forget-me-not


自覚は無いのだろうか。
ベッドの中でルックを待ちながら、シーナはふと思った。
背丈はあまりないが、すらりと伸びた手足はとてもバランスが取れている。
色の白さや線の細さなど、確かに男っぽさには欠けるけれど頼り甲斐が無いわけではない。
寧ろこの軍の中で、「敵に回したくない男」としては一、二を争うだろう。
それになんと言っても顔がいいじゃないか。
カミューあたりを見習って、笑顔のひとつも振り撒いてみたらいいのに。
彼がその気になりさえすれば、女の子なんてよりどりみどりに違いない。
問題は彼がまったく「その気」にならない、ということだけなのだ。
昼間、おおかた近くの街から遊びに来たのだろう、石板の前で女の子二、三人のグループがルックに話しかけていた。
しかしルックはいつものごとく無愛想で対応したらしく、彼女達は一様にムッとした顔をして去っていった。
階段の上からそれを見物していたシーナが降りていくと、「僕はここの受付でも案内係でもない」と言ってルックはぷりぷり怒っていた。
分かってない。
彼女達はただ単に、ルックに話しかける口実が欲しかっただけだ。
まったくもって勿体無い話だと思う。

服を脱ぎ終えたルックがベッドに乗ってくるのを、シーナは腕を伸ばして受け止める。
こんな風に自分から来てくれるまでになったんだよなぁ、と少し感慨深くなった。
以前はこっちを見るなだの、灯りを消せだのと煩かったのに。
「……なに?」
無意識に笑っていたシーナを見て、ルックが怪訝そうに言う。
「いや、別に」
シーナはそのままルックの身体を抱き締めて、額にキスをした。
「ルックももう少し愛想がよくなれば、女の子にもてるんだろうなぁと思っただけ」
「はぁ?」
ルックはあからさまに不機嫌な声を出して、シーナの胸を押し返す。
「なに、それ」
「俺ばっかり悪いなと思って」
男なのに男の自分に組み敷かれてばかりなのは、そりゃあ面白くないだろう。
素直に抱かれてくれるまで時間の掛かった理由が、今更ながら分かった気がした。
「そう思うならやめれば」
「それは出来ないんだな」
横になって向かい合ったまま、シーナはルックの胸の尖りを弄る。
指先で弾くようにすると、そこはすぐに硬くなった。
身体をずらし、顔を近づけて吸いつく。
「んっ……」
唇で挟み込み、尖らせた舌で舐める。
頭の上から聞こえてくるルックの吐息が、次第に潤みを帯びていくのが分かった。
もう片方も摘み上げる。
重なっている両脚の間に膝を割り込ませると、勃ちあがりかけているルック自身が、シーナの太腿につんと触れた。
「……考えたことないの?」
「…え…っ……?」
虚ろな返事。
シーナはルックの屹立に指を絡める。
「ん、ぁっ…」
「女の子としたいなぁ、とか。もてたいなぁ、とか」
「……」
緩く上下に擦られて、ルックの息が荒くなっていく。
シーナの肩を掴んでいる指先に力が入っていく。
「……君は……そんなことばっかり……考えて、るんだね……」
ともすれば喘ぎそうになるのを堪えながら、途切れ途切れにルックは言った。
「んー……」
シーナは手を離すと、今度はルックの双丘を抱え込んだ。
わざと太腿を押しつけて前を刺激しながら、後ろの谷間に指を潜り込ませる。
「んぅ…っ……」
ルックは肩を竦めるようにしてシーナの腕の中で身を縮めた。
「そんなことばっかり、ってわけでもないけど」
「嘘だ……」
せつなさに眉を寄せた顔で、ルックがシーナを見上げる。
その目つきにシーナの下肢が、ずんと疼いた。
半開きの唇を唇で塞ぐ。
「っ、んっ……」
後ろに射し込まれた指の動きに合わせて、喉の奥から声が漏れる。
苦しさに開かれた唇の中から舌を絡め取りながら、指を増やしてやった。
屹立の先から溢れた雫が、シーナの太腿を濡らす。
「……他人から好かれることが、そんなに大事?」
唇を離した途端、ルックが言った。
「もてなくて結構。嫌われようと憎まれようと、どうでもいいよ……」
「……」
返答に窮した。
ルックにとっては多分、他人から必要以上に好かれないほうが楽なのだろう。
でもそれはある意味、彼の持つ唯一にして致命的な弱さなのかもしれないとも思った。
