等しい熱
流される―――。
指先の動きに、肌の上を這う唇の感触に。
慣れない水音、強烈な圧迫感。
そんなものの全てが忌々しくて仕方が無いのに、身体は勝手に反応する。
「……っ……く……」
どんなに堪えようとしても、喉の奥から漏れる声。
「あっ……!」
自分で自分が信じられない。
どうしてこんな風になってしまったのだろう。
いつから、こんな風に。
「澳継……」
耳朶に唇で触れながら、龍斗が囁く。
背中に圧し掛かる重みで、布団についた手がぶるぶると震えた。
「イヤ、だ……やめろ……ッ……」
「……こんなになってるのに?」
そそり立つ中心が、龍斗の手の中でくちくちと音を立てる。
イヤだ。
イヤだ。
イヤだ―――。
「……ぐぁぁぁっ!!」
「!!?」
力任せに身体を反転させる。
振り上げた腕は寸でのところでかわされて、龍斗の髪を掠るに留まった。
「び、びっくりした」
半裸で尻餅をついている龍斗を、澳継は睨みつけた。
「……ふざけんじゃねぇッ……!」
悔しかった。
悔しくて、悔しくて、どうしようもなかった。
夜毎龍斗に言い寄られては、肌を重ねるようになって暫く経つ。
上手い言葉に乗せられて、慣れない愛撫に翻弄され、女のように喘がされる。
自分から求めたことなど、一度も無い。
けれど抵抗はいつしか形だけのものに成り下がり、そのささやかな抵抗さえも龍斗は楽しんでいるように見えた。
流されている―――。
自分だけが、龍斗のいいようにされている気がした。
組み敷かれ、貫かれる状況の何処にも、自分の意思が無い。
主導権が無い。
そんな時間を過ごすことが、とてつもなく悔しくなったのだ。
「二度と俺に触るな……!」
澳継が凄むと、龍斗は短い溜息をつきながら、部屋を出ていった。
夕立が止んだ後の、湿った空気が心地いい。
橙色の空に浮かぶ雲を、夕暮れの風が掃いていく。
澳継は縁側で、軒を落ちる雨粒の名残りをぼんやりと眺めていた。
あの日以来、本当に龍斗は自分に触れてこなくなった。
寝床に来ることは当然、鍛錬を共にすることさえなくなってしまった。
話はする。
笑顔を向けてもくる。
しかし以前のように肩を叩かれたり、頭を撫でられたりするようなことはない。
一切の接触を断っているのだ。
それは澳継自身が望んだことだった。
二度と触るな、という要求を、龍斗は忠実に実行しているに過ぎない。
けれどそれで澳継の気が晴れたかといえば、全くそうではなかった。
寧ろ気が抜けたような、物足りないような、酷く中途半端で落ち着かない気分になっただけだった。
澳継はそんな自分に苛立ちを募らせながらも、自分が言い出したことなだけに、どうすることも出来ずにいた。
「いやあ、ひどい雨だった」
快活な声を響かせて、九桐がやってきた。
夕立にあったようだが、何処も濡れている様子は無い。
澳継は九桐の坊主頭を見上げながら言った。
「何処に行ってたんだよ」
「ああ、師匠と王子までな」
「また骨董屋か? 物好きな奴らだな」
ははは、と九桐が明るく笑う。
しかし澳継は引っ掛かった。
一緒に出掛けたという、龍斗の姿が見えない。
「……た、たんたんはどうしたんだよ」
九桐は何も知らないというのに、龍斗の名前を出すのが妙に気まずい。
そんな澳継の躊躇いに気づいているのかいないのか、九桐が隣りに腰を下ろす。
「ちょうど龍泉寺の近くを通りかかった時、夕立にあってな。
そこで雨宿りさせてもらったんだよ」
「……ふぅん」
それで? 龍斗は? 急かしたいのを堪えていると、九桐が続けて言った。
「よくは分からないが、師匠が先に帰れと言うんでな。俺は一足先に戻ってきたというわけだ」
「……え?」
「もしかしたら今夜は泊まるかもしれん、とも言っていたな」
「なッ」
澳継は絶句した。
確かにもう、龍閃組と鬼道衆は敵同士とは言えない。
だが龍斗はあくまでも鬼道衆の人間ではないのか。
彼らと過剰に馴れ合う必要は無いはずだ。
澳継の中にふつふつと怒りが湧いてくる。
「……それであいつを置いて、のこのこ一人で戻ってきたのかよ」
突然機嫌を悪くした澳継に、九桐は目を丸くした。
「置いて、って……師匠が言うんだ。仕方が無いだろう」
「だからって!!」
澳継が声を荒げると、九桐が嗜めるように言う。
「落ち着け、風祭。師匠は確かに俺達の仲間だ。だが師匠にとっては、俺達もあいつらも変わらない。
どちらも同じぐらい、大切な仲間だと思っているはずだ。違うか?」
「……」
恐らく、九桐の言うことは正しい。
けれども澳継には納得出来なかった。
いや、したくなかったのかもしれない。
そんな澳継の苛立ちを、九桐はすぐに察した。
