かくれんぼ
昼前まで薄く広がっていた雲も晴れ、村には穏やかな陽射しが降り注いでいた。
天戒は日課である見廻り兼散歩に龍斗を誘うことに決め、準備を整えて屋敷を出た。
出くわした下忍に龍斗を見掛けなかったかと尋ねると、今広場で擦れ違ったばかりだと言う。
天戒は子供達の遊ぶ声が響く広場へと向かって足を運んだ。
一見して見える範囲に、龍斗の姿は無かった。
天戒はぶらぶらと歩きながら、辺りに注意深く視線を泳がせる。
ふと、視界の端に白い胴着が見えた気がした。
目を凝らすと、共同の野菜蔵に使っている小屋の陰から、ほんの僅かに草鞋の爪先が覗いている。
天戒は間違いないと確信をもって、そちらへ近づいていった。
「―――何をしている?」
覗き込んでみると、案の定そこには膝を抱えた龍斗が座り込んでいた。
しかし龍斗は天戒の姿を見た途端に顔を顰め、しっしっと手で追い払うような仕草をする。
「なんだ? どうした?」
邪険にされて些か気を損ねながらもう一度尋ねるが、
龍斗は人差し指を唇の前に立て、矢張り天戒を追い払おうとした。
「いいから、天戒! あっち行けって! 頼むから!」
「な、なんだ」
「だーかーらー……」
何故、追い払われなければならないのか分からない。
分からなければ退くわけにはいかぬ。
その場を動こうとしない天戒に、龍斗が苛々と首を振ったときだった。
「あっ! 龍兄ちゃん、見つけた!!」
天戒の後ろからひょいと現れた村の子供が、龍斗を指さして嬉しそうに叫んだ。
「あ〜あ、見つかっちゃったよ〜」
龍斗は悔しそうに自分の額を叩きながら立ち上がった。
男の子は誇らしげな顔をして、そんな龍斗の手を掴む。
「天戒〜。お前のせいで見つかったんだからな〜」
ぽかんと立ち尽くしている天戒を睨みつけながら龍斗が言う。
そこで漸く事情が呑み込めた天戒は、心からすまなさそうに身を縮めた。
「……すまん。隠れ鬼をしていたのか」
「そうだよ。それなのに、まったく……」
天戒が声を掛けてきたせいで見つかってしまったのだ。
龍斗はふくれっ面をしてみせたが、それも束の間。
すぐに何かを思いついたらしく、にやりと口元を緩ませた。
「ってことで、お前。責任取れよな」
「責任?」
「そ。責任」
厭な予感がする。
龍斗は子供と手を繋いだまま広場の真ん中へと走り出ると、大声で叫んだ。
「おーい、みんな〜。御屋形様が一緒に遊んでくれるってよ〜!」
「お、おいっ、龍」
慌てる天戒をよそに、子供達が一斉に歓声をあげた。
広場の真ん中に立ち、目を閉じる。
ゆっくりゆっくりと十数えてから、やがて目を開けた。
「……」
ぐるりと周囲を見渡してみて、天戒は思わず笑みを零した。
子供達は天戒が遊んでくれることが、よほど嬉しいらしい。
早く見つけてほしくて仕方が無いのか、水がめの陰から、垣根の裏から、
期待に紅潮した顔をついつい覗かせてしまう。
しかし天戒はわざとそれに気づかぬふりをしながら、
出来るだけ時間をかけて子供達を探し出してやった。
天戒の周りには次々に、見つかって尚、嬉しそうな顔をした子供達が集まっていった。
「……あと一人か」
小さな頭を数えてみると、どうやら全員見つけてやることが出来たらしい。
残るはひとり、あの大きな男だけだ。
「龍兄ちゃん、隠れるのうまいからなぁ」
「変なところに隠れるんだよね」
子供達が口々に龍斗のことを話すのを、天戒は微笑ましく聞いていた。
「よし。じゃあ俺は龍を探してくるとしよう。あとはお前達で遊ぶが良い」
天戒が言うと子供達は笑顔で頷き、満足そうに走り去っていった。
広場に残された天戒は、暫くそこで考え込んだ。
子供たちを探しながら龍斗の姿をも探したのだが、何処にもその気配は無かった。
そう遠くに行ったとも考えられないし、何より自分ならば必ず見つけられるはずだと自負していた。
龍斗の行きそうな場所を考えてみる。
かくれんぼは見つけてほしくて隠れるものだ。
見つけてもらえないときの寂しさといったら無い。
―――もしや。
天戒は思いついたその場所へと向かうことにした。
障子を開けると、予想通りの光景が天戒の目に映った。
「……矢張り、ここにいたか」
龍斗は天戒の部屋に勝手に入り込み、挙句畳の上にごろりと横になっている。
こちらに背を向けて寝ている龍斗の身体を、天戒は乱暴に揺り起こした。
「おい、龍。起きろ」
「……う〜ん……」
龍斗は寝ぼけ眼を擦りながら寝返りを打つと、天戒に気づいてへらりと笑った。
「まったく……子供らを俺に押しつけて昼寝とはな」
天戒は龍斗を見下ろしながら、呆れたように溜息をつく。
しかし当の龍斗は悪びれた様子もなく、横になったままで天戒に手を伸ばした。
「いやぁ、あいつら元気だからさぁ。一度つきあい始めると長くてな」
確かにそうだろう。
