このまま手をつないで


いつものように、冷たい指先が僕の頬に触れる。
少しだけ躊躇うみたいに、そっと。
それからゆっくりと掌を押し当てて、僕が目を閉じるのを待つ。
枕もとのランプの灯りで、閉じた瞳の中もオレンジ色に染まっている。
それが翳って闇に包まれたら、シーナのキスが降りてくる合図だった。

柔らかく、暖かい唇が僕の唇に重なる。
最初は啄ばむように、それから熱っぽく。
差し込まれるものに唇を僅かに開いて応えると、シーナは初めて僕の身体に重みを掛けた。
キスしてる間、シーナはずっと僕の髪に指を通している。
何度も何度も、こめかみから首筋へと往復する指先。
シーナのことは好きでも嫌いでもないけど、彼の細くて長い指だけは好きだった。

とても不思議なんだ。
君は本当に我侭で強引で自分勝手な奴だと思う。
目を閉じるまではキスしないとか、僕が眠るまでは眠らないとか……僕にしてみれば何の意味もないような事に君は拘って、いつも僕を振り回す。
それなのに、どうして僕に触れる時だけはそんな風なの?
まるで―――、まるで慈しまれているような気がしてしまう。

「……何が怖いの?」
シーナを見上げて、僕は尋ねた。
彼は一瞬驚いたような顔をして、それからちょっとだけ瞼を伏せる。
そしてそのままゆっくりと僕の首筋に顔を埋めると、しばらく動かなかった。
部屋の向こう側の壁に、重なり合う僕達のシルエットが映っている。
ランプの炎が揺れるのと一緒に、それがゆらゆらと揺れ動いているのを僕はただぼんやりと見つめていた。
「……俺、お前に悪いことしてる?」
耳元で、掠れた声が呟く。
「……何?」
意味が分からなくて聞き返した。
悪いことって何?
僕を抱くこと?
「……意味が分からないんだけど」
「……俺もよく分からない」
僕は溜息をついた。
本人に分からないことが僕に分かるはずもない。
「お前のこと……壊しちゃうかな?」
シーナはさっきよりもずっと小さな声でそう言って、僕の肩を強く抱いた。
思い上がりだ、と思った。
僕は誰にも壊されたりしない、ましてや君になんて。
それに、僕は―――。
「……あんたらしくないね」
僕はシーナの重みが苦しくて、身体を捩った。
息苦しいよ、そんな考え方。
そんな問いに真正面から向き合えるほど僕は大人じゃないし、そうさせるほどの切り札を君は持っていない。
だから今はまだ、気づかないフリをしているほうがいい。
「……ごめん」
シーナは起き上がり、僕の横に座った。
「……しないの?」
「ん? うん……」
「あっ、そ。じゃあ、寝るよ」
毛布を被り、彼に背中を向ける。
シーナもランプの灯りを消し、隣りに潜り込んだ。
「なぁ……手、繋いでもいいか?」
僕は肩越しに少しだけシーナを振り返った。
暗闇で、顔ははっきりと見えない。
早く寝たくて面倒臭かったから、「……勝手にすれば?」とだけ答えた。
毛布の中でシーナの指が、僕の手を探り当てて絡まる。
「ルックの手……ちっちゃいなぁ……」
余計なお世話だ。
でも―――。
こんな風に誰かと手を繋いだ記憶が、僕にはなかった。
シーナは「へへっ」と笑って、僕の手をきゅっと握り締めた。
「こうして寝たら、同じ夢見られるかもしれないな?」
「イヤだね、そんなの」
「……ちぇ」
シーナの指はやっぱり冷たくて。
それなのに解こうとしても、何故か解けなかった。

たまにはこんなのもいいかもね。

まどろみの中、僕はぼんやりとそう思った。

- end -

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