「お前の言いたいことは分かるさ。だが、師匠のことは師匠自身が決めることだ。
俺達にとやかく言う権利は無い」
違う。
そんなことで腹を立てているわけではない。
ただ、嫌なのだ。
嫌だという、それだけだ。
子供じみた言い分かもしれないが、それだけはどうしても譲れなかった。
澳継は意を決して立ち上がる。
「……連れ戻してくる」
「は?」
「あいつは俺のものだ!! あいつらには絶対、渡さねぇ!!!」
そう叫んで、澳継は廊下を走り去っていく。
本当は「俺のもの」ではなく、「鬼道衆の」と言いたかったはずなのだが、興奮しすぎていた所為か言い間違えてしまった。
そんなことは知らない九桐は、澳継の後ろ姿を唖然とした顔で見送った。
「あいつ……どさくさに紛れて、凄いことを言ったぞ……」
暗くなり始めた山道を駆け下りていく。
何がなんでも、龍斗を連れて帰りたかった。
触れられなくてもいい。
嫌われたのなら、それでも構わない。
だけど今動かずにいたら、このまま龍斗がこの村から離れていってしまうような気がした。
それだけは、嫌だった。
許せなかった。
自分から突き放しておいて、虫がいい話だということは分かっている。
それでも澳継は無我夢中で走った。
そのとき、澳継の行く前方に人影が見えてきた。
見覚えのある、白い胴着姿の男。
澳継の足が止まる。
「た……」
「あれっ……澳継?」
龍斗だ。
予想外の事態に、澳継は身動きが取れなくなる。
やがてすぐ目の前に立った龍斗は、不思議そうに首を傾げて言った。
「そんなに急いで、何処行くんだ? もう暗いぜ」
「あ、いや……お、お前こそ、なにやってんだよ」
「俺? 帰ってきたところだけど」
「は……」
当たり前のことのように笑う龍斗に、澳継の力が抜ける。
しかし拍子抜けするのと同時に、またしても怒りが湧いてきた。
何に対する怒りなのかは分からない。
龍斗は帰ってきたのだから、それでいいはずだった。
けれど、どうしようもなく腹が立つ。
ぶちまけなければ、気が済まないほどに。
「……なんで、帰ってくるんだよ」
「は?」
「なんで、帰ってくるんだよ?!
お前にとっちゃ、この村でもあの寺でも同じなんだろう?! だったら、帰ってこなけりゃいいじゃねぇか!!
なんで、帰ってきたりするんだよ!!」
「お、おい、澳継。どうしたんだよ」
うろたえている龍斗に、澳継は構わず喚き続ける。
滅茶苦茶なことを言っていると分かっていても、止めることが出来なかった。
「お前はいつもそうなんだ!! なんでもかんでも、手前勝手にばっかりしやがって!!
こっちの気持ちなんか……俺の気持ちなんか、考えちゃねぇんだろうが……!!!」
「澳継……」
肩で息をしながら、龍斗を睨む。
怒りの余り、涙が出そうになって、澳継は唇を噛んだ。
「……なんでそんな風に思われてんのかなぁ、俺……」
独り言のように呟いて、龍斗は足元の小石を蹴った。
その姿にほんの少し罪悪感を覚えたものの、前言を撤回する気にはなれない。
気まずい沈黙の中で睨み続けていると、龍斗がぽつぽつと話し出した。
「九桐から何を聞いたのか知らねぇけど、俺はこの村が今の俺の家だと思ってるよ。だから、帰ってきた。それだけの話だ」
嘘だ。
龍斗は嘘をついている。
澳継は問い詰めた。
「だったら……どうして九桐に、先に帰れなんて言ったんだよ」
「それは……」
「向こうに泊まるかもしれないとも言ったんだろう? 本当はそのまま帰ってこねぇつもりだったんじゃねぇのかよ?!」
「え、えっ?」
龍斗は、明らかに動揺していた。
それを見た瞬間、澳継の中に失望が広がる。
やはり、本当は帰ってこないつもりだったのだ。
龍斗を睨む澳継の視線はますます鋭くなり、とうとう龍斗は隠すことを諦めた。
今日の澳継には、誤魔化しが効かないらしいと悟ったからだ。
「……まあ、帰りたくねぇなと思ったのは本当だけどな」
ぽつりと本音を漏らした途端、澳継が再び激昂する。
「やっぱり、そうなんじゃねぇか!!」
「だから、ちょっと待てって!」
「なにを待つんだよ!! てめぇが言ったんだろうが!!」
こうなっては、話にならない。
次第に龍斗も腹が立ってきた。
どうして自分ばかり怒鳴られなければいけないのか。
澳継につられるように、龍斗の声も大きくなっていく。
「だっ……だいたい俺が帰りたくなくなったのは、お前の所為じゃねぇか!」
「はぁ?! なんで俺の所為なんだよ?!」
「お前の所為だよ!! お前、俺に二度と触るなって言ったの忘れたのかよ?!」
「……!?」
澳継が言葉を失う。
忘れてはいない。
確かに、自分はそう言った。
だがその話とこの話が、どう結びつくのかが分からない。
まさか、そんなことが理由で?
