Closed
一瞬、自分の身に何が起こったのかよく分からなかった。
自室を出ていつものようにロビーに向かおうとしたところ、エレベーターはちょうど下に降りていったところだった。
待つのは好きじゃない。
それに上るよりは下りるほうがまだ楽だ。
ルックは廊下をいつもとは反対の方向に進んで、そのまま角を曲がり階段に向かうつもりだったのだ。
忙しない駆け足の足音が背後から近づいてきたと思うと、いきなり後ろに腕を引っ張られた。
振り返って狼藉の主を確認する間も無く、通り過ぎようとしていた一番近くの部屋に無理やり連れ込まれる。
扉は背中でバタンと閉まり、そのまま誰かに強く抱きすくめられた。
「何すっ……!」
「しっ! 黙って!」
相手を突き放そうとした腕は抱き締められてしまったことで伸ばすことすら出来なくなり、
問い詰めようとした口は掌で塞がれてしまった。
けれどその声で相手が誰かすぐに分かったので、ルックは少しほっとしていた。
とりあえず腕の中で大人しくしていると、部屋の前の廊下を軽い足音が駆け抜けていくのが聞こえた。
「……行ったかな」
足音はやがて消え、静寂だけが残る。
あの靴音から想像するに、恐らく女の子のものだろう。
それだけで充分すぎるほど事情は飲み込める。
ルックは強引に顔を逸らし口を覆っていた掌から逃れると、目の前の相手を上目遣いに睨みつけた。
「また何かやったの? シーナ」
ルックの言葉にシーナはわざとらしく驚いた顔をしてみせた。
「また、ってそんな人聞きの悪い。俺が何をしたと?」
「知らないよ、そんなこと。自分の胸に手を当てて考えてみるんだね」
ルックはシーナの腕から逃れようと身体を捩ったが、その力は思いのほか強く、なかなか抜け出せない。
シーナがふふ、と笑った。
「……離してよ」
「どうせなら自分の胸じゃなくて、ルックの胸に手を当てたいなぁ」
「馬鹿言ってんじゃないよ。だいたいなんで僕まで巻き添え食らって隠れなきゃならないのさ。何処だよ、ここ」
改めて部屋の中を見回してみると、どうも普通の部屋に比べてかなり狭い。
中途半端に作られたため用途に困ったのか、どうやら物置に使われているようだった。
二人の両脇には大小大きさの様々な木箱が所狭しと積み上げられていて、
床は漸く人が一人通れるぐらいの幅しか残されていない。
木箱に書き殴られた文字を見てみると、使えなくなった鎧やら、布団やカーテンの予備、
じゃがいも、なんて書かれているものまである。
部屋の奥にある明り取り用の嵌め殺しの窓だけが唯一の光源になっていて、
昼間だというのに中はかなり薄暗い。
おまけに埃っぽくて、ルックは顔を顰めた。
「もう行くから、離してよ」
「あ、しっ」
シーナが唇に人差し指を当てて、再び扉に耳をそばだてる。
ルックもつられて耳を澄ませると、聞き覚えのある何人かの女の子の声がした。
一番大きい声で話しているのは多分ニナだ。
あとははっきりとは分からないが、廊下で立ち話が始まったらしいことだけは確かだった。
なんというタイミングの悪さ。
「今、出て行くと怪しまれるかもよ?」
自分で言ったことに愉快そうに笑って、シーナはルックを壁のように積まれた木箱の山に押し付ける。
悔しいけれどその予想にはルックも同意だった。
グリンヒル潜入メンバーだったルックは、彼女の性格をよく知っている。
今二人で揃って出ていけば、嬉々として興味を持たれてしまうだろう。
ルックが大人しくなってしまったことに気を良くしたのか、
シーナはぴったりと身体を押し付けて耳元でくすくすと笑い続けた。
「せっかく二人になれたことだし、イイことでもして時間潰そうか?」
「冗談。そんなことがしたいなら、さっきの女から逃げなければ良かっただろ」
「ん? あぁ」
まるで今気づいたみたいにシーナは曖昧な返事をする。
こういうところがシーナの一番分からないところだ。
「なんでもいいから、離せってば」
「い、や、だ」
言いながら、シーナの手が背中から双丘へと移動する。
薄い肉をやわやわと揉みしだきながら、両足の間に膝を割り込ませてきた。
「……離せよ」
「だから、いやだってば」
軽くあしらって、シーナはルックの耳に歯を立てる。
柔らかな耳たぶを舌先で弄ぶと、ルックがくすぐったそうに首を竦めた。
「……ここ、弱かったっけ?」
「違うっ……」
シーナが喋るたびに触れる唇の動きと、吐きかけられる熱い息からルックは逃げようとする。
狭いこの場所のせいか、やけに息苦しい。
廊下の話し声はまだ続いている。
シーナの手がいやらしく、双丘から腰の辺りを撫でる。
「そろそろ、したくなってきたでしょ?」
「まさ、か」
「ほんと?」
「……ほんと」
