本性


はっきり言おう。
天戒は性格が悪い。
村の連中に見せている顔、あれは嘘だ。
強くて優しくて頼りがいがあって……御屋形様!なんて慕われているが、みんな騙されている。
本当の天戒は我侭で自分勝手で独占欲が強くて意地悪な男だ。

でもそれを知っているのはどうやら俺だけみたいだ。
あの九桐でさえも気づいていないようだから恐ろしい。
……否、違うかな。
俺だけが天戒の本当の顔を知っているわけじゃなくて、天戒の俺に対する態度だけが違うのかもしれない。
あいつは俺にはすぐに無茶を言うし、その無茶が通らないとなると意地の悪いことばかりするのだ。

今回もそうだ。
半月近く前だろうか、俺と天戒は喧嘩をした。
喧嘩といっても殴り合いや斬り合いをしたわけじゃない、単なる口喧嘩だ。
本当につまらない、他愛の無い諍いだった。
その証拠に今となっては、言い合いになった原因がなんだったのかさえ思い出せないほどなのだから。
きっと思い出せないほうがいいぐらい、くだらない理由だったんだろう。
とにかくそのときに俺達は険悪な雰囲気になってしまった。
それでも俺は、放っておけばそのうち自然と元に戻るだろうと呑気に思っていたのだ。

すると驚いたことに、天戒は翌日から呆気なく普段の態度に戻っていた。
いつも通りに言葉を交わし、いつも通りに用事を頼まれ、いつも通りに鍛錬の相手をする。
ちょっと拍子抜けしたけれど、それはそれでほっとしていた。
そう、二、三日の間は。

その日以来、たったひとつだけ今までと変わってしまったまま戻らないことがあった。
それは天戒が俺の部屋に全く来なくなってしまったこと。
今までは何も無い限り、皆が寝静まった頃になると天戒は決まって俺の部屋を訪れていた。
それはもう三日と空けずに、だ。
別に毎回……身体を重ねていたわけじゃあない。
酒を呑みながらだらだらと話をしたり、ただ抱き締めあって眠ったり。
昼間は他の連中の手前もあってなかなか二人きりになれることは少なかったから、 そんな風に過ごす夜は俺達にとって大切な時間だった。

それなのに天戒はあれ以来、俺の部屋に来ない。
それならば自分から行けば良いのだろうが、惚気ているわけではなく、 今までも俺の方から天戒の元に行ったことは一度も無かったのだ。
だから、これは天戒の意地悪だと確信した。
そのうちに我慢しきれなくなった俺の方が折れて、 天戒〜ごめんよ〜なんてしおらしく謝ってくるのを期待しているに違いない。
そうはいくか。
俺は意地になって、絶対に自分から部屋に行くような真似はしまいと心に誓った。

しかし苛立ちは一日過ぎるごとに募っていく。
昼間に会う天戒のしれっとした態度は、腹立たしい事この上無かった。
かと言って俺の方が態度を変えてしまっては、苛立っていることがばれてしまう。
俺は、お前が俺の部屋に来ないことなどちっとも気にしてないぞと、天戒に示したかった。

そして俺は今も意地を張り続け、演技をし続けている。
さすがに半月も経つと、そろそろ馬鹿馬鹿しくなってきてはいるのだけれど……。



「はぁ……」
布団に潜り込むと、勝手に溜息が出てしまう。
ここのところ、ずっとそうだ。
そして知らぬうちに息を潜めて、部屋の外の気配を伺っている自分がいる。
耳を澄ませてみたところで、いつまで経っても誰かが歩いてくるような物音はしない。
風が吹いて庭木が揺れる音が微かに聞こえるだけだ。
「はぁ……」
また溜息。
いったい俺も天戒も、こんな状態をいつまで続ける気なのだろう。
しかし夜にこうして独りで考えていると弱気にもなるのだが、 朝になって天戒の顔を見た途端、畜生負けるものかとまた思ってしまうのだ。
まったくもって堂々巡りなのである。
「糞ッ……嫌いになっちまうぞ……」
出来るはずもないのに呟いてみる。
いっそ嫌いになれたらどんなにか楽だろうに。
それとも天戒のほうは俺のことなど、もうどうでも良くなってしまったのだろうか?
そこで俺は初めて、その可能性に思い至った。
そうだ、有り得ないことじゃない。
今までそこに考え及ばなかったことが自分でも信じられなかった。
天戒が俺を嫌うなど絶対に有り得ないと自惚れていたのか。
だとしたら俺は本物の馬鹿だ。
仲間としては信頼しているが、それ以上の感情は無くなってしまった、なんてことは充分考えられる。
しかし、あれしきの口喧嘩でそこまで―――だが俺はあの喧嘩の原因も、あのときに何を言ったのかもよく覚えていないのだ。
もしかしたら気づかないうちに、天戒を酷く傷つけるようなことを言ったのかもしれない。
たった一言で気持ちが冷めるようなことを言ってしまったのかもしれない。

