祝福
「伊織。起きてください、伊織」
今はもう聞き慣れた声と、身体を軽く揺さぶられる感覚に千家は目を覚ます。
京一郎と暮らしはじめてから深く眠れるようになった所為か、呪詛の影響が少ないときには寝起きもだいぶ良くなっていた。
しかしそれはあくまで以前に比べて多少はという程度であって、京一郎にとって千家を起こすことは一日の中で最も難儀な仕事だといってもいいらしい。
今朝も京一郎の声に苛立ちが混じりだす頃になって、漸く千家はうっすらと目を開けた。
そして視界の中に京一郎のぼやけた輪郭を捉えるなり手を伸ばして、その身体を自分の胸元に引き寄せる。
僅かに抵抗を示しながらもされるがままに飛び込んできて、何気なくしがみつてくる京一郎の仕草がいじらしかった。
「まったく……。いくら今日がお休みとはいえ、もう十時を過ぎていますよ。そろそろ起きてもいいんじゃありませんか?」
「起きている」
「そうではなくて、起き上がって着替えをして顔でも洗ったらどうですかという意味ですよ。分かっているくせに」
唇に柔らかな感触。
軽く触れるだけのくちづけを交わすと、京一郎は吐息の掛かる距離のままで言う。
「……まだ起きたくないんですか?」
「ああ」
喋るのが億劫で適当に答える。
どうせ千家がなんと言おうと、だいたいはここいらあたりで堪忍袋の緒が切れた京一郎に強引に布団を剥がされ、カーテンを開けられてしまうのが常なのだ。
だからこその返答だったのだが、何故か今日の京一郎の反応はいつもとは少し違っていた。
「……分かりました。仕方がありませんね」
溜息を吐きつつもあっさり引き下がると、伏せていた千家の胸から離れていく。
意外な展開に思わず眠気も忘れて、千家は目を見張ってしまった。
千家の態度に呆れるあまり、とうとう日課を放棄することに決めたのだろうか。
しかし寝台の傍らに立つ京一郎はとくに腹を立てている様子もなく、それどころか妙に遠慮がちでさえあった。
「それなら私は先に食事をしても構いませんか? 実を言うと朝から何も食べていなくて……」
「まだ食べていなかったのか?」
「ええ。貴方と一緒に、と思ったものですから。……そうだ! ここに食事を運ばせれば、貴方も一緒に食べてくださいますか?」
「……」
本当にいったいどうしたというのだろう。
いつもならば母親の如く口煩い京一郎が、今日はすっかり別人のようではないか。
その理由は分からなかったが、面倒をせずに済むのならば是非そうさせてもらいたい。
千家は京一郎の珍しい提案に乗ることにした。
「そうだな。だが、私は軽いものでいい」
「分かりました。では、少し待っていてくださいね」
京一郎はにっこり笑い、いそいそと部屋を出て行く。
(なんだ、あれは……)
何かあったのか、それともこれから何かを企んでいるのか。
ともかく暫し様子を見てみようと千家は思った。
その後、本当に寝室まで食事が運び込まれると、千家も漸く寝台を下りた。
京一郎は余程空腹だったのか、席に着くやいなやさっさと「いただきます」の挨拶を済ませて、テーブルに並べられたパンやスープに手をつける。
千家はといえばまだ怠さの抜けきらないまま、ガウンだけを羽織った姿で紅茶ばかりを飲んでいるのだった。
「……伊織。ちゃんと食べたほうがいいですよ」
そのことに目敏く気づいた京一郎が千家を嗜める。
しかしろくに着替えもせずに食事をとろうとしていることは咎めないあたり、矢張り違和感があった。
そのまま千家が京一郎の忠告を無視していると、いつもならば更なる小言を畳掛けてくるはずの京一郎がまたしても意外な行動に出る。
京一郎は千家の皿に乗っているパンを取り、それを千切ってバターを塗りつけた。
それからそのパンを千家の顔の前に差し出す。
「はい、どうぞ」
「……」
矢張り、今日の京一郎は何処かおかしい。
千家はじろりと京一郎を睨みつけたが、京一郎はそれを別の意味に取ったようだった。
「……パンはお嫌でしたか? では、スープのほうにしますか?」
パンを皿に戻し、今度はスプーンを手に取ろうとする。
千家はその手を掴んで止めさせた。
「おい、京一郎」
「はい?」
「お前、何を企んでいる?」
「……は?」
確かに普段から京一郎は千家の世話をあれやこれやと焼いている。
