Inside Out


カーテンを開けてよ。
濃い闇の中で漸く肌を重ねた途端に言われ、げんなりした。
開けてほしいと強請る理由などどうでもいい。
ただ、そういうことは服を脱ぐ前に言ってもらいたかっただけだ。
思ったが、口には出さなかった。
渋々ベッドを降りて窓辺に立つ。
古ぼけて薄汚れたカーテンを開けると、 長いこと磨かれていないと思われる曇った窓硝子が現れた。
月は出ていない。
それでも冴え冴えとした夜の空気を遮断するものがなくなったことで、 部屋の温度は少し下がったような気がした。
「これで宜しいですか?」
「うん」
夜陰の中で蠢く白い肌は、まるでそれ自身が弱い光を放っているかのようだ。
その上にもう一度覆い被さって唇を重ねる。
細い腕が蔦のように伸びてきて、首に絡んだ。
「ふ…んっ……」
鼻に抜ける甘い声をあげて、舌を挿し入れてくる。
指先に取った癖の無い髪は、さらさらと零れて落ちた。

身体を重ねるのは何度目か。
いつかはこうなると予感していた。
根拠は無かった、というよりも理由付けすることを避けていた。
胸の小さな尖りを指先で押し潰してやると、喉の奥で喘ぎながら薄い背中を反らす。
その反応が気に入って、執拗に同じ場所を攻めたてた。
指先で摘み、強く引っ張る。
引っかくように爪を立てると、びくびくと身体を震わせてしがみついてきた。
肩に食い込む指先が痛い。
やがて解放した唇は、濡れて色を鮮やかにしていた。
「……お前は変わってるね」
嘲笑を含んだ、掠れぎみの声で言う。
「何がでしょう」
「だって」
今度ははっきりとした笑いを漏らす。
耳に残る厭な笑いだ。
首筋の皮膚をきつく吸うと彼は笑いを止めて、あ、と短く声を出す。
紅くついた痕を舌先で舐めた。
「気持ち悪くはないの?」
「別に」
「やっぱり変わってる」
また笑う。
脇腹の辺りを撫でると擽ったそうに腰を捻り、そのかわりに足を絡めてきた。
半ば立ち上がっているものが下肢に当たる。
もう一度唇を塞ぎながら抱き寄せた。
彼は自ら腰を揺らしてそれを擦りつけ、息を乱していった。

不思議な生き物だ、とは思う。
今までに見たことが無い。
有機物と無機物のちょうど中間のような存在。
掌のすぐ下にあるしっとりと汗ばんだ肌さえ、どこか現実味が薄い。
少年のままの身体。
自分が欲情しているのは少なくともこの身体ではない、恐らく。
もっと他の何かだ。
「あっ……」
抱え込んでいた双丘の間に指を滑らせる。
窪みに指先を沈めると、そこは誘うように収縮を繰り返した。
「ん、っぅ……」
彼はますます腰を揺らす。
少し指を沈めてはまた抜く。
そのうちに堪えきれなくなったのか、互いの身体に挟まれた二つの屹立を一度に握り締め、自分で扱き始めた。
はぁはぁと荒い息を吐き出しながら額を押し付けてくる彼の髪にくちづける。
指の数を増やしてやると、彼の手の動きも速くなった。
「…っく……」
突然、強引に身体を入れ替えて覆い被さってくる。
きつい目で睨まれて、今度はこちらが笑ってしまった。
「……もう、ですか?」
「煩い」
馬乗りになって自ら後孔を開き、彼はゆっくりと腰を落としてくる。
普段から高慢な態度を崩さない彼のこんな痴態を見られるのは、なかなかに楽しい。
「あ……あぁ……っ……」
喉を見せて喘ぐ彼の中に、少しずつ少しずつ呑み込まれていく。
引き攣るほどに締めつけてくる内側は驚くほどに熱く、 彼を包んでいる白すぎる肌からは想像もつかない。
最後まで腰を落としきると、僅かに緊張が解ける。
彼は口元にうっすらと笑みを浮かべ、それからゆらゆらと身体を揺らし始めた。