「ふぅん」
途端、後ろの丸みに添えられた手が急に力を込めて持ち上げられた。
「ん、あっ」
下肢を押し付けられた勢いで、思わず喉の奥から声が漏れる。
身体の奥がじんと熱くなる。
シーナはルックの法衣をたくし上げると、シャツ越しの胸に掌を当てた。
少し速い鼓動が伝わってくる。
「……なんか、ドキドキしてるみたいだよ?」
「嘘だっ……」
「嘘じゃないって」
そのまま突起を探して指が這い回る。
ようやく少し硬くなったそれが見つかると、きゅっと摘み上げられた。
「やめ……っ」
言われても、シーナは指先で挟んでは捻るのを繰り返す。
そのたびにルックの身体はぴくぴくと跳ねた。
「や、……やぁ……は……」
「声出しちゃダメ」
諌められてルックは唇を噛む。
やがてシーナの手が降りて、両足の間に滑り込んだ。
「ん……」
内股を何度か撫で上げて、それから中心をなぞる。
半ば立ち上がったそこはシーナの手の中でどんどん形を変えていった。
ルックはシーナの肩先に顔を押し付け、その刺激に耐える。
息苦しい。
この密閉された空間で、ここまで身体を密着させていると息苦しくて仕方が無い。
乱れた呼吸を隠すことも出来ずに喘ぐルックを見て、シーナは逆に嬉しそうだった。
「……どう? する?」
布越しにも分かる、湿り気を帯びた先端にくりくりと指を擦りつけながらシーナが尋ねる。
意地の悪い質問をしたつもりだったが、ルックはそこまで溺れてはいなかった。
潤んだ目でシーナを見上げながらも、唇の端を吊りあげて笑う。
「しなかったら、あんたはどうするのさ?」
欲望を主張し始めたシーナ自身がさっきから当たっていた。
シーナはお道化るように肩を竦めて、それからルックにくちづけた。
剥ぎ取った衣服が足元に溜まっているのを邪魔そうに蹴散らして、シーナがルックの腰を抱き寄せる。
唾液で濡らした指を後孔に差し込むと、ルックは身を縮ませた。
「んっ……あ……」
胸に縋るルックを愛しそうに見下ろしながら、シーナは指を増やしていく。
少し乱暴に中を掻き混ぜてやると、ルックが白い喉を見せた。
「やめ……あぁっ……」
「ん? 気持ちいいの?」
ルックは必死で首を振るが、シーナは取り合わない。
狭苦しい空間とシーナの腕の中で、ルックは水面にあがってくる魚のように空気を求めて喘いだ。
滲んだ視界を、明り取りの窓から差し込む光だけが細く照らしている。
「もう、平気?」
ルックが頷くと、シーナはルックに後ろを向くように促した。
ファスナーを下ろすと、双丘を割ってシーナは自分自身を突き立てる。
「……いくよ」
つぷ、と皮膚を広げながら、熱い楔が身体の中に打ち込まれていく。
「っ、あ―――っ……」
息を吐き出しながら、声にならない声で喘ぐ。
内壁を擦りながら貫かれると、頭の芯まで熱くなるようだ。
目の前すぐに迫った木箱に指をかけ、声を漏らさないようにその指に噛り付いた。
「ぅっ、ん、はぁ……っ」
やはり、酷く息苦しい。
どうしてこんなところでこんなことをしているのだろう。
シーナの吐き出す荒い息が肩越しに聞こえてくる。
早く解放されたい。
「……すげぇイイ……」
シーナは呟いてそのまま抜き差しを激しくする。
傷がつくほどに指を噛んでも、唇の隙間から微かな声が漏れてしまう。
ルックはいつのまにか自分から腰を揺らして、シーナに最奥を強請っていた。
「もう、イク……っ……」
シーナが殊更激しく突き上げたせいで、木箱ががたがたと音を立てた。
しまった、とルックが身体を緊張させた瞬間、
「くっ……!」
中に熱いものが注ぎ込まれる。
それを感じてルックがぶるりと身体を震わせた。
「―――っ」
戦慄く膝が崩れ落ち、床に飛び散る微かな水音が響いた。
いつのまにか廊下は静まり返っていた。
明り取りの窓からも、光はすっかり入ってこなくなってしまった。
うんと近づかなければ、互いの顔すらよく見えない。
「今度から、ここでしようか?」
相変わらずの小声で、シーナが囁く。
「いやだよ、こんな埃っぽいとこ。二度と来ない」
「ルック様はベッドがお好き、と……痛ぇッ!」
暗がりの中でも、ルックは正確にシーナの足を踏みつけていた。
「ここはいやだ―――息苦しいよ」
ただでさえシーナに抱かれるのは苦しいのだ。
誰かと触れ合ったり、余計な干渉をしあったりするのは大嫌いなはずなのに、
流されて乱れる自分を見せつけられるから。
未だ慣れない近すぎる距離に、胸が苦しくなる。
狭い部屋を出ると、ルックは大きく深呼吸をした。
- end -
2003.02.05
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