駄目だ。
どんどん悪い方向に考えてしまう。
どうしよう、本当にそうだったら。
胸の奥が痛みだす。
嫌だ、そんなのは。
「天戒……」
ぎゅっと目を閉じると天戒の笑顔が瞼の裏に浮かぶ。
いつもこの布団の中で、息が掛かるほど傍にあった、あの笑顔。
「天戒……」
もう一度呟いて、自分の指で唇に触れてみた。
天戒の唇の感触を思い出したかった。
いつも優しく啄ばんでは少し離れて俺の顔を見つめ、それからまたくちづけてくれた。
その間ずっと俺の頬や髪に触れながら。
接吻の後、唇はいつも首筋へと降りていく。
それからゆっくりと胸へ。
襟元を開いて、掌を滑らせる。
「…んっ………」
焦らすようにその辺りの肌を撫でてから、指の腹で尖りを転がされる。
時折きつく摘み上げられるのが気持ち良くて、それをされると身体が一気に熱くなった。
「ぁ……っ…」
天戒に抱かれるまでは、そこで感じたことなどなかったのに。
指で挟んで弄ると、むず痒いような快感が全身にじわりと広がっていく。
「てんか、い………」
中心が疼き始める。
空いた方の手を足の間に潜らせ、掌で覆った。
「あっ………」
下帯の上から指を這わせるけれど、もどかしさばかりが募る。
理由なんて考えずとも分かっていた。
だってこの手は天戒の手じゃないから。
どんなに同じ愛撫を再現しようとしても、それは絶対に出来ない。
天戒がいい。
天戒に触れてほしい。
唇で挟んで、尖らせた舌で舐めてほしい。
強く握って、扱いて、貫いてほしい。
天戒。
天戒。
「…っ………」
ふっ―――と気持ちが冴えた。
身体の熱も、潮が引くように引いていく。
何やってるんだろう、俺。
「はぁ……」
虚しさに、何度目かの溜息を吐く。
厠にでもいってから、大人しく寝ることにしよう。

用を足して部屋に戻ろうとして、俺は思い立った。
絶対に自分からは行くまいと誓っていた天戒の部屋だけど、 どうせもう眠っているだろうし、ちょっとだけ覗いていってみようか。
少しだけならば気づかれまい。
俺は足音を忍ばせ、気配を殺して天戒の部屋へ続く廊下へと向かった。

(起きてる……!)
なんと天戒の部屋からは仄かな灯りが漏れていた。
それを目にした途端に、胸がどきどきと高鳴りだす。
どうしよう。
このまま行ってみようか。
それとも自分の部屋に戻ろうか。
さっきの悪い考えが再び頭に浮かぶ。
もしも俺が知らぬ間にに天戒を傷つけていたのだとしたら、嫌われたことは仕方が無いにしても、それだけは謝りたかった。
そしてもしそれが誤解だったとしたら誤解を解いておきたい。
そうじゃなく、単に意地悪で俺を放っておいているのだとしたら……まだ、そのほうがましじゃないか。
どちらにせよ、このままでは嫌だ。
あれほど自分からは行くまいと思っていたのに、 部屋の灯りを目にしたら居ても立ってもいられなくなってしまった俺は、意を決して廊下を進んでいった。

