08 当たるも八卦当たらぬも八卦
明日は朝から会議があるのでいつもより少し早く家を出なければならない。
しかし夜11時の現在、外はかなりの土砂降りだ。
出来れば朝までにやんでほしいものだが、天気予報はどうなっているのだろうか。
それを確かめようと克哉がベッドでスマホを操作しているとき、ふとアプリの広告に表示された文字が目に入った。
『よく当たる!無料で相性診断!』
克哉は占いや心理テストの類を殊更否定するつもりもなければ、妄信する気もなかった。
実際その結果に背中を押してもらったり、励まされたりする人がいるのなら、それはそれで存在価値があるものなのだろうとは思っている。
ただあくまでもそれに依存しすぎず、振り回されないことが前提だ。
だからそれは克哉にとって、ちょっとした興味本位からくる気紛れでしかなかった。
広告バナーをタップすると、やたらと派手な画面に切り替わる。
ページの真ん中辺りに、いくつかの情報を入力する欄が設けられていた。
「ええと……ここに入れればいいのか……」
『あなた』と書かれている側に自分の情報を、『相性を調べたい相手』と書かれている側に御堂の情報を入力する。
名前と生年月日というたった二つの項目で何がどれだけどうして分かるのか、
その理論は何処にも書かれていないのでさっぱり理解出来なかったが、
ともかく無事に入力を終えた克哉はその下にある『診断!』という大きなボタンを押してみた。
およそ2秒後、画面に診断結果が表示される。
それを見た瞬間、克哉はベッドに勢いよく倒れ込んだ。
「どうしたんだ?」
「あっ、孝典さん」
寝室にやってきた御堂に声を掛けられて、今度は跳ねるように飛び起きる。
「見てください、これ!」
克哉は怒ったように言って、御堂にスマホの画面を突きつけた。
御堂は驚きつつも、そこに書かれている文字を読み上げる。
「佐伯克哉さんと御堂孝典さんの相性は19%です? なんだ、これは?」
「相性診断です。やってみたら、こんな結果に……」
ガクリと項垂れてしまった克哉を見て御堂が笑う。
それからベッドの隣りに腰掛けると、落ち込んでいる克哉の頭をぽんぽんと叩いた。
「まさかこんなものを信じたのか?」
「信じたわけじゃないですけど……ちょっと、がっかりしちゃいました」
「見せてくれ」
御堂は克哉のスマホを受け取ると、さきほどの続きを読む。
「なになに……頑固で融通の利かないあなたと、プライドが高くて完璧主義の彼はぶつかりあって喧嘩ばかり。
一緒にいてもイライラしてしまうことが多いでしょう。互いに思いやりをもって、意見を尊重しあえれば良い関係を築けるかもしれません……ふむ、なるほどな」
「確かにオレは頑固で融通が利きませんし、孝典さんは完璧だと思いますけど……」
19%という数字には衝撃を受けてしまったが、分析自体はそれほど的外れとも思えない。
克哉はおずおずと御堂を見上げて尋ねた。
「……もしかして、オレといるとイライラすることが多いですか?」
「……」
御堂は一瞬目を丸くして、それからニヤリと笑った。
「そういえば昔はずっと君にイライラさせられていたな」
「で、ですよね」
「昔は、だ。私達はもともと相性が悪いのかもしれないな」
「あ……でも」
克哉がふと思い出す。
「昔、片桐課長にオレと孝典さんは相性がいいと思うって言われたことがあるんです。
まだプロトファイバーの営業を始めたばかりの頃だったので、そのときはすごく驚いたんですけど」
「ほう。片桐君には先見の明があったということか」
「そうですね」
あの頃はといえば御堂はいつも克哉に対して意地悪だったし、克哉はそんな御堂に怯えきっていたのだ。
どう考えても相性がいいとは思えないはずだったが、それでも片桐はそう言った。
彼が何故そう感じたのか、今となっては確かめる術もなかったが、結果的にそれは当たっていたことになる。
いつも控えめで周りに気を配る片桐だからこそ、当人同士でさえ気づかなかった何かを察したのかもしれない。
「そう考えると、片桐課長の相性診断は当たったことになりますね」
「そうとも言えるな。それに、この……互いに思いやりをもって、意見を尊重しあえれば良い関係を築ける、というところだが……
それが出来れば大抵の人間関係は良好になるのではないか?」
「……あ」
克哉と御堂は顔を見合わせる。
「確かにそうですね」
「だろう? そういうことだ」
「はい」
当たるも八卦当たらぬも八卦。
二人はクスクスと笑い合いながらくちづけた。
- end -
2017.09.02
[←Back]