「俺は嫌われるよりは好かれてたいけど」
身体をぴたりと密着させて、互いの欲望をすり寄せる。
ルックの足が、シーナの足に絡みついた。
指で中を探りながら、ちょうど傍にあった耳たぶを甘噛みする。
「っ…ふ……ぅ…」
腕の中でぴくぴくと身体を震わせている姿を見ていると、ルックは自分のものなのだと思えて気分が良かった。
シーナは彼が確実に感じる場所を知っていながら、あくまでも曖昧に触れて焦らす。
「あっ……や…も……」
ルックは頬をうっすらと紅くして、とうとう泣きそうな声を出す。
淫らに喘ぐよりも、その少し堪え気味の態度のほうが、余程シーナを煽っていることにルックは気づいていない。
おまけに無意識なのだろうが、腰が揺れ始めている。
「……挿れてほしい?」
尋ねると、目も唇もぎゅっと閉じたままで小さく頷く。
珍しく罪悪感を感じた自分に、シーナは苦笑した。
それでも指を抜いて身体を入れ替えると、ルックの上に圧し掛かる。
細い手首をシーツに縫い止めて、くちづけた。
「ぅ……ん………」
欲しいのはキスじゃないと言わんばかりに、足を絡めてシーナの身体を引き寄せる。
互いの身体に挟まれた屹立は、充分すぎるほどに熱く硬くなっていた。
「……分かったって」
笑いながら身体を起こし、ルックの両脚を抱えあげる。
その瞬間の恥ずかしさに、ルックは目元を染めた顔を横に背けた。
「……挿れるよ」
シーナが体重を掛けると、充分な硬さを持ったそれは手を添えずとも先を沈めていく。
「あぁっ……」
ルックが顎を上げて、シーナの腕を掴んだ。
反り返った喉元から薄い胸にかけて、綺麗な放物線が描かれる。
シーナは少し押し進んでは少し戻るのを繰り返しながら、ルックの中をゆっくりと満たしていった。
「あっ…あ……は……」
ルックは息も絶え絶えになりながら、シーナが辿り着くのを待つ。
与えられる摩擦はまだもどかしい。
爪先が行き場所を求めて蠢く。
「……っ…ん……」
中の熱さにシーナの息も弾んでくる。
緩慢だった動きが、勝手に強さを増していくのが分かった。
「今日はいつもより優しくしよう」と、ついさっきまで思っていたけれど、自信が無くなってきた。
「ん……シー…ナ……っ…」
名前を呼ばれるのには弱い。
漸く肌が触れ合うところまで辿り着くと、シーナは待ちきれないように腰を使い始めた。
「あっ、や…っ……!」
急に激しくされて、ルックの身体が大きく波打つ。
シーナは抱えていたルックの足を更に広げて、より奥深くを突き上げた。
「やッ、あ、やだっ、シーナ……っ…!!」
「ごめ…っ……」
腕を掴むルックの指が肌に食い込む。
それでもシーナはベッドがぎしぎしと音を立てるほどに激しくルックを貫いた。
思いやる余裕もなく貪って、程無くしてその中に放った。
ルックも最後は声を出すことすら出来なかったらしく、シーナが気づいたときにはもう達してしまっていた。
胸の辺りにまで飛び散った精と、放心したようなルックの顔が酷く卑猥に見えて、 シーナはすぐに自分の欲望が甦るのを感じた。

結局、二回目も自制が利かず手荒く抱いてしまい、これにはさすがのシーナも反省せざるを得なかった。
「ごめん……」
さっきからルックは背中を向けたままだ。
何度謝ってもこちらを向いてはくれない。
もう一度謝ろうとしたとき、ルックがぽつりと呟いた。
「……忘れられるのは、ちょっと嫌かもね」
一瞬なんのことだか分からずに、シーナはぽかんとする。
「嫌われても、憎まれても、忘れられるよりはましだよ」
ああ、さっきの話のことかと、そこで漸く分かった。
乱暴に抱いたことを怒っていたわけじゃないと知って、少しほっとする。
シーナは特に返事もせず、ただルックの細い髪に指を通した。
ルックは何を恐れているのだろう。
それこそ余計な心配だと分からないのだろうか。
この肌も、髪も、唇も、忘れられるはずなんてないのに。
そして何よりもこの愛しいと想う気持ちを忘れる方法があるのなら、教えてもらいたいぐらいだとシーナは思った。

- end -

2003.04.19


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