「あっ……はぁ、っ…あぁ……っ…」
膝立ちになって自分で動きながら喘ぐ。
開きっぱなしの唇から時折覗く紅い舌が酷く卑猥だ。
彼の視線は何処までも虚ろだがそれは陶酔とは程遠く、強いて言えば狂気を感じさせた。
動きに合わせて、安物のベッドが耳障りな音を立てる。
「……どうし…て……」
切れ切れの息を吐きながらの呟きに、一瞬空耳かと疑う。
「……なんです?」
動くことを止めないまま、彼は喘ぎ混じりに問いかける。
「…ど、うして……っ……僕を…抱ける……?」
「……」
彼は自然の摂理に逆らって生まれた。
ただ一人の歪んだ望みのため、忌むべき手段で造られた。
だが目の前にある身体は、何から出来ているにしろ、こうして生きている。
そそり立つ中心を握り、濡れて鈍く光っている先端を擦ってやった。
「んっ、あぁ……っ」
余程気持ち良いのか、堪らなさそうに頭を振る。
乱れた髪が汗ばんだ頬に貼り付いた。
「…っ……も、っと…………」
「……」
要求に応じて握る力を強める。
それと同時に胸の粒を捻ってやった。
「あぁっ…!」
一際高い声があがり、動きが激しくなる。
白い肌がここへきて漸くほんのりと朱を帯びてきた。
解放を求めて戦慄く身体を支えて、下から深く突き上げる。
ベッドの軋む音が喧しい。
足元から腰の辺りへと、快感が這い上がってくる。
「あ、あっ……あぁっ……はぁ…ぁっ―――…!!」
喉に貼り付いたような悲鳴をあげ、彼の身体が大きく撓った。
「あっ…あ……あぁ……っ……」
背中を弓なりに反らせ、びくびくと跳ねながら何度も欲望を吐き出す。
だらしなく口を開き、薄い胸を突き出して、何度も。
どろりとしたそれが自分の上に飛び散る様を眺めながら、彼の中に同じものを吐き出した。
「は、ぁ……ぁ……」
繋がったまま彼が倒れ込んでくる。
その背中に手を回してやったのは単なる惰性だ。
条件反射とも言うだろう。
合わさった胸からは互いの激しい鼓動が伝わってきた。
やがて彼は肩先に頬を押しつけたまま、動かなくなった。
空気の流れが淀む。
窓の外で虫が鳴いていた。
「ねぇ……どうして……?」
彼はさっきと同じ言葉を口にする。
正体を知りながら、どうして抱けるのかと。
変わっていると笑い飛ばして終わりにすればいいものを、彼は理由を知りたがる。
知ってどうするというのか。
「……あなたが何で出来ていようと、私には関係の無いことです」
「……」
肉体に興味があるわけではない。
欲情しているわけでもない。
避けていた理由付けを迫られ、暫く考えて答えた。
「ただ私はあなたの中に何があるのか、が知りたい」
「僕の……中……?」
彼の身体が僅かに緊張した。
「そんなこと知ってどうするの?」
自分が持っていたのと同じ疑問を投げかけられて、心の中で笑う。
似た者同士だとは思いたくなかった。
鼓動はすっかり落ち着きを取り戻している。
虫の声がぴたりと止んだ。
「知らないままに、あなたを死なせるわけにはいかないからです」
同じ景色を見ることが出来ないのならば、彼自身から知るしかない。
それを知らずに彼を殺すことは出来ないし、したくもなかった。
だがそれ以上でも、それ以下でもない。
知ってどうするということもない。
まるで余計な情を持ち過ぎるなと言い聞かせているようだ。
そんな自分が少しだけ可笑しかった。

彼はじっとしたまま、いつまでも動こうとはしなかった。
今の答えをどう思ったのだろう。
再び冷えていく身体を、緩く抱き締めてみた。
今度は多分、惰性ではなかった。

- end -

2003.02.14


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