それも最近ではすっかり手馴れたもので、こちらから何も言わずとも千家の要求を察して動くほどだ。
しかし、今日の場合は違う。
世話を焼くというよりも、ただ只管に千家を甘やかそうとしているような。
至れり尽くせりされることに不満は無いが、京一郎らしからぬ態度を取られるのは気に入らなかった。
「京一郎。今、素直に白状すれば許してやる。いったい何があった?」
「貴方に許して頂きたいことなど、何もありませんが」
「では、これから何かするつもりか。私を謀ろうとはいい度胸だな」
「何もしませんよ。貴方の考え過ぎです」
どうやら後ろめたいことを誤魔化す為でも、千家を油断させる為でもないらしい。
それでも京一郎が何かを隠していることだけは間違い無いと千家は確信していた。
それなのに京一郎があくまで白を切り続ける気なら致し方ない。
こちらも強硬手段に出るだけである。
「……来い」
「えっ? ちょっ……伊織?!」
千家は掴んでいた手を強引に引いて京一郎を立たせると、そのまま引きずるようにして寝台へと戻る。
それからさっきまで千家が眠っていたその場所に京一郎を放り出し、自分もそこに乗り上げた。
慌てて逃げ出そうとする京一郎を素早く背中から抱き締め、しっかりと腕の中に捕らえる。
「伊織! 何をするんですか?!」
「煩い。どういうつもりかと聞いている。正直に答えろ、京一郎」
「どういうつもりって、だから」
「……京一郎」
「!!」
耳元で低く囁いてやれば、京一郎の身体がぶるりと震える。
やはり身体のほうがずっと素直らしいと、千家は小さく笑いを漏らした。
「私に隠し事とは感心せんな。さて、どうすれば口を割るのか……」
「やっ……ぁ……」
千家はクスクスと笑いながら、京一郎の耳の裏から首筋へと舌を這わせる。
それから白く柔らかな耳朶を吸い、飴玉でもしゃぶるように味わった。
「や、だ……伊織、やめ……」
ぴちゃぴちゃという音が直接耳の奥に響いて、京一郎は甘い疼きとくすぐったさに身を捩る。
やがて千家の手が着物の合わせ目に忍び込もうとしたところで、京一郎はとうとう降参した。
「わ、分かりましたから……! ちゃんと話しますから、少し腕を緩めてください……!」
「……」
せっかく興に乗ってきたところではあったが、今は話を聞くのが先だろう。
千家が少しだけ腕を緩めると、京一郎ははぁと溜息を吐いた。
「まったく、強引なんですから……」
「それで? どういうことか説明してもらおうか」
「分かってます。……今日が何日かご存知ですか?」
「今日? ……十一月の二十八日だな」
「そうですね。では、今日はいったい何の日だと思いますか?」
「……」
千家は考え込む。
何の日、とはどういう意味だ。
新嘗祭は終えたばかりだし、特に宮中行事は無かったはずで、だからこその休日でもある。
そもそもその質問と京一郎の不自然な言動との間に、いったいどんな関わりがあるというのか。
千家が全く何も思い当たらずに黙っていると、京一郎の二度目の溜息が漏れた。
「……そんなことだろうとは思っていましたけどね」
「なんだ。早く言え」
京一郎の呆れたような物言いが気に障って、千家も苛立ちを隠せなくなってくる。
そこまできて漸く京一郎は答えを告げた。
「今日は貴方の誕生日だと伺いましたが」
「……」
千家はまたしても黙り込んだ。
そう言われてみればそうだったかもしれない。
しかし、それがどうしたというのか。
不審の念が少しも解消されないことに不快感を露わにしながら、千家は冷たく言い放った。
「それで?」
「それで、って……」
「今日が私の誕生日であることと、お前の不自然な行動との間にどういう繋がりがあるのか説明が出来ていない」
「で、ですから……」
京一郎は俯く。
黒髪がはらりと揺れて、その白いうなじと耳朶がほんの僅か朱に染まっているのが千家には見えた。
「もっと早くに知っていれば贈り物でも準備しておいたものを、そんな時間も無くて……。
それならば、せめて今日ぐらいは貴方の我侭にとことん付き合って差し上げようと思ったんです。
……勿論! いつも貴方の我侭には散々付き合っているつもりですが……今日は、特に」
「……なるほどな」
それを聞いて千家は漸く納得がいった。