混乱して何も言えずにいる澳継を見て、龍斗は長い溜息を吐いた。
「……俺も男だから、好きな奴には触れたくなるよ。でもお前がああ言ったから、二度としないと決めたんだ。
ただ……我慢するのが、結構きつくてな」
そう言って、力なく笑う龍斗の顔を、澳継は呆然としながら見ていた。
「だから、向こうに逃げちまおうかと思った。思ったんだけど……やっぱり帰りたくなっちまったんだよな。
触れられなくても、お前の傍にいるほうがいいや、って」
「……」
澳継はまだ声が出せずにいた。
たかがあれぐらいのことで、龍斗が村に帰ってきたくないと思うなどとは、考えもしなかったのだ。
だいたい、あれからだって龍斗は、いつもと変わらぬ様子で過ごしていたではないか。
どうせ龍斗にとっては、自分勝手な楽しみがひとつ減った程度のことなのだろうと思っていた。
それなのに。
「俺は……ただ……」
澳継の胸が小さく疼く。
こんなのは、何かが違う。
確かに触るなと言った。
けれど、どうしてだろう。
龍斗から言われると、否定したくなる。
そうじゃない。
触れられるのが嫌なわけじゃない。
俺は、ただ―――。
「……悔しかったんだよ……」
龍斗の顔をまともに見ていられず、澳継は俯いた。
「いつもお前のいいようにされて……お前はいつも余裕のある顔して……」
「余裕、って……」
「俺ばっかり、みっともない姿晒して!! 恥ずかしい思いして!! すっげぇ、不公平じゃねぇか!! 馬鹿みてぇじゃねぇか!!
だから!! だから、俺は……!」
龍斗が、一歩近づいてくる。
そして息を呑んだ澳継の少し手前で止まり、僅かに眉根を寄せて呟いた。
「余裕なんか……ねぇよ」
「え……?」
「お前、アレの最中に俺のことなんか見てねぇだろ?」
「……」
それは、その通りだ。
恥ずかしさと悔しさで、いつもぎゅっと目を閉じているから、龍斗の顔などほとんど見てはいない。
与えられる熱、抉られる感覚、聞きたくもない音や声。
そんなものがぐるぐると自分を取り囲んで、なにがなにやら分からない状態にさせられる。
だから龍斗の体温や指先の動きは感じていても、その表情や様子にまでは気がいかなかった。
「……澳継?」
「えっ?! あ、ああ」
気がつけば、龍斗はすぐ目の前に立っていた。
あとほんの少し手を伸ばせば、届いてしまうだろう。
龍斗が澳継の顔を覗き込む。
「なぁ……本当に、もう駄目なのか?」
「だっ、駄目って何が……」
「本当に、俺には触られたくない?」
「……っ」
澳継は唇を噛む。
そんな風に尋ねられて、どう答えればいいというのか。
けれど、これこそが自分の望みだったのではないかとも気づく。
どこにも自分の意思が無いと思っていたのだから、今こそそれを口にすればいいのだ。
「俺、は……」
もう一度拒絶することは出来る。
そうすれば、今度こそ龍斗は本気でその要求を受け入れるだろう。
こんな風に、改めて澳継の気持ちを確認することは二度と無いはずだ。
けれど、それで本当にいいのだろうか。
ここ暫くの喪失感を、これから先もずっと抱えたままでいられるのだろうか。
それとも―――。
「……クソッ……!!」
澳継は龍斗の襟元を掴み、ぐいと引き寄せた。
そして自分自身に躊躇う暇を与えないよう、すぐに踵を上げ、背伸びをすると、龍斗の唇に自分の唇をぶつけるように重ねた。
「……!」
龍斗が息を呑んだのが分かる。
きっと驚いているのだろう。
澳継だって、自分のしていることが信じられないのだから当然だ。
目を閉じる直前に見た、龍斗の目を丸くした顔が瞼の裏に浮かぶ。
恥ずかしくて恥ずかしくて、強く押し付けるだけのくちづけを、澳継はすぐに終わらせようとした。
しかしそんな澳継を、龍斗は逃がさなかった。
離れていこうとした腰をしっかりと抱き寄せると、もう一度唇を奪う。
「んっ……」
呼吸を塞がれた息苦しさに、澳継が喉の奥から声を漏らす。
