小夜嵐


玄関の戸が音を立てるたび、如月は弾かれるようにそちらを振り返った。
そしてそれが勘違いだと分かると、ほうと短い溜息を吐きながら、壁に掛けてある時計を見上げる。
時刻は午後十時四十三分。
さっき確認したときが三十九分だったから、たった四分しか経っていないことになる。

三十分程前に受話器を置いてから、この行動を何度繰り返したことだろう。
炬燵の上に広げられた本をいくら読もうとしても、意識は玄関先へとばかり向かってしまう。
今、どの辺りだろうか。
何処から電話を掛けているのか、確認すれば良かった、と如月は後悔した。
しかしあの縋るような、熱を帯びた声を聞いた瞬間、冷静さを失ってしまっていたのだ。
―――あなたに、会いたい。
受話器の向こうから、喧騒混じりに聞こえた彼の声が、まだ耳の奥に残っている。
如月は目を閉じ、もう一度その声を思い起こそうとした。
「……!」
また戸が鳴る。
振り返ったものの、それはやはり風の仕業だったらしい。
今夜は風が強い。
吹き荒れるその音に混じって、秒針が確実に時を刻んでいた。

駅の改札を通り抜けると、壬生は漸く解放された気分になった。
この時間の電車内はアルコールと汗と埃の匂いが充満していて、ひどく息苦しかった。
強くて冷たい風が吹いてはいたが、それでも外の方がずっと心地良い。
それに、なによりもう少しであの人に会える。
壬生は逸る気持ちを抑えきれず、足早に如月の店へと向かった。

いつ頃からか、壬生にとって如月の傍が一番居心地のいい場所になっていた。
自分と同じように使命を抱え、けれど自分とは違って迷いの無いその姿に惹かれたのかもしれない。
穏やかで静かな水面のような彼の存在は、いつしか壬生の心の拠り所となっていった。
仕事を終えるたび襲われる、虚無感。
やがてその空白に彼の顔が浮かぶようになるまで、さほど時間は掛からなかった。
―――あなたに、会いたい。
気がつけば、電話でそう告げていた。
本当はいつだってそう思っていたけれど、言葉にしたことは一度もなかった。
会いたい。
あなたに会いたい。
その正直な気持ちを、如月がどう受け取ろうとも構わなかった。
とうに気づいていたのに、ただ認めることが出来なかった想いを口に出したとき、それが友情とは全く違う感情であることを、壬生は悟ったのだった。

またしても玄関の戸が鳴った。
幾度目か分からないその音に、如月は耳をそばだてる。
戸を叩くそれは規則的で、風の所為でないことは明らかだった。
如月は慌てるつもりもなく慌てて、玄関へと向かう。
鍵を外し、戸を開けると、強風に打たれながら立つ壬生の姿があった。
「早く、入って」
急いで中へと招き入れ、素早く戸を閉める。
ひょうという音を立てて、風は戸の向こうへと追いやられた。
「すみません、こんな時間に」
壬生は乱れた髪を直すこともせずに言う。
「気にすることはないさ。どうせ僕一人だからね」
柔らかく笑んでいる壬生の顔をまともに見ることが出来ず、如月は視線を逸らしながら答えた。
今日はどうかしている。
如月は気を取り直して壬生を座敷へ通すと、炬燵の傍にある座布団をすすめた。
「なにか食べるかい?」
「あ、大丈夫です」
「そうか。じゃあ、お茶でも淹れるよ」
如月は台所へと立つ。
お茶の用意をしている間、また耳の奥で彼の声が聞こえた。
―――あなたに、会いたい。
あんな風にはっきりと言われたのは初めてだった。
思い出すだけで、息が苦しくなる。
壬生はいったいどういうつもりであの言葉を言ったのか、無性に知りたかった。
正直なところ、如月は互いの距離を掴み兼ねていた。
自分の壬生に対する感情は、どう考えても友情とは違っていると思う。
顔を見れば傍に立ちたくなるし、傍にいれば触れたくなる。
会わない日が続けば会いたくなるし、声を聞きたくもなる。
今まで特定の誰かに、こんな気持ちになったことなど無い。
如月はそんな自分に驚くと同時に、後ろめたさをも覚えた。
使命に忠実であることだけを考えて生きてきた如月にとって、これは罪悪にも等しい感情だったからだ。
けれどいつしか壬生が特に用事も無いのに店にやってくるようになり、 二人きりで穏やかな時間を過ごすことが多くなるにつれて、 こんな風に想っているのは自分だけではないのではないかと感じるようになった。
空いた時間を二人で過ごすのではなく、会う為の時間を意図的に作るようになり、会えないときには電話で連絡を取り合う。
それが単なる友人同士の行為を超えたものであることぐらい、如月にも分かった。
そして、今日の電話。
―――あなたに、会いたい。
掠れた声でそう呟かれたとき、如月はすぐにも壬生を抱き締めたい衝動に駆られた。
たとえ壬生がそんなつもりで言ったのではなかったとしても、 いつかはこの想いを隠し通せなくなる日が来るだろう。
しかもそれは、そう遠くないはずだ。
寧ろ―――。
そこまで考えて、如月は頭を横に振った。
何を考えているんだ。
自分で自分を諌めて、如月はお盆を手に座敷へと戻った。