知ってしまえば、なんという馬鹿馬鹿しい理由。
あまりにも馬鹿馬鹿しくて、千家は肩を揺らして笑いだした。
「……何がおかしいのですか?」
京一郎は振り返り、千家を睨みつける。
それでも千家は笑うことを止めなかった。
どうしても笑わずにはいられなかった。
生まれてきて良かったなどと思ったことはない。
この世に生を受け、千家伊織という名を与えられはしたものの、この身が己のものであったことなど一度たりとも無かった。
幼い頃に家族が矢張り誕生日を祝ってくれたときでさえ、その場では礼を口にしてみせながらも心の内ではいつも冷めきっていたのだ。
それなのに、京一郎はこの日を千家にとっても特別なものだと認識しているらしい。
それが酷く健気に思えて、それ以上に滑稽だった。
「……これを笑わずしてどうする。お前は私が生まれた日を祝おうと言うのだろう? いや、だが……そうだな。
我が大日本帝國の臣民としては、天司様の盾となるべく生まれた私の存在は一応喜ばしいものであるのか」
「伊織……! 私は、そんなつもりで今日を祝おうと思ったわけではありません!」
「では、どういうつもりだ? 生憎だが私は己がこの世に生まれ落ちたことを呪いこそすれ、喜ばしいと感じたことなど一度も無い。
それでもお前は今日が目出度い日だと言うつもりか?」
「私は……」
京一郎が唇を噛む。
悔しいのか、悲しいのか、憤っているのか。
いずれにせよ、彼が何故そんな表情を見せるのか千家には理解出来ない。
やがて京一郎は千家のほうに身体を向けると、真っ直ぐに千家を見つめながら言った。
「それでも、私は今日を祝います。貴方がなんと仰ろうとも、私の半身である千家伊織が生まれた、この日を」
「……」
一語一語、噛み締めるように紡がれる言葉。
強い意志の光を湛えた漆黒の瞳が、ただじっと千家に向けられている。
初めて出会った頃に比べれば、京一郎も随分と変わった。
何処までも純粋で、真っ直ぐで、頑なだった彼はもういない。
その手は既に血と呪いで赤く染まり、千家と共に背負いきれないほどの罪を背負っている。
けれど、その瞳の光の強さだけは少しも変わってはいなかった。
千家が求めて止まなかった、切ないほどに眩い光―――。
「……勝手にしろ」
そうして、結局は千家が折れた。
途端に京一郎はぱっと笑顔になって、得意げに身を乗り出してくる。
「ええ、勝手にしますとも。そういうわけで、私にして欲しいことはありませんか? 今日はどんな我侭でも聞いて差し上げますよ」
「……言ったな」
「……え?」
こうなったら京一郎の申し出通り、とことん楽しませてもらおうではないか。
千家の不敵な笑みに咄嗟に身の危険を感じたのか、京一郎は顔を引き攣らせる。
「あの、あくまで常識の範囲内でお願いしますね……?」
「安心しろ。お前に出来ないことは頼まない」
「そうですか。……いや、でも、出来ることではあっても、あまり突拍子もないことは……」
「誕生日というのは年に一度きりのものだからな。普段ならば決してしないようなことをして貰わなければ意味が無かろう」
「うっ……」
京一郎は自分の言いだしたことを早速後悔しているようだったが、もう遅かった。
千家は寝台の上をじりじりと後退りしはじめた京一郎の腕を掴むと、その身体を己の腕の中に再び抱き寄せる。
そして何を言われるのかと不安に身を硬くしている京一郎の髪にくちづけながら、囁いた。
「そう怯えるな。私を喜ばせてくれるのだろう?」
「そのつもりですが……あまり酷いことは嫌ですからね?」
「今までもお前に酷いことなどした覚えは無いが」
「ええっ?!」
「なんだ」
「いっ、いえ、なんでも。……ええと、何をすれば良いですか?」
「そうだな……。ひとまず自分で慰めるところでも見せて貰おうか」
「そっ……! そ、そ、そんなこと、出来るはずないがないでしょう!」
京一郎は瞬時に顔を真っ赤にして声を荒らげる。
しかし千家も引き下がるつもりは無かった。
肩を抱く手に更に力を込め、京一郎の顔を覗き込む。
「ふぅん……? 今日はどんな我侭でも聞いてくれるのではなかったのか? それとも、先程の言葉は嘘だったとでも?」
「それは……」
「……京一郎」