くちづけなど、どれぐらいぶりだろう。
考えている間に、龍斗の舌がするりと口内に滑り込んできた。
蠢くそれに澳継の舌はすぐに逃げ場を失い、絡め取られてしまう。
「うっ……ん……」
空白の時間を取り戻そうとでもしているのか、龍斗は余すことなく澳継の口内を犯していく。
抱き締められて圧迫された胸が痛いほどだったが、龍斗は決して力を緩めようとはしなかった。
唇が濡れ、溢れた唾液が顎を伝う。
絡まる舌の立てる音が、耳の奥に響く。
それだけで頭の中が霞がかって、ぼうっとしてくる。
漸く龍斗の唇が離れた頃には、澳継の目はすっかり潤んでいた。
「澳継……俺、もう我慢できねぇ……」
「え……?」
呟きの意味が汲み取れず、澳継はぼんやりと龍斗の顔を見返した。
辺りはすっかり暗くなっているが、間近に見る龍斗が酷くせつなげな表情をしていることは分かる。
「いい……よな……?」
答えない澳継に耐えかねたのか、龍斗は澳継の腰を抱えたまま後退りさせる。
足元が道端の草叢に入り込み、がさがさと音を立てた。
「ちょっ……なに……」
幾ら人通りが無いとは言え、こんな場所で何をしようというのか。
やがて太い木の幹に背中を押し付けられたところで、澳継は退路を失った。
「澳継……」
龍斗が名前を囁きながら、首筋に顔を埋めて唇を落とす。
その吐息がかかるだけで、澳継の肌は粟立った。
「……っ」
生暖かい舌先が首筋を往復しはじめる。
くすぐったさと、説明出来ない疼きに、澳継の身体が細かく震えた。
―――また、流される。
それは、恐怖にも似た感情だった。
澳継は龍斗の肩に置いた手に力を込めて、その身体を押し戻そうとする。
「ちょっと……待て、って……」
「待てない」
龍斗は澳継の手を取ると、それを自分の胸に当てた。
掌に伝わったのは、恐らく自分と同じぐらい速い鼓動。
「待てないよ、俺……」
掠れた声は、今にも泣きだしそうに聞こえた。
余裕など無いと言った、龍斗の言葉を思い出す。
あれは本当のことなのだろうか。
ただ自分が気づかなかっただけなのだろうか。
そう思って、龍斗を押し戻そうとしていた手から力が抜けた瞬間、龍斗がぐいと腰を押し付けてきた。
「あっ……!」
中心に熱を持った昂ぶりを感じて、澳継の身体の奥がずきんと痛む。
その熱は簡単に澳継に伝染して、下帯の中を少しずつ窮屈にさせていった。
「あ……ちょっ……やめ……」
澳継の弱々しい抵抗を、龍斗はものともしない。
着物の下にするりと手を差し込むと、前を肌蹴させながら、薄い胸板を弄る。
「くっ……う……」
小さな突起を指先で摘ままれ、そこから快感が走った。
澳継は拳を口に当てて、声を堪える。
しかし龍斗は執拗にそこを捏ね回した。
体中が痺れたようになって、力が入らない。
「…もっ……そこ……やめ、っ……」
「気持ち、いい?」
「……ッ」
頷くことも否定することも出来ず、澳継はただ荒い息を吐き出す。
その間にも下肢をぐいぐいと押し付けられて、澳継は今にも崩折れてしまいそうなほどに、足を震わせていた。
「澳継……」
「は…っ……」
帯を解かれ、履いていたものを下におろされる。
それからすっかり勃ち上がったものを、下帯の中から引き出された。
「あっ……!」
ちょっと触れられただけで、身体が大きく跳ねてしまう。
既に濡れそぼっていた先端が、夜の冷たい空気に晒されて羞恥心を煽った。
そしてそれと同じぐらい、甘い期待が身体を支配する。
龍斗と触れ合わずにいる間、ずっと冷め切っていた身体に、漸く熱が戻ってきたような気がした。
「澳継……ちゃんと俺を見ていろよ」
やがて龍斗も下肢を露わにすると、澳継の足を抱えあげた。
無理な姿勢に、澳継は呻き声を上げる。
それでも構わず龍斗は己の欲望を、澳継の内に突き立てた。
「あぁっ……! う、ぁっ……!!」
苦しさに、目尻に涙が滲む。
けれど苦しさだけではない何かが、澳継の中を満たしていたのも本当だ。
