心が人一倍強く存在している。
何も隠すな、本当のことを言えとどれだけ言葉で伝えても、頑なな彼の扉は簡単には開かない。
だから御堂は克哉を追い詰める。
彼が自ら扉を開けるまで、その身を以って。
「……さて、寝るか」
御堂が白々しく呟きながらベッドに身体を沈めると、克哉は少し慌てたように見えた。
御堂はそれに気づかないふりでスタンドの灯りを小さくする。
克哉はその隣りにいつものように潜り込んでくると、布団の中で体勢を整えてから御堂の腕の中にぴったりと身を寄せた。
「……」
仄かな灯りの中で見つめ合ううちに、二人は自然と唇を重ねる。
しかし、それがいつものキスとは違うと克哉はすぐに気づくこととなった。
「あっ……」
ほんの一瞬触れただけで御堂がすぐに唇を離すと、思わず漏れてしまったかのように克哉はか細い声を上げた。
それもそのはずだ。
いつもならばベッドに入るとどちらともなく待ちかねたように深く唇を重ね、互いの身体を抱き締め合う。
それから溺れるようなセックスをするのが二人の常だった。
しかも今夜は金曜の夜、休日の前夜。
それなのに軽いキスだけで離れていってしまった御堂の顔を呆然と見つめている克哉に、
御堂は敢えていつも以上に優しく微笑みながら言った。
「おやすみ、克哉」
「あ……あの……」
克哉の驚いたような、戸惑ったような表情と声。
それでも御堂は克哉の髪を指先で弄びながら、素知らぬ顔でとぼけてみせる。
「どうした?」
「えっと、あの……」
「ん?」
「う……」
克哉は口ごもる。
彼が何をしたがっているのかは充分伝わっているし、それは御堂も同じだった。
今日は御堂に早朝会議の予定が入っていたため、昨夜も思う存分愛し合ったとは言い難い。
御堂は内心焦れていたが、克哉は困り果てたように目を伏せたあと小さな声で呟いた。
「……いえ、なんでもありません。おやすみなさい」
「……」
作り笑顔で言われた言葉に、御堂の眉間に皺が寄る。
それが思いやりから出た言葉だと分かっていても、気に入らなかった。
きっと今夜の御堂は疲れていてセックスをしたくないのだろうと思い、克哉は我慢することを選んだのだ。
それこそが克哉らしさなのかもしれないが、彼は根本的なことを分かっていないと思った。
御堂は自分が本当に疲れていれば、今夜は疲れているからすまないと正直に言うつもりだ。
ただ今までは実際にそういう状況がなかったし、多少の疲れは克哉を抱くことでかえって癒されるから問題無かっただけで。
それなのに克哉はすぐに引き下がってしまう。
何故しないのかと尋ねるぐらいのことはしてもいいのに、そうしない。
そこに御堂は酷く苛立つ。
そんな風に簡単に諦めてほしくなかった。
いつか何かがあったとき、自分のことさえも簡単に諦めてしまうのではないかと不安になる。
(さて、どうしたものか―――)
こうなったら意地でも克哉から本音を引き摺り出してやらなければ気が済まない。
どうすれば克哉は自分から求めてくるだろうか。
御堂が考えていると、突然克哉が上擦った声を上げた。
「……あっ、あの!」
これはもしやと僅かに期待した御堂に、克哉はおずおずと申し出る。
「眠る前に……も、もう一度だけ……キス、してもいいですか……?」
「君は……」
御堂はがっかりする。
キスだけでいいのか。
そもそもキスをするのに許可を得ようとすることが間違っている。
今までにキスを拒んだことなど一度も無いし、克哉とキスをしたくないときなど一秒たりとも無いのだ。
それぐらいのことがどうして分からないのか。
御堂の沈黙を拒絶と受け取ったのか、克哉は不安で堪らないといった目で見つめてくる。
「あ、あの……何か、怒っていますか?」
そうだ。
怒っている。
佐伯克哉という人間が持っている、散々自分はダメな人間だと言いながらしっかりと結果を出す能力にも、