千家の指先が京一郎の唇をゆっくりとなぞる。
それから顎を辿り、滑らかな頬へ。
幾度も撫でられるうちにそれだけで京一郎は瞳を揺らし、次第に強張っていた身体の力も抜けていく。
「どうしてもひとりでは出来ぬと言うのなら、少しは手伝ってやっても構わない。……どうだ? 出来るな?」
「……」
京一郎は困り果てたように眉尻を下げて、けれどもう拒絶の言葉は口にしなかった。
千家は小さく笑い、早速京一郎の着ている物に手を掛ける。
袴を脱がせ、着物の帯を解いてやると前を肌蹴た。
「伊織……本気ですか……?」
「無論」
だらしなく露わになってしまった肌を隠そうと、京一郎が背中を丸める。
今更恥じることもないだろうに、可笑しな奴だと千家は笑った。
それでも無理に手を差し入れて、閉じた膝を開かせる。
下着を脱がせようとすると軽く抵抗はしたものの、これも己が招いた事態であるとすっかり諦めたのか、最後には自ら腰を浮かせて協力してきた。
そうして羽織っていた着物も剥いで一糸纏わぬ姿にしてしまうと、あろうことか千家は着物の帯で京一郎に目隠しをした。
「伊織?! どうして、こんな……!」
当然、京一郎は慌てふためく。
しかしそれを外そうとする京一郎の手は、千家にしっかりと握られてしまった。
「余計な物は見えぬほうがいい。恥ずかしさも軽減されるであろうし……なにより快楽に集中出来る」
「……っ」
わざと耳元近くで囁いてやる。
千家の声だけが聞こえるように。
千家の気配だけを感じるように。
「……さあ。京一郎」
「……」
まるで術にでもかけられたように、京一郎はそろそろと足を開く。
深く俯き、唇を噛みながらおずおずと己の下肢に手を伸ばした。
「……っ!」
自らの指先でありながら、まだ硬くなりきっていない中心に触れた途端、京一郎の身体がびくりと跳ねる。
しかし千家に押さえ込まれるように肩を抱かれている所為で、その先の行為から逃げ出すことも出来ない。
京一郎は改めて自らの物に指を絡めると、緩く握り始めた。
ぎこちなく手を動かし、上下に擦るものの、そう簡単には反応しそうにない。
仕方なく千家は京一郎の手に己の手を添え、片方の手は胸の尖りへと運んでやった。
「胸も弄ればいい。お前は此処が好きなはずだ」
「っ……」
図星を指されて、京一郎の肌がかあっと朱に染まる。
京一郎は千家に指先を操られるまま、胸の尖りを弄んだ。
指の腹で円を描くように撫でては摘むのを繰り返すうち、そこは赤く熟れてつんと立ち上がる。
同時に中心を扱く手にも力が入り始め、千家の助け無しにもそこは次第に頭をもたげていった。
やがて京一郎の息が少しずつ乱れてきて、唇が妖しく緩む。
「は……」
とうとう小さな吐息が漏れたのを聞き逃さず、千家が喉の奥で笑った。
それに気づいた京一郎は再び唇をきつく閉じる。
それでも両手は自ら快楽を追い始めているらしく、さきほどまでのおずおずとした態度は既に薄らいでいる。
添えられていた千家の手がいつの間にか離れていることに気づいているのかいないのか、腰までもがもじもじと揺れはじめているのを千家はただ面白そうに見つめていた。
視界を遮られたことで敏感さは増し、京一郎はその行為に没頭していく。
「は……ぁ………ん、っ…………」
屹立の先端に滲み出した蜜を塗り込めるようにして手を動かすと、堪えきれない喘ぎが零れる。
くちゅくちゅという粘着質な水音が更なる欲を煽っていた。
しかし次第にそれ以上の快楽が欲しくなってきたのか、京一郎はもどかしげに千家の名を呼ぶ。
「ん……いお、り……伊織……」
「どうした? いつ極めても良いのだぞ?」
「ん、ぅっ……」
姿は見えぬはずなのに、京一郎は顔を捻って千家のほうへと向く。
屹立を擦る手は止めぬまま、この身体をどうにかしてほしいとでも言いたげだ。
「前だけでいけぬのなら、後ろも弄れ。遠慮するな」
「やっ……」
京一郎の望みを察していながらわざと突き離すように言うと、京一郎はふるふると首を振る。
強情な態度に千家は苦笑して、それならばと足の間に手を差し入れて既にひくついている後孔に触れてやった。
「そら……本当は此処を弄りたいのだろう?」
「や……いや、だ……!」
「ふ……そう言いながら、お前の此処は随分と喜んでいるようだぞ。私の誕生日だというのに、お前が喜んでどうする?」
