Classical

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キュッと音を立てて栓を締めると、頭上から降り注いでいた熱い水流がぴたりと止まる。
克哉は濡れた髪を両手で無造作にかきあげて、水滴を周囲に飛ばした。
足元から排水溝に向かってお湯が引いていくのを感じながら、細く息を吐く。
いつもならばシャワーの後は、御堂とワインを飲みながら寛ぐか、時にはそのまま寝室に直行することもあった。
しかし、今日はそれが出来ない。
いや―――今日も、だ。
御堂がボストンの本社へ一週間の海外出張に出てから、四日が過ぎていた。
当初の予定では克哉もその出張に同行することになっていたのだが、 参加しているプロジェクトの進行状況が芳しくなかったため、自ら辞退したのだ。
御堂は少し残念そうではあったものの、克哉の考えに同意した。
向こうでは会議やら工場の視察やら、スケジュールが立て込んでいるらしい。
時差もあって、この四日間はほとんど連絡を取っていなかった。
「はぁ……」
以前の克哉は、御堂がいないときには自分のアパートに帰っていた。
けれどアパートを引き払ってしまった今では、それも出来ない。
たとえ会社にいる時間を差し引いたとしても、一人で過ごすには、この部屋は広すぎる。
あのベッドで、ひとり眠るのも。
「……!」
寂しさに何気なく落とした視線が、ある光景を捉える。
その瞬間、克哉はぎょっとして身を竦ませた。
あの夜から幾度も目にしているはずなのに、そのたびに同じ反応をしてしまう。
それほどに、異様だった。
両足の間に力無く垂れた性器の周囲には、ある程度の年齢を経た人間なら、必ずあるはずのものがない。
克哉はそこに震える指先で触れてみた。



御堂が海外出張に立つ前夜のことだった。
明日から一週間も離れて暮らさなければならないのかと思うと、克哉は寂しくて堪らなかった。
二十四時間一緒にいるのが当たり前になっていた二人にとって、それはとてつもなく長い時間だ。
明日の朝のことを考えれば早く眠らなければいけないというのに、一向に眠くならない。
既に体を重ねて、ほどよく疲れているはずなのに、克哉は御堂の体にしっかりと回した腕を緩められずにいた。
「気をつけて、行ってきてくださいね……」
何度口にしたか分からないセリフを、克哉はまた繰り返す。
心配なのは本当だが、出張は御堂一人で行くわけではないのだし、なにより初めてのことでもない。
ただ何か話したいのに、何を言っていいのか分からないだけだ。
「さっきから、そればかりだな」
「だって……」
「私はどちらかというと、君の方が心配なんだが」
髪を撫でる御堂の掌が、酷く心地好い。
「何が心配なんですか? 戸締りなら、ちゃんとしますよ」
克哉の妙に可愛らしい発想に、御堂がクスクスと笑う。
「そんな心配をしているわけじゃない。……私がいない間、また本多と飲みにでも行くのか?」
「えっ」
そういえば以前にも御堂が出張中、本多と飲みに行ったことがあった。
その話をすると御堂が不機嫌になったことを思い出す。
「いえ、そういう予定はありませんけど……」
御堂の心配の正体を悟って、克哉はなんとなくくすぐったいような気持ちになって微笑んだ。
「御堂さん。そんな心配、それこそ無用ですよ」
「君にそういうつもりがなくても、君の場合は相手の方から寄ってくるからな」
「そんなこと」
「……そうだ」
御堂がふと呟いて、ベッドから起き上がる。
そのときの表情が、まるでイタズラを思いついた子供のように見えて、克哉は何か嫌な予感がした。
「克哉。一緒に来るんだ」
「え。は、はい」