彼らとの遊びを切り上げるのはなかなか難しいことだ。
それでも度々子供達の相手をしているらしい龍斗に、天戒は内心感謝していた。
それに天戒自身も、今日は貴重な体験をしたと思っている。
今まで子供達に声を掛けることはあっても、共に遊ぶまではしたことがなかったのだから。
「まぁ、たまにはあんなのも良いだろう」
「だろ?」
「……調子のいい奴め」
天戒は龍斗の手を取り、その上に覆い被さった。
くすくすと笑いながら、唇を触れ合わせる。
何度も触れては離れていたそれが深いくちづけに変わるまで、さほど時間は掛からなかった。
重ねていた指先がきつく絡み合い、空いた手が龍斗の襟元へと差し込まれる。
龍斗はくすぐったそうに身を捩った。
「……まだ随分と明るいけど?」
「厭か」
「……」
少し考えて、それから首を横に振った。
もう一度唇が重なる。
「ん……」
襟を割られ、肌蹴られた硬い胸を天戒の掌が這う。
唇がその跡を追うように、首筋から胸へと降りていく。
小さな突起を見つけた舌が、それを舐め、押し潰した。
「…あっ……」
そこから広がっていく甘い痺れに、龍斗は身をくねらせた。
天戒の頭を抱え込むようにして、背中を緩く反らす。
「ぁ……はぁ………」
障子から差し込む柔らかい陽が、剥き出しになった肌を仄かに温める。
天戒の身体の重みに何処か安堵を感じながら、龍斗は意識を彷徨わせていった。
やがて帯が解かれ、晒された下肢へと天戒の顔が更に降りていく。
育ち始めているそこに、天戒はわざと無遠慮に触れた。
「あ、あっ」
龍斗の立てた膝がびくびくと跳ねて、爪先が畳を掻く。
緩められた下帯から取り出されたものが、熱い湿り気に包まれた。
「あぁ―――っ……」
長い溜息のような声をあげて、龍斗は天戒の紅い髪を掴んだ。
天戒の口内に含まれたそれは、悦びに震えながら昂ぶりを増していく。
舌のざらついた感触や、唇の微妙な動きに、爪先から頭の先まで快感が走り抜ける。
やがて前を口に含まれたまま、指が後ろに触れた。
零れた唾液の助けを得て、指先が沈められていく。
「うっ……ぁ……てんか、い……」
一度に攻められるのは刺激が強すぎる。
龍斗はいやいやをするように首を振った。
しかし天戒は次第に指を増やし、その場所を広げながら内側を擦り上げる。
「んっ、ああっ、てん、かいっ……駄目だ、って……」
龍斗は顔を覆う。
言葉では抵抗しながらも、その足は大きく開かれ、浮いた腰は淫らに揺れていた。
天戒の口の中のものは、今にも弾けそうになって震えている。
「いや、だ…っ……天戒……っ!」
半泣きの声を聞いて、漸く天戒は指を抜き、顔を離す。
龍斗は眦に涙を浮かべながら、はぁはぁと切れ切れの息を吐き出していた。
天戒は紅く染まった龍斗の頬にくちづけると、自分も袴を脱ぎ、下帯を解く。
龍斗の膝を押して身体を折り曲げ、剥き出しになった場所に自身を突き立てた。
「……龍」
ぐい、と腰を押し進める。
龍斗の背中が弓なりに反った。
「あぁっ……!」
「くっ……」
纏わりつく熱い中を割って、ゆっくりと奥を目指す。
きつい締め付けに目眩を覚えながら、天戒は次第に己を沈めていった。
やがて互いの肌が密着すると、天戒は身を屈め、龍斗の唇を啄ばんだ。
「龍……」
愛しそうに呟いて、天戒は腰を使い始める。
始めはそっと探るように突いていたのが、貫き、突き上げる動きに変わっていく。
龍斗の顎が上がり始め、堪えきれない声が漏れた。
「あっ、ん、ぁっ……」
龍斗は堪らずに自分の屹立を握り締めると、天戒の動きに合わせて激しく擦りあげた。
手はすぐに濡れ、そこは水音を立て始める。
もう片方の手は無意識に胸の突起を摘み上げていた。
明るい陽の光の中、自分に貫かれて身を捩る龍斗の淫猥な姿に、天戒は激しく煽られた。
「龍……良いか……?」
「ん、……いい…っ…」
「俺もだ……お前の中は、とても熱いな……」
抉るように突き上げると、龍斗の手の動きも激しくなる。
肌をうっすらと覆った汗が光る。
「あっ…も……出る……天戒………」
「あぁ……良いぞ」
「く…ぅっ…―――!!」
唇を噛み、眉をきつく寄せながら、龍斗の身体が大きく撓った。
その瞬間、手の中から白濁したものが飛び散る。
同時に締め付けられた天戒自身からも同じものが放たれ、龍斗の中に注ぎ込まれた。
長い余韻に浸りながら、龍斗は自分を見下ろしている天戒の頬に触れた。
「……俺のこと、ちゃんと見つけてくれたんだな」
その言葉に天戒は笑う。
「当たり前だ。俺が見つけられないとでも思ったか」
「本当に? 俺が何処にいても、必ず見つけてくれるか?」
「勿論だ」
「約束する?」
「ああ」
「……嬉しい」
龍斗はさっきの子供達とそっくりな笑顔を見せて、天戒の首に腕を回して引き寄せた。
- end -
xxxx.xx.xx
[ Back ]