It's delicious


我ながら会心の出来だ。
完成する前から、匂いで分かる。
これで不味かったら、俺は二度とカレーを作らないと誓ってもいい。
「よし、後は煮込むだけだな……っと、うおっ!?」
鍋に蓋をした瞬間、背後から腰の辺りをするりと撫でられた。
突然だったのと、その感触が気持ち悪かったのとで、 俺は手にしていたおたまを落としそうになるほど、飛び上がった。
「なにすんだ、バカ!!」
怒鳴りながら振り返れば、不貞腐れた顔をした九龍が、すぐ後ろに立っていた。
「だってさっきからここにいるのに、ぜんぜん気がつかないんだもん」
「俺はカレーを作っていたんだ。仕方がないだろう」
「もう俺は、待ちくたびれました……」
力無く言って、九龍は項垂れる。
確かに、だいぶ長い時間こいつを放置していたような気もする。
しかし美味いカレーを作るためには止むを得ないことだ。
諦めてもらうしかない。
俺は鍋の下を覗き込みながら、火力を調節した。
「だいたいお前が、急に帰ってくるから悪いんだろうが。 前もって分かっていれば、昨日から準備しておけたんだ」
「はいはい、分かりました。ごめんなさい。俺が悪かったです」
形勢不利を避ける為か、九龍は俺の言い分を軽く流すと、背中に抱きついてきた。
まったく調子のいい奴だ。
「甲ちゃんのエプロン姿……俺、好きだなあ」
「気色悪いことを言うな。そんなもん褒められても嬉しくない」
「いいお嫁さんになると思うよ、うん」
「誰が、誰のだ!!」
んふふ、と思わせぶりな笑い方をしながら、うなじに唇を寄せられ、首筋に吐息が掛かる。
俺がくすぐったさに身を捩ると、九龍はますます身体を密着させてきた。
「なあ、後は何もすることないんだろ?」
「そうだな。おとなしく待つだけだ」
「じゃあ、その間にさぁ……」
顎に肩を乗せ、耳朶を噛まれる。
前に回っている両手が、妙なところを弄り始める。
「おい、止せって……」
「だから、待ちくたびれちゃったんだってば」
「……」
なるほど。
待っていたのは、カレーじゃないってことか。
せっかく今日は奮発して、上等の食材を揃えたシーフードカレーだっていうのに。
懐は痛くとも、一ヶ月振りに会えた九龍に俺がしてやれることといったら、これぐらいしか思いつかなかった。
しかし九龍は人の気も知らずに、身体を摺り寄せてくる。
とりあえずはセーターの中に入り込もうとしている右手を、捕まえて阻止した。
「……分かった。分かったから、ちょっと一旦離れろ」
「いやだ。このままがいい」
「ここでかよ?」
「うん。エプロンもしたままがいいな」
「……言っておくが、嫁扱いはお断りだからな」
変態染みたリクエストに嫌な予感がして釘を刺すと、九龍はぴたりと動きを止めて、そろそろと手を引っ込めた。
やっぱり、ロクなこと考えていやがらなかったんだな。
俺は九龍を睨みつけた。
「九ちゃん、お前な……」
「いやあ。たまには、どうかなと思って」
「冗談じゃないな。断固、拒否させてもらう」
がっかりしている九龍に、勝利の笑みを見せつけてやる。
それから俺は身体を反転させて、九龍の方に向き直った。
鍋の中のカレーが少々心配ではあったが、俺の方も久し振りの接触にやや煽られ気味だ。
腰を抱き寄せてすぐに唇を重ねると、九龍が鼻に抜けるような甘い声を漏らす。
「んっ……」
いつものように唇が開き、蠢く舌を捉えて絡めた。
早々にシャツの中に手を入れて、直接その背中を抱く。
掌に伝わる、無数の痕。
痛々しくもあるが、こいつが九龍の証であるようにも思えた。
「甲太郎……」
寝惚けたような声に、思わず失笑する。
待ちくたびれた、という九龍の言い分は本当だったらしい。
押し付けられたそこは既に、通常とは違った質量を伴っていた。
どうやらもう、少しも待てなさそうだ。
「せっかちな奴だな。だったら、自分で脱げよ」
少し恨めしげに俺を上目遣いで睨んだ後、九龍は自らベルトを外してジーンズの前をくつろげた。
俺はその隙間から下着の中に手を入れて、双丘をわざと乱暴に掴む。
「ちょっ、痛いよ。もっと優しくして」
「何が優しくして、だ。そんなこと言う柄かよ」
「なんでー」
唇が触れそうな距離で、半分笑いながら言い合う。
そのまま指先で後孔を探ると、九龍がびくりと身体を震わせた。
「あっ……」
指を奥に進め、中で動かしてやる。
九龍はぎゅっと目を閉じて、強くしがみついてきた。
「あっ、あっ、そこ……」
「ふぅん……?」
指を増やす。
九龍の足ががくがくと震えているのが分かる。
滑る内壁を擦りあげると、一際高い声があがった。
「あっ、ちょっ、それ、やばいっ……!」
「やばいぐらい、いいってことか? まったく、すっかり開発されやがって……」
「誰が……したんだよ……っ……」