早速専務の娘を紹介されそうになる魅力にも腹が立って仕方が無い。
こちらをこんなにも夢中にさせておいて、いつまでも自信無く遠慮ばかりしているなど愚の骨頂ではないか。
考えれば考えるほどに苛立ちは募ったが、御堂はそれをなんとか押し隠して答えた。
「いや、怒ってなどいないが」
「本当ですか……?」
「ああ」
「それじゃあ……」
返事のかわりに、御堂は克哉に微笑んでみせる。
その笑みに安心したのか、克哉もまた硬かった表情を緩めて嬉しそうに微笑んだ。
「孝典さん……」
うっとりと呟きながら、自ら御堂に唇を重ねる。
それでも御堂が口を開かずにいると、克哉の舌は誘うようにそこをつついてきた。
そうしてようやく僅かに唇が開くと、もう待ちきれないとばかりに御堂の口内に忍び込んくる。
「んっ……」
克哉は今度こそすぐには離れまいとして、積極的に舌を絡めようとした。
けれど御堂はなおざりにしか応えてくれない。
ただその手のひらだけは克哉の背中から腰、なだらかな双丘をゆっくりと撫でていく。
触れられるうちに高まっていく欲望に、克哉はいつしか足を絡め擦り寄せていた。
「孝典、さん……」
掠れた声で克哉が呼ぶ。
上目遣いに見つめる瞳は濡れて、あきらかに御堂を誘っていた。
しかし、この程度ではまだ不十分だ。
御堂は一芝居打つことにした。
「……疲れているんじゃないのか?」
「えっ? オレが……ですか?」
てっきり御堂のほうが疲れているのだと思っていたのに、そう言われたことがよほど意外だったのか、克哉は目を丸くする。
「ああ。顔色があまり良くないような気がしたのでな。だから今夜はこのまま眠ったほうがいいと思ったんだ」
「い、いえ、別にオレは……」
「いつも私が無理をさせているだろう。だから……」
「そっ、そんなことないです! 無理なんて、オレ、ぜんぜん!」
必死になる克哉が可愛くて吹き出しそうになるが、なんとか堪える。
そしてわざと声の調子を落として言った。
「辛いときにはそう言いたまえ。遠慮をする必要はない。君は私の……恋人なのだからな」
「……っ!」
克哉ははっとしたように目を見開くと、突然布団を跳ね除けて起き上がった。
「オ、オレ……!」
「克哉……?」
何か言いたげに震える唇は、けれどそれ以上言葉を紡ぐことはなかった。
そのかわり克哉は御堂のうえに覆い被さると、再び唇を重ねてくる。
噛みつくようなくちづけを交わしながら、克哉は御堂のパジャマのボタンに手を掛けた。
いつもとはまるで反対だ。
やがて克哉は御堂の唇から首筋、肌蹴られた胸へと幾つものキスを落としていく。
そんな風にされることには慣れていないせいか、どうもくすぐったくて仕方が無い。
それから今度は克哉も同じように上半身を露わにすると、御堂のうえに跨り、その手を取って自分の胸元へと運んだ。
「孝典さん……触って……ください……」
薄暗いスタンドの灯りの中でも、克哉が真っ赤になっているのが分かる。
微かに震えているのは寒さのせいではなく羞恥のせいなのだろう。
ようやく克哉の精一杯が伝わってきて、御堂はくすりと笑いながら克哉の胸の尖りを指先で撫でた。
「あっ……」
軽く触れただけなのに、克哉は甘い吐息を漏らす。
「これぐらいでいいのか?」
「もっと……強く……」
「これぐらい?」
「ああっ……!!」
両方をきつく捻り上げてやると、克哉はびくびくと身体を跳ね上げる。
よほど我慢していたのか、いつもより感度が上がっているようだ。
「もっと……全部、触ってください……」
「全部……ね」
御堂の手は胸から臍の周囲を滑り、腰の辺りを滑る。
けれどパジャマの薄い生地をすっかり持ち上げている中心にだけは決して触れようとしなかった。
「あ……はぁ……」
克哉は腰を揺らし、御堂の中心にゆるゆると双丘を押し付けた。