乱暴なほどの性急さで、龍斗は澳継を貫く。
突き上げられながら、それでも澳継はなんとか目を開いて、目の前の男を見ようとした。
「はぁ……ぁ……」
揺れる視界の中にあったのは、必死で澳継を求めている龍斗の姿だった。
きつそうに眉根を寄せて、汗ばんだ額に髪を張り付けて、荒い呼吸を短く吐き出して。
戦う時の真剣さとも違う、熱と欲に駆られた瞳がそこにはあった。
澳継の視線に気づいて、龍斗がにっと唇の端を吊り上げる。
その笑みだけで、澳継の奥が震えた。
「クッ……きっつ……」
締め付けられて、切羽詰った声を出しながら、それでも龍斗はどこか嬉しそうに呟く。
―――同じ、だったんだ。
恥ずかしいほどに感じてしまうのは、それだけ本気で求められていたから。
痛みも、熱も、全ては共有されていたものだったのだ。
そのことに澳継は、漸く気づいた。
「あっ……た、つと……」
「澳継……っ…」
「う、あっ……あぁッ………」
龍斗の首にかじりつく。
いつの間にか澳継も、自ら腰を揺らして龍斗を求めていた。
繋がる場所の熱が、ほんの少しの悔しさを残しながらも、心の内にあった蟠りを溶かしていく。
「……はッ…ん……っ…」
突き上げられながら、唇をも塞がれる。
それにも澳継は必死で応えた。
もう訳が分からない。
呼吸が、汗が、体温が、全てが龍斗のものと混じり合って、どちらがどちらのものなのかも分からない。
けれど、それでよかった。
それこそが、望んだことだった。
自分と龍斗は対等なのだと、感じたかった。
「ん……あっ………ぅあ、っ……」
「おき、つぐ……俺、もう……ッ…」
龍斗の動きが激しくなる。
深く打ち込まれたそれが、澳継の中で解放のときを迎えようとして震えている。
互いの間に挟まれた澳継の中心も、同じだった。
それでも澳継は、にやりと笑ってみせる。
「……先に……イって、いいぜ……」
「チッ……次は…覚えてろ、よ………ッ―――!!」
憎まれ口を叩いた直後、龍斗がぶるりと大きく震えた。
同時に身体の奥で、熱が迸るのを感じる。
「あ、っ……く……」
龍斗は歯をくいしばり、それを最後の一滴まで残さず澳継の中に注ぎ込んだ。
けれど先に達してしまったことが悔しくて、それからすぐに澳継のものを握り、激しく上下に手を動かす。
「う、わっ……あ、あぁッ……!!」
限界まできていた澳継のものからは、すぐに精が噴き出した。
その焼けつくような熱さに、澳継は嬌声をあげる。
勢いよく飛び散ったそれは澳継の肌と龍斗の手を濡らし、やがて地面に零れていった。
「あ……はぁ……はぁ……」
不安定な体勢のまま、二人は弾む息が整うのを待った。
鬱蒼とした夜の森は、不気味なほど静かだ。
互いの呼吸する音が、やけに大きく聞こえる。
「澳継……」
龍斗が離れる。
名を呼ぶ声は、やけに遠慮がちだ。
「なんだよ……」
「……」
龍斗は何も言わず、心配そうな顔で澳継を見つめている。
澳継はイライラした。
「だから、なんだよ。言えよ」
「うん……俺、もうお前に触っても良くなったの?」
「……」
こんなことになっているのに、今更何を言っているのだろう。
澳継は思わず吹き出した。
「お、前……馬鹿だろうっ? そうだろう?」
「はぁ?! 俺は真剣に……」
「だから馬鹿だって言ってんだよ!」
笑いながら身形を整える澳継を見て、龍斗も慌てて着物を直す。
「おい、澳継。俺は真面目に聞いてんだぞ? ちゃんと答えろよ」
「うるせぇなぁ。いいから、もう帰ろうぜ」
「澳継!」
さっさと歩き出した澳継を、龍斗が追いかける。
澳継はすっかり、清々しい気持ちだった。
この後、屋敷で九桐から『龍斗は俺のもの』発言についてからかわれることになるなど、知る由も無く。
- end -
2007.08.04
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