「いただきます」
壬生は湯気の立つ湯飲みを手に取ると、お茶を一口啜った。
如月はその様子を見守る。
「……ほっとしました」
意味をはかりかねた如月が黙っていると、壬生は独り言のように続けた。
「あなたの傍にいると、落ち着くんです。……一番、好きな場所ですから」
好き、という言葉に、如月の心臓が僅かに震える。
壬生とは反対に、如月はすっかり落ち着きを失くしていた。

そんな心情を隠しながら、他愛の無い会話をしばらく続けた。
そして一時間ほど経った頃だろうか、会話がふと途切れたとき、壬生が言った。
「今晩、泊まっていってもいいですか?」
「えっ」
壬生が如月の家に泊まるのは、初めてのことではない。
旧校舎の帰りや買い物のついで、時には麻雀をやる為に如月の家にやって来ては、 帰るのが面倒になってそのまま泊まっていくようなことが何度かあった。
しかしそれはいつも他の仲間達と一緒でのことだ。
壬生一人で泊まったことはない。
答えない如月に、壬生が不安そうな顔をする。
「……駄目、ですか」
「あ、ああ、もちろん構わないよ」
良かった、と壬生は微笑んだが、如月は明らかに動揺していた。
けれどこの時間を考えれば、そうする以外無いのは予想出来たことだ。
それに、断る理由もない。
「……なら、風呂にでも入ってきたらどうだい? その間に、布団を敷いておくから」
今は少し頭を冷やすことが必要だ。
そう思ったが故の如月の提案を、壬生は快く受け入れた。

―――どういうつもりなのだろうか。
寝床の用意をしながら、如月はずっと考えていた。
やはり壬生は自分と同じ感情を抱いているように思える。
しかし、相手は同性だ。
もしも思い違いだったなら、 友情どころか嫌悪感すら持たれるかもしれない。
それだけは避けたかった。
けれど単なる友人に向かって、あんなことを言うだろうか。
いや、しかし。
「……如月さん」
思い耽っているところに声を掛けられ、ぎくりとする。
振り返るといつのまにかそこに、浴衣姿の壬生が立っていた。
「あ……すまないね。うちにはそんなものしかなくて」
「いえ、ありがとうございます。それよりも、あの」
壬生の視線は、如月が敷いている布団の方を向いていた。
布団は一組。
それに気づいた如月が、慌てて言い訳する。
「いや、その、客用の布団なんてないものでね。僕が使ってるやつで悪いんだが、シーツはちゃんと変えたから」
如月は急いで立ち上がり、壬生の脇をすり抜けた。
気まずくて気まずくて、早くここから立ち去りたかった。
「じゃあ、ゆっくり休んでくれ。僕は向こうで寝ているから、何かあったら」
「……如月さん」
襖を閉めかけていた如月の手が止まり、緊張が走る。
胸の内に湧き上がる、期待と不安。
壬生は間を置くことをせず、低い声で如月に尋ねた。
「如月さんは……僕のこと、どう思っていますか?」
「―――!」
その問いに、如月の心臓が大きく鳴った。
壬生はどこか悲しそうな眼差しで、如月をじっと見つめている。
視線が、痛い。
「……どうして、そんなことを」
そうじゃない。
本当に言いたかったのは、そんなことじゃない。
けれどそれ以上、声が出なかった。
沈黙だけが流れる。