少しずつそこが硬くなっていくのを感じるほどに、克哉はますますせつなく腰を振る。
次第に呼吸が乱れ、動きが激しくなっていく克哉を御堂は楽しげに見上げていた。
「…ぅ……んっ……!」
御堂が再びきつく尖りを捻ると、克哉は一際びくんと大きく身体を震わせた。
じわりと染み出た雫が前を濡らしているのが、パジャマ越しにも分かるほどになっている。
きっと少しでも強くそこを握ってしまえば、早くも果ててしまうだろう。
克哉はとうとう我慢出来なくなったのか、御堂の手を掴んで自分の屹立へと導いた。
「こ、こも……」
「駄目だ。触れたら君はそれだけでイってしまうだろう?」
「だって……」
もう克哉は涙目だ。
焦らされれば焦らされるほど欲求は高まる。
まだ入れられてもいないどころか、まともに触れられてもいないのに達してしまいそうだ。
「孝典、さん……!」
克哉は悲鳴のような声を上げると、御堂の上から下りた。
しかし離れるわけでなく、そのまま御堂のパジャマのズボンを下着ごと引き摺り下ろす。
「克哉……」
「孝典さん……」
克哉は露わになった御堂の屹立に手を添えると、愛しそうに顔を寄せて唇で触れる。
輪郭を確かめるように舌で幾度も表面を辿り、やがて口内に咥え込んだ。
「…っ……」
暖かく柔らかな粘膜に包まれる快感に、御堂も思わず息を呑む。
克哉は唇を窄めてそれを締め付けながら、口内では舌を絡めて吸い上げた。
これが欲しいのだと。
これが欲しくて堪らないのだと態度で訴える。
「んっ……っ……」
もはや克哉の目には何も映っていないようだった。
欲望のみに忠実になったときの克哉の溺れようは御堂が一番良く知っている。
いつも周囲を気にしてばかりいる克哉が、ただひたすらに己の欲しいものだけを求める。
そんな風に克哉に求められることは、御堂にとって至福のときだった。
「克哉……君はどうしたいんだ?」
柔らかく髪を撫でながら問い掛けると、克哉が動きを止めて御堂を見上げる。
「オレは……」
濡れた唇が震えている。
羞恥を理性をようやく超えて、克哉が答える。
「孝典さんと……孝典さんと、ひとつになりたい……です……」
そうして、また愛しそうに御堂の屹立に視線を落とす。
「孝典さんのここと……繋がりたい……」
唇から漏れる吐息が掛かり、御堂の屹立がぴくぴくと脈打つ。
「私も同じだ」
「孝典さん……」
その言葉に、克哉は恍惚の表情を浮かべた。
「じゃあ……じゃあ、入れても……いい、ですか……?」
「駄目だと言ったら?」
それでもなお意地悪く問い返すと、克哉は悲しそうに眉尻を下げた。
「嫌、です……このままじゃ……おかしく、なります……オレ……」
克哉は本当に息苦しそうに言う。
「なら、そんなことを聞くな。もっと強く私を求めろ。そうでなければ……つまらない」
「孝典さん……」
克哉はもうあと少しも待てないとばかりに自分も下肢を露わにした。
それから御堂の上に跨ると、自ら後孔を広げて御堂を迎え入れる。
「ん、うっ……」
すっかり御堂の形に慣らされたそこは、どんどん御堂自身を飲み込んでいく。
それに合わせて屹立の亀裂からは、粘り気のある液体がとろとろと溢れて零れていった。
「あっ、あっ、あ……」
奥に押し進むごとに克哉は喉を見せてのけぞり、短い嬌声を上げる。
克哉の中は熱くうねり、溶けてしまいそうなほどだ。
もっと奥まで、もっと深くまで入りたいと思わせる。
やがて根元までをすっかり収めてしまうと、克哉は長く細い息を吐いた。
「あぁっ……孝典、さん……」
「全部、入ったな」
しかし御堂の手がするりと双丘を撫でると、克哉は焦ったようにふるふると顔を振る。
「だ、ダメっ……今、触ると、出ちゃ……」
「一度出せばいい。またすぐに良くなる」
「ああっ……!」
御堂は指先で互いが繋がっている場所に触れた。
御堂のものをぎっちりと咥え込んだ敏感なひだに軽く爪を立てる。
