Sweet Relation
日曜日の新宿は夜と言えども、うんざりするほど人が溢れていた。
特別面白いものがありそうにも思えない、空気も汚くて、矢鱈と派手で下品な看板の並んでいるこの街を、
壬生はずっと好きになれなかった。
龍麻と出会ってからその気持ちは少し変化したものの、やはり自ら好んで来ようとは思わない。
だから今日も、呼び出したのが如月でなければきっと断っていただろう。
指定された場所に着くと、そこには既に如月の姿があった。
壬生が小走りに駆け寄ると、如月が軽く手を挙げる。
「すみません、待ちましたか?」
「いや、ぜんぜん。急に呼び出して悪かったね」
「いえ」
ふと、互いの私服を見るのは久し振りかもしれないと思う。
特に如月の洋服姿は、壬生でさえもまだ見慣れなくて新鮮だった。
如月は濃いグレイのコートの襟元から、それよりも少し淡いトーンの色をしたマフラーを覗かせている。
以前、壬生があげた手編みの品だ。
―――してくれてるんだ。
心の中で呟いて、壬生は如月に笑みを向ける。
「ん? どうした?」
「いえ、なんでもありません」
如月は特に気にする様子も無く、じゃあ行こうか、と歩き始める。
壬生も黙ってそれに従った。
街はクリスマス商戦一色だ。
おまけに忘年会シーズンでもあるせいか、いつもに増して騒がしい。
ウィンドウを飾る色取り取りのイルミネーション。
あちこちから流れてきて、何の曲だかも解からなくなっているクリスマスソング。
それでも人々は笑顔を浮かべ、頬を紅くしながら歩いている。
「今日はなんだったんですか?」
周囲の喧騒に消されぬよう、壬生はいつもより如月に体を寄せて話しかけた。
「骨董品のオークションがあってね。試しに参加してみたんだ」
答える如月の声も、いつになく大きい。
中年の男が後ろから肩をぶつけながら、如月を追い越して行った。
「へぇ……え? でも、手ぶらじゃないですか」
「ん? ああ、買ったんじゃない。出品したんだよ」
「ああ、なるほど」
向かい側から歩いてきたカップルは、どんなに狭くとも二人並ぶことをやめようとはしない。
仕方なく壬生が避けて、如月の後ろに回る。
やり過ごしてから壬生は、その恋人同士を振り返った。
繋がれた二人の手。
人ごみでも、決してはぐれないように。
「だから夕飯でも食べていこう」
振り返って言う如月に、壬生は我に返る。
「え?」
「夕飯。奢るよ。結構な額で売れたんだ」
如月は笑いながら、胸元をぽんと叩いた。
「それにしても騒がしかったな……」
帰り道、如月が呆れたように言った。
あの後入った中華料理店の店内も、相当な賑わいだった。
テーブルに向かい合わせに座れば会話も余り出来ず、食事が済むと二人は早々に店を出てしまった。
そのまま如月の家に向かうことになり、静まり返った住宅街まで来て漸く落ち着いたところだった。
「せっかくゆっくり食事しようと思ったんだが……」
「仕方ないですよ。美味しかったし、満足してます」
「そうかい?」
「ええ。ご馳走様でした」
その言葉に嘘は無かった。
それでも壬生の気持ちがいまひとつ晴れないのは、喧騒に疲れたせいじゃない。
あの賑やかな街は、自分には眩しすぎるのだ。
光の中を、笑って歩くような―――。
「……紅葉」
突然、如月が壬生の手を取る。
繋がれた冷たい指先に、壬生は戸惑いながら如月の顔を見た。
「……如月さん?」
「誰も見ていないさ」
街灯に照らされた如月の横顔は笑っていた。
「……そうですよね」
壬生も微笑みながら、如月の手を握り返した。
暖かかったのは、繋がれた手ではなく。
あなたと心が繋がっていると分かったから。
だからきっと歩いていける。
それが例え、光の中でなくとも。
- end -
2001.12.23
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