しがみつかれるのが面白くて、思い切り掻き回してやる。
九龍は自分のものを俺に擦り付けながら、跳ねるようにして喘いだ。
「やっ、やだ……マジで、やばいって……! 甲太郎!」
「うるせぇなぁ」
やかましい唇を塞ぐと、九龍はもどかしげに腰を揺らしながら舌を絡めてくる。
会うたびにいやらしさが増してきているようだが、気の所為だろうか。
単に短い逢瀬を存分に楽しみたいということならいいが、やはり俺の目の届かない所でこいつがどう過ごしているのかは気になるところだ。
「……なあ、九ちゃん」
思わず唇を離して名前を呼ぶと、九龍は恍惚とした表情で俺を見上げた。
「……どうした? 甲太郎」
「いや……」
信用してないわけではない。
ただ心配なだけだ。
けれどそれは九龍も同じことなのかもしれない。
俺達は会えない寂しさと、触れ合う悦びを共有している。
まっすぐに見つめてくる九龍を目の前にして、俺は馬鹿げた言葉を飲み込んだ。
「なんでもない。それより、こっちに手つけよ」
俺もそろそろ余裕が無くなってきた。
カレーの具合も気になることだし、さっさと先に進ませてもらおう。
九龍は頬を上気させながら溜息を吐くと、言われた通りシンクの縁に手をついた。
俺もいい加減間抜けすぎるエプロンを外して、硬くなったものを九龍の後ろに突き立てる。
「あっ、はぁ……っ……」
緊張に強張っている場所に、少しずつ入り込んでいく。
九龍のそこが嬉しそうに、俺を受け入れていくのが見えた。
「あんまり時間が無いから、動くぞ」
カレーが出来上がるまで、もう少し。
俺は性急に腰を動かして、九龍の中を貫いた。
「あっ……やっ……! う、あっ……」
いきなりの感覚にがくがくと身体を揺さぶられながら、九龍が歓喜の声をあげる。
前に手を回して、同時に九龍のものを擦ってやると、先端からは早くも大量の蜜が溢れた。
「甲、太郎……俺……すぐ、イッちゃいそ……っ……」
「そうしてくれ」
「なんでっ……やだ……」
勢い良く突き上げると、九龍は顔を左右に振った。
やっぱりここで始めたのは失敗だったか。
カレーの鍋が視界に入って、没頭しきれない。
「いいから早くイけよ。そろそろカレーが出来上がる」
「なんだ、よ……! 甲太郎……俺より、カレーが、大事なのかよ……」
「そうは言ってねぇよ」
カレーが大事なんじゃなくて、お前に美味いカレーを食わせることが大事なんだよ。
そのために日々修行してるんだからな。
俺は手加減せずに、激しく九龍を攻め立てた。
「あっ、甲太郎……マジで、もうイクって……っ……」
「だから、いいって言ってんだろ」
「……あっ……やだ……は……あっあぁぁっ……!」
九龍の背中が大きくしなって、俺の掌の中にあったものから精液が噴き出す。
ぐっと締め付けられて、こっちも終わりが近づいてくるのを感じた。
「は、ぁっ……あぁ……はぁ……」
「ちょっと、待て……俺も……」
脱力しかかっている九龍をそのまま突き続ける。
身体を焦がす熱が、出口を求めて全身を駆け巡る。
「っ……く……!」
息を呑んだ瞬間、全てが一点から放たれた。
腰を打ちつけながら、俺はそれを九龍の中に一滴残らず注ぎ込んだ。
「はぁ……はぁ……」
「甲太……郎……」
しばらくは繋がったまま息を弾ませていたが、 俺が九龍の中から出ると、吐き出したものが溢れて九龍の内股を伝っていく。
気持ち良かったものの、なんとも忙しなかった感は否めない。
「……満足したか?」
「サイコー……」
振り返って親指を立てて見せる九龍に苦笑しながら、俺はとりあえず鍋の火を止めた。

「あー、美味しかった! やっぱり甲太郎の作るカレーは最高だね」
九龍は綺麗に空になった皿を前に、両手を合わせて頭を下げた。
「それはなによりだったな。おかわり、いるか?」
「いや、もうお腹一杯です。ご馳走様。でも……」
「あ?」
不意に不満げな顔になって、九龍がぼやく。
「やっぱり食べ終わるまで、待ってるべきだったなぁ」
「……今更、何言ってんだ」
「だってセックスしてる最中にまで、カレーカレー言われるとは思わなかったんだよ」
「待てないお前が悪いんだろうが」
「でもな〜」
相手にしていられない。
しかし皿を片付けようと伸ばした俺の手を、九龍は掴んだ。
「……なんだよ?」
「あの、おかわり、欲しいんですけど」
「はぁ? お前、さっきいらないって」
「いや。そっちじゃなくてさ」
「……」
九龍はにこにこ笑っている。
俺は呆れて溜息を吐いたものの、その申し出を断ることは出来ないだろうと思った。
美味いものは幾らでも食いたくなる。
そういうものだ。

- end -

2007.05.07


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