訳も分からずに、御堂の後についてベッドを抜け出す。
向かった先は、バスルームだった。
「御堂さん……?」
シャワーならさっき浴びたばかりだというのに、御堂は扉を開け、中に入っていく。
仕方なく克哉も冷たいタイルの上に並んで立つと、御堂がバスタブの縁を指差した。
「全部脱いで、ここに座りたまえ」
「ここに……ですか?」
「そうだ。早く」
「……」
克哉の鼓動が僅かに速まる。
不安を感じながらも、言われた通りガウンを脱ぎ捨て、バスタブの縁に腰掛けた。
そこはまだ濡れていて、直接冷たさを感じた体がぶるりと震える。
御堂は克哉が座るのを確認して満足そうに笑うと、傍にあったボディソープを手のひらに取った。
「……そのままでいろよ」
そう言って、克哉の肩に手を掛け、身を屈める。
それからもう片方の手のひらを傾けると、克哉の胸の辺りからソープを垂らし始めた。
「御堂さん……?!」
ひんやりとしたそれが、肌の上をとろりと流れていく。
胸の間から腹を滑り、やがて両足の間の薄い茂みへと。
「ひゃ……」
その感触に、克哉は思わず声を出した。
ソープを全て垂らし終わると、御堂はカランから少量の水を出し、手を湿らせる。
いったい、何が始まるのだろう。
御堂が何をしようとしているのか、克哉には皆目見当がつかない。
混乱しかけている克哉の前に御堂は跪くと、あろうことか膝を掴んで足を大きく開かせた。
危うくバランスを崩しかけた克哉が、咄嗟に御堂の肩につかまる。
「御堂さん…何を……!」
「……薄いな」
「!!」
御堂の視線は、間違いなく克哉の股間に注がれている。
意味が分かった克哉は顔を真っ赤にしながら、慌てて両手でそこを覆い隠そうとした。
しかし御堂に手首を取られてしまい、今度は足を閉じようとしたのだが、御堂の体が邪魔をしてそれも叶わない。
羞恥にふるふると体を震わせながら、克哉は御堂の好奇の視線に必死で耐えていた。
「ひ、ひどい、です……気にしてるのに……」
「そうなのか?」
「そうですよ……」
学生時代、修学旅行や水泳の時間にも、よく恥ずかしい思いをしたのだ。
もともと髪の毛同様、毛の色が濃くないせいで、余計に量も少なく見えてしまう。
男らしさに欠けているようで、とても嫌だった。
「……気にするほどでは無いと思うが」
御堂が呟いて、フッとそこに息を掛ける。
「やっ……!」
「じっとしていろ。滑って怪我をするぞ」
「だ、だって……」
やがて御堂は克哉の手を離すと、性器の周囲を撫で始めた。
指先でソープを塗り込めるようにしていくと、白く柔らかな泡が立つ。
肝心な場所には触れてもらえないもどかしさに、克哉の下肢が鈍く疼いた。
「御堂、さん……」
時折泡や御堂の指先が中心に触れるたび、そこが硬くなっていく。
次第に頭をもたげはじめるものを見て、御堂がクスリと笑った。
「……これだけで、こんなにしているのか?」
「……っ……御堂さんの…イジワル………」
「意地悪、とは心外だな」
空々しく言って、御堂は克哉の中心に軽くくちづけた。
「あぁっ……!」
「このままでいろ」
びくんと体を跳ねさせる克哉を、御堂が嗜める。
それから突然立ち上がると、バスルームを出て行ってしまった。
「え……」
こんな状態で置き去りにされて、克哉は心細げに眉尻を下げる。
すぐに御堂は戻ってきたが、その手に持っているものを見て、克哉は目を見張った。
「御堂さん……まさか、それ……」
御堂が手にしていたのは、L字型の剃刀だった。
普段、御堂も克哉も髭を剃るときには、電動式のシェーバーを使っている。
予備としてT字型の剃刀も洗面所のボックスに置いてあるのは知っていたが、これは見たことがなかった。
いったい、どこにあったのだろう?