しかし部屋のすぐ前まで来ても、俺はまだ多少躊躇っていた。
中からは紙を捲るような乾いた音が時折聞こえてくるだけだ。
いったい何をしているのだろう。
緊張で喉がからからに渇いている。
天戒相手に何故ここまで緊張しなければならないのだ。
俺は無理やり唾を飲み込むと、わざと足音を立てて障子に近づいた。
「よぉ」
放り投げるように言いながら、思い切って障子を開けた。
文机の前に座っていた天戒が、ぱっと顔を上げる。
「おお、龍か」
……たいした奴だ。
平然といつも通りの顔を見せる天戒に、俺は少し呆れた。
引き攣る顔になんとか笑みを浮かべながら、後ろ手に障子を閉めて天戒の傍に腰を下ろす。
「灯りがついてたんで、ちょっと気になって。こんな時間まで、何をやっているんだ?」
「ん……色々とな」
机の上には何か書きかけの紙と筆、硯が置いてある。
俺は天戒に身体を近づけるためだけに、わざと身を乗り出して机の上を覗き込んだ。
「下忍達の報告を纏めたり、村の備蓄を書き留めたりしているのだ。 そろそろ桔梗と澳継に、買出しにも行ってもらおうと思ってな」
「ふぅん……」
天戒は馬鹿正直に説明してくれる。
こいつがそんなことまでしていたのは少し意外だったけれど、 今はそこに何が書いてあるかなんて、どうでも良かったのだ。
それよりも俺がこんなに身体を近づけているというのに、天戒がなんの反応も示さないことのほうが気になる。
腕は既に軽く触れ合っているし、顔だってすぐ近くにあるというのに。
膝だって触れているじゃないか。
本当に天戒は俺のことなど、どうでもよくなってしまったのだろうか?
「買出しには、お前も行ってくれるか?」
「えっ」
ふいにこちらを向いた天戒にどきりとする。
本当にすぐ近くにいるのだ。
頬も、唇も、あと少し身体を傾けたら重なりそうなほど近くに。
「龍……?」
俺が息を飲んで見つめても、天戒は不思議そうにするだけだ。
酷く悲しくなってくる。
と、同時に腹も立ってきた。
「……っ…」
「龍、どうし……っ?!」
頭の中で何かが爆ぜた。
気がつくと俺は天戒を畳の上に押し倒して、両肩を押さえつけていた。
勢いで蹴った机から筆が転がり落ち、畳を墨で汚す。
「た、龍?」
「……んだよ……」
「……」
言葉にならない。
俺は唇を噛みながら、目を丸くしている天戒を見下ろしていた。
ここまでしてもまだ惚ける気なのだろうか。
言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃないか。
たとえ俺の方に非があったとしても、こんな風に何も言わず、突然突き放すなんて酷すぎる。
俺はもう訳が分からなくなって、ぶつけるみたいに天戒に唇を押しつけていた。
「んっ……!」
噛みつくように唇を貪りながら、舌を入れて中をめちゃくちゃに掻き回す。
唾液が零れるのも気にせず、角度を変え、息をする暇も与えないほどにくちづけた。
天戒は俺の腕を強く掴んだけれど、決して突き放そうとはしなかった。
だから俺は天戒の着物の襟元を乱暴に開くと、胸を掌で弄った。
「…っ……」
天戒は時折苦しそうに喉の奥で喘いだが、俺は唇を離さなかった。
胸の突起を摘んで、強く捻る。
「……っ!」
天戒の身体がびくんと跳ねる。
俺はいつも自分がされていたように、そこをくりくりと捏ねてやった。
本当は今すぐにでも自分がそうされたかったのだけれど。
尖りを押し潰し、爪を立て、指先で挟む。
「ん…ぅ……」
重ねたままの唇のせいで息が苦しい。
それでも俺は接吻を続ける。
手を下肢に移動させて、裾を捲った。
剥き出しになった足を撫でながら、中心へと手を伸ばす。
「ん……っ!」
岸に打ち上げられた魚みたいに、また天戒の身体が跳ねた。
硬くなり始めている幹から、その下の柔らかな膨らみを辿る。
掌を押し付けながら下帯を使って擦るように上下に動かした。
天戒の立てた膝が次第に閉じてくる。
そのとき。
「…………龍…ッ!」
天戒は無理やり顔を背けると、嗜めるような口調で俺の名を呼んだ。
俺達は濡れた唇から荒い息を吐き出しながら、互いを睨むみたいに暫く見つめあっていた。
「……」
気を削がれ、俺は天戒から手を離した。
なんだか投げやりな気持ちになる。
矢張り嫌だったのだろうか……と思ったのも束の間。
今度は俺のほうが天戒に引っ張られ、俺は天戒の胸の上に突っ伏すように倒れ込んだ。
「龍……」
天戒はまるで子供にするように俺の背中を撫で、もう片方の手では俺の髪を撫でた。
これはいったい、どういう意味なのだろう。
分からずにされるがままになっていた俺の耳元に、やがて天戒が囁いた。
「……待ちくたびれたぞ」
……え?
聞き返そうとしたときには既に遅かった。
ぐるりと身体を入れ替えられ、俺は仰向けにされていた。
「天戒、お前……?」
続く言葉を遮って、唇を塞がれる。
さっきの激しい接吻そのままに、性急に差し込まれた舌に絡め取られる。
「…ん……ふ…っ……」
そして矢張り同じように天戒の掌が俺の襟元を割り、入り込んできた。
肌を撫でる感触に、それだけで身体が震える。
「ん……ぅ……」
ああ、やっとだ。
ずっとこうされたかった。
触れてほしかった。
ずっと待っていた天戒の手。
いつものように俺を焦らす指先。
掌が吸いつく様に肌を撫ぜて、そして漸く尖りを掠める。
「んぅ…っ!」
一気に高まる体の熱。
