07 七歳差

仕事終わりに、二人でジムへ寄ってからの帰り道。
信号待ちの車内で御堂がつけたカーラジオから、女性の歌声が流れてきた。
すぐにチャンネルを変えるかと思いきや、御堂はそのままその曲を流し続ける。
かつての人気アイドルだった女性が歌う、その可愛らしくテンポの良い曲は、克哉にも確かに聞き覚えがあった。
「……懐かしいな」
曲が終わるころ、御堂が苦笑交じりに呟いた。
「何か思い出があるんですか?」
御堂が聞くには少々意外な曲の気がして、助手席にいた克哉が尋ねる。
御堂は笑ったまま頷いた。
「大学に入ったばかりの頃、内河がこのアイドルにはまっていてな。 あまりに可愛い可愛い言うものだから私まで覚えてしまった。 それなのに、このアイドルに恋人がいるらしいと報道された途端、急に冷めたらしくてな……。 彼女に恋人がいようといまいとお前には関係無いだろうと言ったんだが、そういう問題ではないらしい。 いろいろ私には理解出来ないことばかりだった」
「そうだったんですか」
なんとも内河らしいエピソードに思えて、克哉はクスクスと笑った。
「でも確かにこの人、すごい人気でしたよね。オレの周りにもファンがたくさんいましたよ。 男子だけじゃなくて女の子からも人気で、髪型を真似してる子なんかもいましたし」
「そう……か」
「はい」
「……」
「……」
歯切れの悪い返事をしたあと、御堂は黙り込んでしまう。
その奇妙な空気に克哉は焦って御堂の横顔を覗き込んだ。
「えっ、どうしましたか? オレ、なにか変なこと言いました?」
「いや、そういうわけではないんだが……」
「はい」
「……ちなみに聞くが」
「はい」
「それは君がいくつのときのことだ?」
「……小学校高学年ですね……」
「……」
「……」
普段あまり意識していなかった年齢の差を突き付けられて、互いに愕然とする。
とくに御堂はショックを受けたようだった。
克哉は慌ててフォローする。
「し、仕方ないですよ! だってオレと孝典さん、七歳も差があるんですし……」
「七つか……」
「あ、でも、ぜんぜん気になったことないですよ! ただオレが子供っぽすぎて孝典さんにご迷惑をかけてるんじゃないかと心配になることはありますけど……」
「いや、そんなふうに思ったことはない」
「そうですか? それなら良かったです……」
「しかし七歳差か……。結構離れていたんだな」
「そうですね」
ようやく御堂が落ち着きを取り戻したようで、克哉もほっとする。
そして改めて考えると、確かに七歳の差は大きいような気がした。
それでも日々の生活の中でジェネレーションギャップを感じるようなことはほとんどなかったから、今のやり取りはむしろ新鮮ですらあった。
「でも、よく言うじゃないですか。七歳と十四歳じゃだいぶ違っても、六十歳と六十七歳だったらそんなに違わないって」
「確かに、それはそうだな」
「だとすると、年の差だけは変わらないって言いますけど、感覚的には少しずつ近づいていくものなのかもしれないですね」
「ふむ……それは面白い考え方だな」
御堂が笑いながらハンドルを切る。
七年という時間は長いようにも思えるけれど、克哉と御堂が恋人同士になってからの時間はとうにそれよりも長くなっている。
年の差として考えれば長く、恋人同士の時間として考えればあっという間だ。
「そのうち年齢などどうでもよくなるのだろうな」
「そうですね。……そうなっても、ずっと一緒にいたいです」
はにかんで言う克哉に、御堂は微笑みで答えた。

- end -
2017.08.23



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