縺れてしまえばいいと思った。
絡み合う四肢が捻れ、歪み、軋んだ音を立てて。
解くことは出来ず、離れる為には互いの何処かを切り落とさなければならない。
そんな風になればいいと。
「あッ……京極………ッ…」
冷たく、汗ばんだ掌が私の皮膚の上を蔦のように這う。
それだけで私は身をくねらせ、喉を見せた。
指が胸の尖りを掠める。
「ぁ……っ……」
私は固い木の床の上で背中を反らし、強請るように胸を差し出した。
指先が円を描くようにそこを撫ぜ、転がす。
もっと。
もっと強くして。
血が流れるほどに。
「んぅっっ!!」
私の欲しているものを察して、京極堂が爪を立ててそこをきつく捻り引く。
「いた、い……っ」
「痛いのがいいんだろう?」
彼の言う通りだ。
私は痛みに飢えていた。
京極堂は片方をきつく捻ったまま私の上に覆い被さり、もう片方に吸い付く。
舌の柔らかな擽りの後、強く吸われる。
それから、カリと歯を立てた。
「いッ……!」
噛み千切られるのでは無いかという恐怖に、背中がぞくぞくと粟立つ。
ぴりぴりした痛みに、私は身体を震わせた。

京極堂に抱かれながら私がいつも思い浮かべるのは、雪絵のことでも千鶴子さんのことでもなかった。
私が想うのは、あの少女―――。
取り返しのつかない過ちを犯した、あの夏の日。

私は妻を抱くことが出来なくなった。
雪絵はとても綺麗で、清浄だから。
私なんかが抱いてしまったら、穢れてしまう。

噛み、吸い付かれたそこは既に痛みに麻痺し始めていた。
私の半ば勃ち上がったものが京極堂の腹の辺りに触れる。
彼はわざとそこを擦るように、身体を押しつけてきた。
「アッ、ん……」
彼がわやわやと私のものを掌で包み込む。
節くれだった指の形を直に感じて、そこは鈍く疼き出した。
京極堂は後退り、私の脚の間に顔を埋めた。
「あァぁぁ…っ………」
私は吐息とも喘ぎともつかない声を上げながら、両手で京極堂の髪を弄った。
何かを啜るような、耳を塞ぎたくなるような粘着質な音がする。
唇が微妙な圧力を加えながら私のものを上下するたび、それが容量を増していくのが分かった。
彼の唾液と、私の零した蜜が溢れ、下半身を濡らす。

私は抱くことよりも、抱かれることを望んでいた。
柔らかな肉を引き裂かれ、血を流したかった。
食い込む刺に、悲鳴を上げたかった。
京極堂は時折歯を立てながら、私のものを貪る。

「ハァッ、ハァッ……」
私の腰が浮き始めると、京極堂は顔を上げた。
私を見つめながら、どくどくと脈打つそれを強く握り締めている。
「京極堂……はや、く………っ」
暗闇の中、私は縋るように手を伸ばす。
すると京極堂が先端の溝に、爪を食いこませた。
「あぁっ!!!」
「……痛いかい?」
「痛いッ……」
答えると、更に深く刺す。
「いた……痛いッ!!」
そう言いながら、私は自分自身からとろとろと雫を溢れさせていることに気づいていた。
「足を開くんだ」
「あ……」
私は言われるが侭に自ら膝裏を抱えて、大きく両の足を開いた。
汚らしい。
なんて醜い姿だろう。
京極堂は片方で私の膝頭を押さえつけ、片方で彼自身に手を添えて、私の後ろに突き立てた。
「うあ、あぁぁぁああッ!!!」
解されていないそこが、鋭い痛みを伴いながら裂ける。
彼は自分の身体を押し進めながら、更に私の身体を引き寄せる。
きっと彼も痛いはずだ。
異物感、痛み、圧迫感。
喉は乾いているのに、涎が溢れ私の顎を伝ってゆく。
脳髄がぐらぐらと揺さ振られているようだ。
吐き気がして、目の前が滲む。

波打つ視界の中、君の顔を見上げる。
唇を僅かに開いて、荒い息を吐きながら僕を突き上げる君。
僕もこんな顔をして、あの少女を抱いたのだろうか。
あの少女もこんな風に、身を捩らせて泣いたのだろうか。

知りたかったんだ。
あの少女の痛みを。
あの少女の快楽を。

僕はそのために君を利用した。
君に抱いてほしいと、僕は頼んだ。
ごめんね。
こんな汚らわしい僕を抱かせたりして、ごめん。
本当に、ごめん。

痛みと同時に卑猥な快楽が、身体の奥底からぬるぬると這い上がってくる。
擦れる柔らかな皮膚は腫れてしまうだろう。
床の軋む音と、私の上げる嬌声が暗闇に響く。
「ンッ、あぁっ、あっ、はぁ……ッ!!!」
京極堂が私のものを激しく擦り上げる。
私は下腹に力を込めた。
弾ける。
「………ッ…!」
同時に、京極堂の顔が歪んだ。
びくんと腰の辺りが震え、彼も私の中に放ったのが解かった。

私の顔の両脇に手をついたまま、彼は私を見下ろしていた。
額にはうっすらと汗が滲んでいる。
大きく呼吸をするたびに、骨張った肩が上下していた。
そんな目で見ないでくれ。
私は彼から目線を外し、顎を引いて自分の腹の上を見た。
そこには私の放った白濁した液体が広がっている。
私はそれを指で掬った。
これが僕の醜さの証。
罪悪の証。
私はこれと同じものを、あの少女の中に注いだのだ。
京極堂は私の中から出てゆかないまま、私の汚れた手を取った。
「―――!!」
彼の口元に運ばれた手を、私は強引に引き戻した。
「な、何するんだ!」
「舐めたのさ。……悪いか」
京極堂は平然と言い捨てて、唇を舐めた。
信じられない。
これは私の吐き出した汚物だというのに。
「やめてくれ……汚い」
「……」
京極堂が私から離れる。
ずるり、と引き抜かれると同時に中から熱いものが内股に流れ出して、私はその不快さに顔を顰めた。
なんて気持ちが悪いのだろう。
胸の辺りがむかむかする。
私は横たわったまま京極堂に背中を向けた。
「……君は、解かってないんだ」
私は呟く。
「僕なんかを抱く君は、可哀想だ……」
「……」
背中で衣擦れの音がした。
「解かっていないのは君だ」
京極堂の低い声が、まるで耳の奥から聞こえてくるようだった。
「僕が気づいていないとでも思ってるのか」
「……!」
私は京極堂の言葉に身を硬くした。
彼は気づいていたというのか。
私が何を欲していたのかを。
私が彼に抱かれながら、何を想っていたのかを。
「……僕でなくてもいいのか」
私はその問いかけに驚き、慌てて起き上がった。
京極堂は私に背を向けていた。
それなのに私は、必死で首を左右に振っていた。
「ちがっ……違う……ッ」
私は声を振り絞り、京極堂の背中に取り縋った。
そうじゃない。
君でなくてもいいなんて、そんなはずがない。
私は彼の背に額を押し付け、顔を振り続けた。
「……充分だよ」
京極堂は言った。

何故、罵倒してくれない。
口汚く罵って、頬を張ってくれない。
僕ほど穢れた人間はいないというのに。
僕は醜くて、最低の人間だ。

それでも、もっと痛みが欲しい。
君の与えてくれる痛みが。
どうせ私は永遠に、この煉獄から抜け出せないのだから。

- end -

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