その途端、克哉の腰がぶるりと大きく跳ねた。
同時に屹立からは白濁した液体が溢れ、御堂の腹の上にぼたぼたと零れ落ちる。
「やっ……あ、あぁっ……」
太腿の内側をぶるぶると痙攣させながら、克哉が吐精する。
吐き出すたびに克哉の屹立はびくんびくんと上下し、腰が震えていた。
「……まだ、イけるんだろう?」
「う……」
御堂は楽しそうにそう言って、克哉の濡れた先端から零れた精を掬い取ろうとする。
達したばかりのそこは敏感になりすぎていたから、克哉は思わず腰を引いた。
「や、ぁっ……!」
「駄目だ。逃げるな」
「だ、って……」
しかし御堂は克哉の腰をしっかりと掴んで逃がさない。
それから今度は御堂のほうから克哉を突き上げる。
一度果てたからか、克哉は御堂の熱を改めて感じることが出来た。
御堂の形、御堂の温度、それらが再び克哉の中に甘い疼きをもたらしはじめる。
「あっ、孝典、さん……いいっ……」
克哉も膝立ちになって、腰を上下させる。
御堂の手に自分の手を重ね、指を絡めた。
「克哉……」
「孝典さん……」
薄闇の中に浮かび上がる白い身体が、柔らかくしなりながら揺れている。
僅かに開いた唇からちらちらと覗く赤い舌が酷く艶かしかった。
汗ばむ肌と髪がスタンドの灯りに照らされてぼんやりと光っているように見えて、御堂はそんな克哉の姿に見惚れていた。
やはり彼は草食系などではないと思う。
その穏やかな容貌に隠されている本性は、温かい血の通った肉を欲し、貪り尽くそうとする獣だ。
与えれば与えるほどに、求めれば求めるほどに生き生きとする。
満たされていく。
「孝典さん……ッ……もっと……もっと、ください……!」
二人の動きに合わせて、ベッドが激しく音を立てて軋む。
克哉の額から流れた汗が御堂の上に落ちる。
絡め合った指先が白くなるほどに力がこもる。
「あっ、もう、ダメ……です……オレ、また……イく……!」
その瞬間克哉の中がきつく締まり、御堂はそれに耐え切れなかった。
「っ、ぅ……!」
御堂の欲望が克哉の中に注ぎ込まれる。
その熱を感じたせいなのか、果てるときの御堂の表情を見てしまったせいなのか、克哉もまた二度目の精を放った。
「あ、あぁっ……」
全身が自分のものではないような不思議な感覚に陥る。
ただ求めていたものが満たされる心地好さと、愛する人とひとつになっている悦びだけが二人を包んでいた。
ことが終わると急に恥ずかしくなったのか、克哉は御堂の胸に顔を埋めたまましばらく黙り込んでいた。
ここでいくら恥じる必要などないと言ったところで、克哉にとっては意味が無いのだろう。
だから御堂も何も言わず、ただ克哉の頭を撫でていた。
「……孝典さんは嫌になりませんか?」
ついうとうとしはじめたとき、克哉がぽつりと呟いた。
「何にだ?」
「その……オレがこういう人間だということに……です」
「……」
こういう人間、とはどういうことだろうか。
草食系に見えて実際は肉食系なことだろうか。
なんにせよ嫌になるわけがない。
寧ろ御堂自身が、そう仕向けているというのに。
「……克哉」
御堂は克哉を強く抱き締めた。
嗅ぎ慣れたシャンプーの香りと、僅かに汗の匂いがする。
その髪に顔を埋めながら御堂は言った。
「君の飢えは私が満たしてやる。君の欲望を全て受け止められるのは私だけだ。それを忘れないように」
「孝典さん……」
「私は君に喰らい尽くされるのなら本望だぞ」
「そんな……! そんなことしません!」
「どうだかな」
ふくれて反論する克哉にくちづけると、克哉もようやく笑顔を取り戻しながらそれに応える。
腕の中の恋人はいつの間にか、可愛らしい草食系に戻っていた。
- end -
2012.04.05
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