「ああっ……!」
千家は京一郎の後孔に指先を埋める。
ゆっくり出し入れしながら少しずつ奥を探っていくと、熱い内壁はびくびくと痙攣しながら千家の指を締め付けてきた。
京一郎は千家に縋るように身体を預け、屹立を擦る手を速めていく。
「あ……伊織……いお、り……!」
千家の指が望む場所に当たるよう、自ら腰を揺らしながら京一郎は嬌声を上げる。
胸と屹立と後ろを同時に刺激される快楽に、京一郎は我を失ったように身悶えていた。
「伊織……見てる……? 伊織……」
「ああ。見ているぞ、京一郎……」
「あっ……は、ぁ……伊織……」
心細げに、只管に千家を求める声。
その声に絆されて唇を重ねてやると、その瞬間に京一郎の身体は大きく強張った。
「んっ……ん、うぅっ……―――!!」
舌を吸うと同時に、京一郎の屹立はびくびくと脈打ちながら精を迸らせた。
千家の指を中に咥え込んだまま、幾度も白濁した精が飛び散る。
息を弾ませながら自らの手で果てた京一郎は、やがてぐったりとなって千家に寄り掛かった。
「……なかなか楽しませてもらったが、まだ休むには早いな。次は私の番だ」
「あ……」
漸く帯が外され、眩しさに京一郎は目を細める。
その視界はすぐに千家でいっぱいになり、京一郎は恍惚とした表情を浮かべた。
そんな京一郎を仰向かせ、シーツの上に倒す。
「京一郎……」
ガウンを脱いだ千家のそこは、京一郎が見せてくれた痴態のおかげですっかり熱く猛っていた。
既に解されている後孔に先端を宛がい、少しずつ腰を進めていくと京一郎の唇から甘い息が漏れる。
「あっ……あぁ……」
指とは違う圧倒的な質量と熱に、京一郎の胸が大きく上下する。
怯えと期待の相俟った表情が、千家の中に眠る無意識の感情を煽った。
京一郎が、欲しい。
既に手に入れているはずなのに、それでもまだ欲しいと願う。
魂も、肉体も、ひとつであると確信する瞬間がもっと欲しい。
千家はやがて京一郎の腰を掴み、根元までを一息に差し入れた。
「ああっ……!!!」
京一郎の背が大きくしなり、がくがくと身体が震える。
そのまま京一郎の身体を揺さぶりながら奥を突き上げれば、京一郎も千家の腕に縋りながら自ら腰を揺らした。
「伊織……伊織……!」
「京一郎……」
頬を紅潮させ、目尻に涙を溜めながら、京一郎は切なげに顔を振る。
千家の腰に足を絡め、もっと奥へと強請った。
その求めに応じて、千家は京一郎のより深くを貫く。
「あっ、はぁっ、あぁっ……伊織……!」
「っく……京、一郎……」
幾度も名を呼び合う。
伊織。
京一郎。
その中に全ての想いを込めて。
それ以上言わずとも、言えずとも、伝わることを知っているから。
何もかもが混じり合い、溶け合う瞬間を求めて二人は肌を重ねる。
「伊織……いいっ……また、いく……!」
「……何度でも、いけばいい」
「は、ぁっ……あぁ……!」
律動に合わせて、千家の長い髪が揺れる。
見下ろす京一郎の蕩けきった表情に、思わず頬が緩んだ。
もっと、もっと溺れればいい。
もっと。
「あっ……伊織……もう……ん、うぅっ―――……!」
「……っ!」
京一郎が果てるのを悟るやいなや、千家は京一郎の唇を己の唇で塞いだ。
嬌声も吐息も全てを千家に飲まれながら、京一郎の身体が大きく波打つ。
びくびくと腰が跳ね、二度目の精が腹のうえに飛び散る。
同時に千家の欲望もまた京一郎の最奥に放たれ、注ぎ込まれた。
続くくちづけは快感を深め、その余韻を引き延ばす。
永遠にこの時が続けばいい。
もう他には何もいらない。
そんなことを願ってしまうほどに。
「伊織……」
やがて唇が離れると、京一郎が千家の顔に手を伸ばす。
両手で頬を挟むようにして触れながら、掠れた声で言った。
「誕生日……おめでとうございます……」
汗ばんだ、赤い顔で。
暖かい手で。
京一郎は笑った。
生まれてきて良かったと思ったことなど一度もない。
それでも―――。
「……ああ。京一郎」
出会うべくして、ようやく出会えた存在。
京一郎が祝福してくれるのならば、これで良かったのかもしれない。
この日、千家は生まれて初めてそう思った。
- end -
2013.11.28
[ Back ]