いや、今の問題はそういうことではない。
御堂が何をしようとしているのかをようやく理解して、克哉は怯えた表情を浮かべた。
「やめ……御堂、さん……やめて、ください……」
しかし御堂は克哉の懇願も無視して、薄笑いしながら再び克哉の両足の間に跪く。
「怪我をしたくなければ、動くんじゃないぞ」
「あっ……や、だ……」
冷たい刃が、下肢の柔らかな肌の上に当てられる。
御堂はゆっくりと、細かく、剃刀を下に向けて動かした。
奇妙な感覚。
泡に塗れた薄い毛は次々に皮膚を離れ、刃に纏わりついていく。
隠れていたはずの肌が徐々に露わになっていくのを見ていられず、克哉はきつく目を閉じた。
「御堂…さん……どうして、こんな……」
「万が一、君が過ちを犯すことが無いようにな」
「そんなこと、するわけ…っ……!」
思わず閉じかけた膝を、御堂がぐいと押し開く。
「しっかり開いていろ。……こちらに当たってしまったら、大変なことになるぞ?」
「ひっ……!」
中心に硬くて冷たいものが触れたのを感じて、克哉は恐怖に強張った。
さっきまで熱を持っていたそれは、すっかり萎えてしまっている。
「……怖いのか? 可哀想に」
言葉とは裏腹に、御堂は喉の奥でククッと笑う。
何故、こんなことまでされなければならないのだろう。
御堂は本気で嫉妬をしているわけではなく、それを口実に楽しんでいるだけなのではないだろうか。
克哉の閉じた目尻に、涙が滲んだ。
「御堂さん……もう…許し、て……」
泣き声で懇願するも、御堂は手を止めてくれない。
剃刀の刃が、次第に下腹部から中心へと近づいていくのが分かる。
やがて御堂は克哉のものに手を添え、ぎりぎりの場所を剃り始めた。
いったい、どんな姿になってしまうのだろう。
想像するだけでも、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
唇を噛み、ひたすら羞恥と恐怖に耐えていると、刃の滑る感覚だけが克哉を支配する。
敏感な皮膚がバスルームの湿った空気に触れ、その範囲が広がるごとに、克哉は体の奥底から何か別の感情が湧きあがってくるのを感じていた。
それがなんなのかはっきりとは分からないまま、御堂の指が絡みつく中心だけが反応を見せ始める。
「……怖がっているのだとばかり思っていたが、感じているんじゃないか」
「!!」
御堂のからかうような声音に、克哉はびくりと体を震わせた。
どうして、こんな。
こんなことで、感じるなんて。
しかし幾ら否定しようとしてみても、それは明らかだった。
御堂がそこに触れている所為だけではない。
御堂が全てを見ているからだ。
恥ずかしい姿を曝け出している、自分の全てを。
肌に刃を立てられる微かな痛みさえ、それは熱となって御堂の指先に伝わっていく。
細かく動く剃刀の、僅かな振動さえ。
「……終わったぞ」
「あっ……」
御堂の指先と、剃刀の刃が、不意に離れる。
心もとなさに思わず目を開けると、御堂はシャワーヘッドを手にしていた。
栓を捻り、克哉の下肢に向かってお湯をかける。
白い泡と共に、緩やかにウェーブした薄茶色の毛が、バスルームの床を流れていった。
「よく見るんだ」
「……っ」
見下ろして、克哉は息を飲んだ。
下肢を辛うじて覆っていた毛は見事に無くなり、半ば硬くなった性器が剥き出しになっている。
白い肌の中心から露わになったそれはまるでアンバランスで、異様というしかなかった。
「こんな……こんなの、変、です……」
顔を真っ赤にして呟く克哉に、御堂が愉快そうに笑う。
「これで君は、誰にもここを見せられない。そうだろう?」
「こんなことしなくても……オレは、誰にも……」
「そうか?」
御堂は再び克哉の前に跪いた。
「こんなに恥ずかしい姿になっておいて、君は興奮しているじゃないか」
「それ、は……!」
御堂が克哉の中心を握る。
それからもう片方の手で克哉の手を取ると、剃られた後の肌に触れさせた。
「自分で触ってみろ」
「や……」
そんなこと、確認したくない。
そう思うのに、目が離せない。
まるで自分の体ではないようだ。
剥き出しになった肌の上を指先で辿りながら、頭の芯が熱くなっていく。
御堂の手に握られたままのものが、次第に硬さを増していく。
「あ……や………っ…!」
不意に御堂が顔を埋め、克哉の指の付近に舌を伸ばした。
指先の動きを追いかけるようにして、露わになったばかりの皮膚の上を舌が這う。
「やめ……御堂、さん…っ……」
「……」
御堂は克哉の中心に頬を寄せながら、剃り痕を舐め続ける。
克哉は今にもバスタブの縁からずり落ちてしまいそうになるのを堪えるのがやっとだった。
両足の間にある御堂の髪に指を絡めながら、克哉は息を弾ませる。
「あっ……や……あぁっ……」