やがて壬生はふっと目を伏せると、僅かに頭を下げた。
「……すみません。今のは聞かなかったことにしてください」
如月の目の前で、ゆっくりと襖が閉まる。
続いて、電気を消す音。
如月はただ呆然となりながら、その場に立ち尽くしていた。
どうして聞き返したりしてしまったのだろう。
素直に答えれば良かったのだ。
僕は君が好きだと。
友人としてではなく、好意を持っていると。
怖かったのだ。
初めて仲間を得た、あのときのように。
誰かと深く関わることで、その人を傷つけ、自分が傷つくことが怖かった。
けれど今自分は、答えないことで壬生を傷つけてしまった。
もう、迷うことなどないはずだ。
少なくともきっと、今の壬生は迷ってはいない。
壬生に誤解を与えたのなら、すぐにでもその誤解を解かなければいけない。
そうしなければいつまでも、前に進めない。
―――今ならまだ、間に合う。
如月は覚悟を決め、閉まったばかりの襖をそっと開けた。

後ろ手で襖を閉めると、部屋は漆黒の闇に包まれた。
「……壬生」
呼びかけてみるが、応えは無い。
如月は壬生が横たわる布団の傍にいくと、膝をついた。
「さっきの質問……今から答えてもいいだろうか」
壬生はこちらに背を向けたまま、身動きひとつしない。
けれど彼が必死に耳を傾けているのは分かっていたから、如月はそのまま続けることにした。
深く息を吸い込むと、躊躇いなく一息に告げる。
「僕は、君が好きだ。もちろん、友人としてではなく」
口にすると、胸につかえていたものがすうっと下りていくような気がした。
そして再び、不安が襲う。
本当にこれで良かったのだろうか、と。
やがて壬生がゆっくりと起き上がり、如月の方を向いた。
暗闇に慣れてきた目が、壬生の表情を捉える。
引き結ばれていた唇が開くと、待ち焦がれていた言葉が零れた。
「……僕も、あなたが好きです。如月さん」
「壬生」
如月の心に安堵が広がる。
しかし壬生は申し訳無さそうに俯いてしまった。
「僕は卑怯でした。自分から言うべきだったのに、あなたを試すようなことをして……」
「そんなことは」
そのとき如月は、まだ外では強い風が吹き続けていることに気づいた。
そんな音さえ耳に入らないほど緊張していたのか。
なんだか自分が滑稽に思えて、如月は思わず笑いながら言った。
「そんなことは、もういいんだよ」
壬生も安心したのか、漸く微笑む。
相変わらず風が雨戸を鳴らしてはいたけれど、心の中はとても穏やかだった。
しかし、これからどうすればいいのだろう。
想いを確認しあったからといって、突然態度を変えるのも可笑しいだろうが、 今まで通りというわけにもいくまい。
暗闇の中、向かい合ったまま黙り込んでいるこの状況が妙に照れ臭くなって、如月はわざとらしく咳き込んだ。
「ん……その、こういうときは、なんて言えばいいのかな。ありがとう……だろうか」
場を持たせようと必死の思いで言った如月のセリフに、壬生がぷっと吹き出す。
「わ、笑うことはないだろう」
「すみません。なんだか如月さん、可愛いくて」
「かわ……っ」
如月が絶句している間も、壬生はくすくすと笑い続けていた。
可愛いなどと言われるのは心外だったけれど、それが壬生を笑顔にさせたのなら、それでもいいかと思ってしまう。
不意に込み上げてくる愛しさに、如月は思わず身を乗り出していた。
「……!」
自分の唇に如月の唇が重なっていることを知って、壬生は息を呑んだ。
そしてその唇が、ほんの僅か触れ合っただけで離れていこうとしたとき、壬生は咄嗟に如月の腕を掴んでいた。
「もう一度……して、ください……」
せつなげに呟く壬生の瞳が、まっすぐに如月を覗き込んでいる。
如月の体がかっと熱くなる。
「……紅葉」
如月は言われたとおり、もう一度唇を重ねた。