もっとたくさん触れてほしい。
俺は天戒に足を絡めてその身体を引き寄せた。
やがて唇は唇から離れ、顎を伝って首筋へと落ちていく。
身体が期待に震える。
「あぁっ! はぁっ……!」
乳首に天戒の唇が触れた。
次いで舌の先に転がされ、円を描くように舐められる。
俺は天戒の頭をかき抱いて、喉を見せて喘いだ。
天戒はひたすらにそこを舐め、吸いあげる。
もう片方は指で強く摘まれた。
「あぁっ……ん…はぁっ、あ、あぁ……」
声が止まらない。
仰け反って、胸を突き出して俺は喘ぎ続けた。
もう何もかもがどうでもよくなっている。
ただめちゃくちゃに抱かれたい。
胸の上に広がる天戒の髪まで気持ち良く感じる。
覆い被さる身体の重みに、泣きたいぐらい嬉しくなる。
「あ……はぁ……天戒………」
天戒の手が下に降りて、俺の帯を解いた。
俺は腰を浮かせ、天戒の身体に下肢を押し付ける。
そこはさっき中途半端に昂ぶらせた名残もあって、既に熱く立ち上がっていた。
下帯の中で痛いほど張り詰めているそれに、天戒が確かめるように触れた。
「ん、あぁっ……ぁ……」
窮屈なまでに反り返っていることに気づいて、天戒は下帯を緩めてくれる。
夜のひんやりとした空気に、そこが晒された。
天戒の顔が胸元から離れる。
「龍……」
俺はそれまで強く閉じていた目を開けて、天戒の顔を見上げた。
燭台の炎が揺らめいている。
ああ、なんだかもう何年も会っていなかったみたいだ。
嬉しくて嬉しくて俺は天戒の首を引き寄せた。
「龍……」
「ん……」
また唇を重ねる。
天戒の手が俺の両足の間に入った。
恥ずかしいぐらいになっているそこに天戒の指が絡みつく。
「んぅ―――っ」
唇を奪われたままだというのに、俺は喉の奥で思い切り声をあげた。
既に溢れているものを指に絡ませながら形をなぞられる。
それだけでそこはどくどくと脈を打って、すぐにでも達してしまいそうだった。
「ん、は……」
俺は顔を捩って唇を離した。
「……どうした?」
「天戒……俺、もう……」
泣きそうな声になっていた。
それ以上言葉を続けられなくて、首をふるふると振る。
「龍……?」
耳たぶに唇をつけて囁かれる。
本当に泣きそうになる。
鼻の奥がつんと痛む。
「天戒……てんか……」
「龍……」
俺はもう我慢出来なくて、天戒の首に腕を巻きつけ子供のように強請った。
「…手じゃ……嫌だ…………」
「……手では嫌なのか……なら、何ならばいい……?」
「……天戒が、いい……天戒に……」
「俺に……?」
「……いれ、て……入れて…ほし………」
天戒がふっと笑ったようだった。
身体が離れる。
腰を掴まれ、裏返された。
「あっ……」
尻を突き出す、恥ずかしい格好にさせられる。
いつもなら絶対にしないような格好だ。
でもそのときの俺はもう余計なことは何も考えられなかった。
とにかく天戒が欲しくて仕方なかったんだ。
俺は畳に額をつけて、ひたすら天戒を待った。
帯を解く音。
それから布が畳の上を掠める音。
「あっ」
天戒の掌が俺の双丘に置かれた。
そして、ぐいと肉を開かれる。
ぬるりとした先端があてがわれる感触。
「……龍」
「んっ……!」
息を詰めると同時に、天戒が中に入り込んできた。
「あぁっ―――……!」
一番待ち望んでいた感覚だった。
天戒はゆっくりと俺の中を進んでいく。
繋がった場所と身体の中心がじんじんと熱く、痺れているようだ。
「ん…んぁ……」
気持ち良さに堪らず、畳に頬を擦り付ける。
高く腰をあげたまま天戒を受け入れる。
「龍……」
やがて最奥まで達すると、お互いの肌がぴたりと密着した。
天戒はそのまま俺の背中に覆い被さってくる。
汗ばんだ肌が重なる。
「龍……動くぞ」
天戒はそう言うと片手を俺の胸へ、もう片手を俺自身に伸ばしながら、腰を揺らし始めた。
「は、ぅあっ! ああっ……!!」
感じる場所を全て同時に刺激されて、俺はつい大きな声を上げてしまった。
けれど天戒はそれを嗜めるわけでもなく、かと言って攻め立てるのを躊躇うこともしなかった。
寧ろ動きは激しさを増した。
「あぁっ、んぁ―――っ」
俺は畳に爪を立て、快楽に酔いしれた。
天戒の動きに合わせて、畳を擦る乾いた音と繋がった場所の湿った音が混じり合って響く。
がくがくと前後に揺さぶられながら、頭の中が真っ白になっていく。
「天戒……天戒……っ!」
知らぬ間に涙が頬を伝っていた。
まるで助けを求めるみたいに畳を引っかく。
天戒は後ろから俺を激しく突き上げる。
息苦しいほどに満たされて、なにがなんだか分からなくなる。
俺は自分で自分の中心に手を伸ばした。
糸を引いて溢れたものが掌を濡らす。
俺はそこを天戒の手ごと握り締めて、ぐちゃぐちゃに揉みしだいた。
「天戒……もっと……!」
「くっ……」
天戒は両手を俺の腰に移動させ、身体を起こした。
突き上げは尚、激しさを増す。
もう少し。
もう少しで。
「くっ……龍………もう……」
「ん……はぁっ…! もう、少し……」
「……っ……駄目だ…龍……すまん……っ…!」
「あっ……!」
天戒がぶるりと大きく弾みながら、俺の中を一際深く貫いた。
天戒が放った―――。
そう感じると同時に、俺自身からも精が迸る。
動きを止めない手の中から、何度も白い蜜が吐き出され畳に飛び散った。
俺達は互いに腰を揺らし、肌を擦りつけあいながら、身体の中が空っぽになるまで欲望を吐き出した。