甘い喘ぎ声がバスルームに響く。
御堂に握られたままの中心が、痛むほどに脈打っていた。
「さて……どうしてほしい?」
御堂が口角を吊り上げながら、上目遣いで克哉に尋ねる。
倒錯した欲望と羞恥が綯い交ぜになって、克哉の目には涙が浮かんでいた。
「……して、ください……」
震える声で口にした言葉は、自分でも信じられないようなものだった。
しかし御堂は、その程度では満足しない。
ゆるゆると手を動かしながら、先端に唇が触れる距離で囁く。
「おねだりの仕方は、教えたはずだが?」
「……っ」
御堂の吐息がかかり、開いた膝が戦慄く。
どうせここまでされてしまったのだ、理性など捨ててしまえばいい。
克哉は御堂の指に自分の指を絡めて、強請った。
「……こんなに、恥ずかしい姿になったオレを……メチャクチャに…抱いて、ください……」
フッ、と御堂が笑う。
それから立ち上がり、克哉の手を引いた。
よろけながら腰を上げた克哉を壁の近くまで導くと、後ろから抱き締める。
「本当に、恥ずかしいな……」
「あっ……」
回された御堂の手が、克哉の下肢を撫でた。
その途端、すっかり硬くなった屹立がぴくんと跳ねる。
胸元に当てられていたほうの手は、克哉の腋の下へと滑り込んだ。
やはり同じように薄く生えた毛を、御堂は指先で摘む。
「そんなに気持ちがいいなら、ここも剃ったほうが良かったか?」
「い、いや、です……っ」
必死で首を左右に振りながら、克哉は壁に手をついた。
そうでもしなければ、しゃがみこんでしまいそうだった。
自然と御堂の昂ぶりに尻を押し付けるような形になって、克哉は腰を揺らす。
「み、御堂さん……オレ……もうっ……」
「……欲しいか?」
「……」
顔を真っ赤にしながら、克哉はこくこくと頷く。
ようやく御堂はガウンの前を肌蹴けると、先端を克哉の後孔にあてがった。
じくじくと疼くそこに、御堂がぐいと入り込む。
「……っ」
「…んっ………ああぁっ……!」
御堂に腰を抱えられ、一気に引き寄せられた。
焼けつくような熱が、克哉の中を貫く。
「あっ…はぁっ……! 孝典、さん……っ!」
克哉の嬌声と、御堂の弾む呼吸がバスルームに反響する。
いきなり激しく揺さぶられ、息が出来なくなりそうだ。
苦しさの中で、恐る恐る目を開いてみる。
白い肌の中心からそり返った屹立は、御堂の律動に合わせて揺れている。
先端からは、明らかに水滴とは別の雫が溢れていた。
「……!!」
再び、御堂の手が下肢に伸ばされる。
屹立の根元をさすられ、克哉はたまらなくなって自ら腰を突き出した。
「孝典、さん……もっと……もっと、触って……」
強請られて、御堂のものが克哉の中でぐんと硬さを増す。
御堂は克哉の背中に覆い被さって、その願いを叶えてやった。
指先が大きく動き、時折柔らかな袋を弄びながらも、決して克哉自身には触れようとしない。
それでも克哉のものは、今にも弾けそうなほどになっていた。
「孝典さん……孝典、さん……!」
羞恥も、理性も、既に無い。
形振り構わず快楽だけを求め、互いを貪る。
「あ……もう、ダメ……イく………出る……っ…!」
「……っ…!」
息を詰め、体を強張らせた瞬間、克哉の中心から熱いものが迸った。
びくん、びくん、と幾度も体を痙攣させながら、バスルームの壁に白い飛沫を飛び散らせる。
その体の奥で、御堂もまた己を解放した。
欲望の全てを克哉の中に注ぎ込み、大きく体を震わせる。
「かつ…や……」
御堂は呟いて、自身を引き抜く。
ドロリと溢れたものが足の内側を伝っていくのを、克哉は朦朧とした意識の中で見つめていた。



伸び始めた毛の先端が、指先を軽く刺す。
その中心ではさっきまで力を失っていたはずのものが、半ば勃ち上がりかけていた。
克哉はおずおずとそれに指を絡める。
あの夜のことを思い出すたびに、体が熱くなるのを止められなかった。
「…孝典……さん……」
会社でトイレに行くのも、人目を憚る。
立ち上がったり、座ったりするたびに、下着の中の異様な光景を思い出す。
毛が伸びるほどに、御堂とどれだけ会っていないのかを実感する。
スーツの下で、自分がどれほど恥ずかしい姿になっているのか、誰も知らない。
あそこの毛を剃られて、それで感じてしまうような自分であることを―――。
「孝典、さん……っ…」
欲情に濡れた声で名を呼びながら、克哉はバスルームの壁に手をついた。
早く、あなたに会いたい。
自分で剃刀を手にしてしまう前に、抱き締めてほしい。
あの夜のように全身で御堂を求めながら、克哉は手を動かしはじめていた。

- end -
2008.06.05



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