堰き止めていた想いが溢れ出す。
柔らかに触れ合っていただけの唇が、やがて強く押し付けられる。
互いの体を抱き寄せながら、いつしかくちづけは深いものへと変わっていった。
「は……」
緩く開かれた唇の隙間から、差し出した舌を絡め合う。
胸が苦しくて、呼吸が乱れた。
頭の中がぼうっとしてくる。
如月はくちづけたまま、無意識に壬生の襟元へと掌を這わせていた。
触れた肌の体温を吸い取りながら、その滑らかさと逞しさを味わう。
ゆっくりと壬生の体が倒れ、如月はその上に覆い被さった。
肌蹴て露わになった首筋から肩にかけてのラインを、如月の掌が何度も滑る。
「……ん…っ………」
「―――!」
小さく漏れた壬生の声に、如月は突然我に返った。
「すっ、すまない。僕は」
慌てて壬生の上から飛び退く。
鼓動が激しく鳴っていた。
「如月さん……」
「すまない、こんなことをするつもりじゃなかったんだ」
いくらなんでも性急過ぎる。
如月はそう自分を責めたが、壬生は酷く悲しそうに呟いた。
「……やっぱり、僕じゃ無理ですか?」
「えっ」
「……」
壬生は起き上がると、既に肌蹴ていた浴衣の袖を抜いて上半身を露わにした。
暗闇の中に、白い肌がぼんやりと浮かび上がる。
「く、紅葉」
「こんなことを考えている僕を、軽蔑しますか?」
「そんな、ことは」
壬生は如月の手首を掴み、自分の方へと引き寄せた。
「僕は、後悔しません」
「紅葉……」
僕だって後悔などしない。
如月は抱き寄せられるまま、壬生の首筋にそっと顔を埋めた。
そうだ、躊躇うことなどないのだ。
この先、二人にどんなことが起ころうとも、今このときを後悔などするはずがない。
如月は壬生の耳元に、改めて囁いた。
「好きだよ……紅葉」
「如月さん……」
首筋に落ちた唇が、鎖骨の方へと動いていく。
如月が壬生の帯を解くと、壬生も同様に如月の帯を解いた。
触れ合った肌の熱さに、理性が飛ぶ。
如月は壬生をもう一度押し倒すと、胸の尖りに舌を這わせ、もう一方を指先で摘まみあげた。
「く……っ」
痺れるような感覚に、壬生が思わず如月の背中を強く抱き寄せる。
それがまるで強請られているように感じて、如月はますます執拗にそこを攻めた。
「あっ…あ、……あ…」
如月が強く吸うたび、壬生の体が小さく跳ねる。
切れ切れに喘ぐ声は、如月が今までに聞いたことのない甘さを含んでいて、それだけで酷く興奮した。
次第に壬生の中心が勃ち上がって、如月の体に触れる。
それに気づいた如月はわざと自分の腰を押し付けて、そこをも同時に刺激した。
「は…っ……ん、あぁっ……」
壬生も腰を揺らし始める。
硬くなった中心同士が、布地越しに擦れ合う。
もどかしい快感に、二人は身を捩じらせながら、息を弾ませた。
「きさ、らぎさん……僕、にも……」
不意に吐き出された声に、如月が顔を上げる。
「僕にも……させて、ください……」
「えっ……」
壬生は起き上がると、今度は如月を押し倒した。
如月がうろたえる。
「ま、待ってくれ、紅葉。僕は」
「すみません。……我慢、出来ません」
壬生もまた、自分がされたのと同じように、如月の胸の尖りに吸い付いた。
「―――っ!」
初めての感覚に、如月の体が大きく震える。
生暖かく湿った舌が、円を描くようにそこを這った。
「あっ……くれ、は……」
自分もまたさっきの壬生のような声を出しているのかと思うと、如月は恥ずかしくて堪らなかった。
けれど快感には抗えない。
掌で口を覆ってみたものの、喉の奥からどうしても声が漏れ出してしまう。
「……ん……く…っ……ぁ……」
自分で自分が信じられなかった。
けれど胸元から香るシャンプーの匂いや、壬生の体の重み、肌の熱さ、 どれをとってもくらくらするほどに気持ちがいい。
やがて壬生の手が如月の足の間へと移動すると、如月は一際大きな声を上げた。
「あっ……!」
温かい掌がそこを包み込み、ゆっくりと扱いていく。
「あっ……だ、駄目だ、紅葉……それは……」
しかし壬生の手は止まらない。
ゆっくりと、けれど強く、布地ごと扱かれて、如月のそれはますます硬さを増していく。
先端にじわりと濡れるような感覚があって、如月は慌てた。
「く、紅葉、頼むから……もう…離してくれ……」
如月が本気で頼んでいるのが分かったのか、漸く壬生が手を止めた。
「イきそう……ですか?」
「ああ……」
普通なら恥ずかしくて答えられないはずの質問にも、何も考えられなくなっている今は、つい素直に答えてしまう。
心臓が激しく鼓動を打っていて、頭も体もじんじんと疼いていた。
壬生は残っていた下着を脱ぎ去ると、如月のもゆっくりと下ろしていく。
「そのままで……いてください」