散らかったままの部屋で、俺達は暫く呆然と寝転がっていた。
顔だけを横に向けると、すぐ傍に天戒の横顔がある。
俺の視線に気づいて、天戒もこちらを向いた。
「……なんで……」
ぽろりと言葉が零れた。
結局のところ、この半月はなんだったのだろう。
天戒はどう思って過ごしていたのだろう。
何も分かっていなかった。
天戒はごろりと寝返りをうつと、俺に顔を近づけてきた。
「……俺のことを好きか?」
「え……」
俺は驚いてしまった。
何故天戒がそんなことを聞いてくるのだろう。
答えられずにいると、天戒は困ったような顔をしながら俺に手を伸ばしてきた。
汗で額に貼りついた前髪を、そっと掻き分けてくれる。
「あの後、ふと気づいたのだ。いつも俺の方から押しかけてばかりいたであろう?  だから、もしや本音はあまり乗り気ではなかったのではないかと……」
「ええっ」
「いや、そんなはずはないだろうとは思いつつ、つい悪い方に考えてしまったのだ。 そうなると最早どうすることも出来なくてな」
天戒は苦笑する。
俺も寝返りを打って、天戒の胸に額を押しつけた。
背中に手が回される。
「……ごめん」
「お前が謝ることではない」
要するに俺達は同じように意地を張り合って、同じように悪い方へと考えて、 同じようににっちもさっちもいかなくなっていたということか。
似た者同士もここまでくると、まったく笑える話じゃないか。
「……俺こそ、お前に嫌われたかと思った」
「なっ。何故、俺が龍を」
「だってさぁ」
「そもそも俺は、いつになったらお前が来てくれるのかと待っていたのだぞ」
「そんなもん、お互い様だろう。半月も俺を放っておいたくせに」
「む……」
「だいたい天戒がこんなに強情張りだとは思ってもみなかったよ」
「……俺は強情張り、なのか」
「そうだよ」
「そうか……初めて言われたな」
「そうなのか?」
「ああ。だが、それはお前も……ではないのか、龍?」
「……ん? ……まぁ、そうか」
俺達は顔を見合わせて、くすくすと笑いあった。
天戒の知らない天戒の本性、俺の知らない俺の本性。
そんなものがあるからこそ、人は面白くて厄介なのだろう。

- end -

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