如月はぼんやりとした頭のままで、壬生を見上げていた。
壬生は如月の上に跨ると、屹立にゆっくりと腰を落としていく。
体格のいい自分が受け入れる側になるほうが、如月の負担が少ないだろうと思ったらしい。
「紅葉……」
心配そうな如月の声に、壬生は「大丈夫です」と答える。
壬生は自分で後孔を開きながら、それを飲み込もうとした。
しかしそこはとてもきつく、簡単には入りそうにない。
「紅葉……待って」
如月は体を起こすと、壬生と向き合った。
「如月さん……?」
如月の手が壬生の後ろに回る。
指先が、そこに触れた。
「あ……」
「やめてほしくなったら、言ってくれ」
痛みを完全に取り去ることは無理だろうが、何もしないよりはいいはずだ。
如月は爪で傷をつけないよう、慎重に指を沈めていった。
異物を吐き出そうと収縮する皮膚を掻き分け、如月の指は壬生の内壁を探る。
「…う、あ……っ……」
中は熱く、ひくひくと蠢いていた。
如月が指を動かすたび、壬生は声にならない声をあげて身を捩る。
その肌にくちづけながら、如月はゆっくりと指を出し入れした。
―――入りたい。
そのとき、初めて如月はそう思った。
この中に入りたい。
彼と繋がりたい。
だからこそ如月は、その場所をゆっくりと確実に慣らしていった。
「如月さん……もう、大丈夫ですから……」
壬生が息を弾ませながら言ったので、如月は指を抜いた。
そしてもう一度壬生が、如月の上に腰を落としていく。
「……く…っ………あ……」
やはり猛烈な痛みと異物感を伴ったが、今度は壬生も途中でやめようとはしなかった。
「…っ……くれ、は……」
飲み込まれていく感覚に、如月も声を漏らす。
中の熱と柔らかさは、初めて知るものだった。
じわじわと蝕まれていくような快感は、罪悪感すら覚えるほどだ。
やがて根元まで包まれて、如月は夢の中にいるような感覚に半ば呆然としながらも尋ねた。
「紅葉……辛くないかい……?」
「辛いはずないです」
壬生がうっすらと笑う。
そのまま傾いてきた壬生とくちづけを交わした。
深く繋がった安心感と幸福感に、心の中が満たされていく。
舌を絡め合ううちに、壬生の腰が前後に揺れ始める。
如月も壬生の中を突くように、腰を突き出した。
「ふ……ん…っ……」
塞がれたままの壬生の唇から、声にならない声が吐息混じりに漏れる。
如月は壬生の腰に手を回し、彼の体を揺らした。
「…ん……は、ぁ……っ……」
堪えきれなくなったのか、壬生は唇を離すと、如月の肩に掴まりながら弓形に反る。
如月は壬生の中心に手を添え、同じリズムでそれを扱きあげた。
壬生の体の揺れが激しくなるにつれて、鈴口からは透明な雫が溢れ、如月の手を濡らした。
「あっ、如月さん……いい……」
搾り出すような声で壬生が呟く。
その低い声に煽られて、如月はますます彼を攻め立てた。
繋がった場所からは微かな水音がしはじめ、汗ばんだ肌の擦れ合う音と混じる。
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しながら、ただ無我夢中で相手を欲する。
「くれ、は……もう、無理だ……」
「僕も……」
二人の動きが、細かく早くなっていく。
今や恥じらいも遠慮も無く、ただ同じ高みを目指して縺れ合っていた。
「如月さん……もっと、強く……」
「紅葉……っ」
「ん……あ……はぁ、あぁっ、あ、イ…く……っ―――!」
喉を見せながら、壬生の体がびくびくと痙攣した。
如月の手の中から噴き出したそれは、二人の間に飛び散って肌を伝う。
「くれ……は…っ……」
恍惚の表情を浮かべる壬生を見上げながら、如月も息を詰める。
その瞬間、体の奥から何かが解放されたのが分かった。
突き抜ける快感に体が震え、頭の中が真っ白になる。
幾度も幾度も震えながら、二人は全てを吐き出した。
「は……」
力の抜けた壬生を抱いたまま、仰向けに倒れ込む。
汗と精に濡れた肌を重ねることさえ、今は不快に感じなかった。
激しく上下する胸が治まるには、少し時間が必要だった。

部屋に静けさが戻る。
ふいに雨戸を叩く強い風の音が聞こえた。
ずっと鳴り続けていただろうに、やはり聞こえていなかったようだ。
「風……明日には止むでしょうか」
壬生の呟きに、如月は掠れた声で答えた。
「ああ。きっと、止むよ」
けれど朝になり風が止んでも、嵐のような今夜の出来事を忘れることはないだろう。
二人は微笑みあい、もう一度くちづけを交わした。

- end -

2007.02.07


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